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THE UNSEEN(1980) @IMDB
ビデオ発売時には「恐怖のいけにえ/呪われた近親相姦の館」と、サブタイトルがついていたようです。普段、こうして色々書いていると、あらすじの中で「死ぬ」とか「殺す」とか、特にホラー映画の場合、よく出てくるわけですが、実際の人の死は軽々しく話す事ではありません。
それなのに、慣れというか、フィクションの世界では気楽に使えてしまうものです。よくも悪くも、それは「死」というものが人の暮らしの中に常に存在しているからでしょうか。単に道を歩いているだけでも「ここで信号無視したら死ぬかも」と思う事があったり、「ここから落ちたら死ぬ」と思ったり。
という事で、この作品。これもフィクションなのでどんな事でも気軽に書けるかな、というと、そうでもない。ビデオ版のサブタイトルから連想できるように陰惨な要素も含まれています。なので、ここではあらすじは割愛。
この段階で「この作品はちょっとパス」という人が多いと思いますが、ここではこの「ソフト」について書きます。まず、またしても特典てんこ盛り。本編の字幕は90分で600枚弱なので少ないのですが、音声解説(オーディオコメンタリー)があり、これが1500枚くらい。さらに特典映像が100分近くあるので字幕の合計は3300枚近くになりました。先日の「悪魔の墓場」が2000枚少しで、それでも多いという感じでしたが、今回は1.5倍以上なので、本当に多いです。
本編自体は見る人を選ぶ作品ですが、コメンタリーの内容が興味深いです。まず、製作当時の人間関係。どうやら監督はスタッフの信望をあまり得ていなかった様子。コメンタリーの翻訳もこれまで色々やってきましたが、ここまで信望の薄い監督は珍しいのではないかという印象です。「ピーター・フォレグ」という監督の名前も実際はアラン・スミシーで、本当はダニー・スタインマンだそうです。
演出上のこだわり、セットへのこだわり、様々なこだわりがある中で仕上がった本作は、コメンタリーを聞く限りでは、「よくできたな」と思いました。個人的にはプロデューサーを務めたアンソニー・アンガーのコメンタリーの内容が興味深かったです。彼はピーター・セラーズとリンゴ・スター主演の「マジック・クリスチャン」を製作していて、その当時の逸話を披露し、さらに「ナバロンの嵐」での縁からバーバラ・バックに本作の出演を依頼したといった話も聞けます。この作品の撮影中にバーバラのところには「おかしなおかしな石器人」の出演依頼が来たとか、リンゴと出会う前の彼女の話とか、ピーター・セラーズとブリット・エクランドの話とか、こうした本作以外の話が、このソフトのオーディオコメンタリーには多く入っていて楽しいです。僕自身はピーター・セラーズが大好きなので、彼の性格についてアンガー氏が語るところが面白かったです。こうした情報がこの作品に入っているとは、それに興味がある人は知る由もなさそうなタイトルなわけですが…。もちろん、そればかりではなく本作の撮影裏話も色々語られ、そちらも興味深いものがありました。こうした周辺情報を知りつつこの作品を見るのと、何も知らずに見るのとでは大違いの作品です。(そういう見方が正しいのかどうかは微妙な面がありますが。)
それからタイトルロールを演じたスティーヴン・ファーストは、以前SFチャンネル用に僕が訳した「バビロン5」のモラーリ大使の部下役なのですが、彼の人柄が何だかほんわかしていてよい。(彼は「アニマル・ハウス」にも出ています。2人息子がいて、長男の名前はネイサン。兄さんなのにネイサン…。)さらに「カッコーの巣の上で」に出ていたシドニー・ラシックの逸話も楽しく。(この人も役柄とは違い実際に「いい人」だったそうです。)それからバーバラ・バックの妹役を演じたカレン・ラムの恋愛遍歴(ビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソンと2回結婚し、本作の撮影当時は「トミー」のプロデューサーの1人でもあった、ロバート・スティグウッドだった)とか、何が言いたいのかと言うと、先に書いたように、こうした周辺情報を知りつつ見ると、この作品、不思議なくらい印象が変わってしまうのです。
さらに本編のストーリーとは関係ないのですが、カレン・ラムの本名はバーバラ。バーバラとカレンが演じた姉妹の名字がファースト。年をとったスティーヴン・ファーストはシドニー・ラシックにルックスが似ていて…。ってどんどん話が脱線していきますが、こういう情報を知りつつ本編を見ると、もはやホラーではなくなってしまったりします。
これは困った話です。実際、映画を見るというのは、そういう事ではないと思いますが、この作品に関して言えば、そんな見方をして楽しむのも一興かと思います。
ところで、この物語に出てくる町SOLVANGですが、字幕的に少し悩みました。カタカナ表記。スペルから考えるとソルヴァングになります。でも文字数を減らしたいのでソルバング。と、まず思うわけですが、この町は1911年にデンマーク系移民がカリフォルニアに作った町で、デンマークの伝統を今も守り続ける町。分かりやすく言うと町全体が長崎のハウステンボスみたいな、志摩のスペイン村みたいな、「デンマーク村」のような所です。20年近く前に僕も行った事がありますが、地元の人はソルバングよりソルバンクに近い発音をします。という事でソルバンクに落ち着きましたが、ネットで調べるとソルバングとソルバンクの両方とも使われている感じでした。(でも、これってソルマックっぽいよね…、と思いつつ。)
と、まあ、本当に取りとめもなく書いてしまいましたが、「ソフト」として見どころがいっぱいある作品でした。興味がある人はどうぞ。もちろん、ホラー映画としても十分陰惨な話です。