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2009/12/05

craziess.jpg「ナイト・オブ・ザ・リヴィング・デッド」や「ゾンビ」などで有名なジョージ・A・ロメロ監督による細菌兵器をめぐるパニックもので、ちょうど、上記2作品の中間のような風合いの作品です。「ワクチンを早く作らないと」という話は新型インフルエンザにもダブる話で、テーマは現代に通じるものがあります。日本では劇場未公開ですが、フジテレビの「ゴールデン洋画劇場」で放映されました。その時のタイトルは「第2のカサンドラ・クロス事件!?/細菌兵器に襲われた街」だったそうです。そこからも分かるように「カサンドラ・クロス」、さらには「アウトブレイク」とも似たテーマを扱った作品です。(「第2の」といっても、こっちの方が先に作られた作品であって、「カサンドラ・クロス」の公開に合わせてテレビ放映されたものだから、こういったテレビ放映タイトルになったわけですが。)

舞台になるのはペンシルバニア州の、とある架空の町「エボンシティ」。この町の近郊に空軍の輸送機が墜落した。この輸送機が運んでいたのが、不幸な事に強力な細菌兵器で、エボンシティは軍によって封鎖される。戒厳令を敷く軍。住民が外部に出て全米に細菌が拡がらないようにと住民狩りが行なわれる。もちろんフィクションですが、未知の病原菌が拡がったら、どのような事態になるのかの一考察として、興味深い仕上がりになっている作品です。

低予算作品なのですが、それが色々な意味でパニック状態の人々をリアルに見せている部分が多々あり、そこが面白いです。病原菌に感染した人が正気を失っているのか。それとも彼らを閉じ込めようとする軍の人達が正気を失っているのか。「ザ・クレイジーズ」というタイトルには、それを観客に考えさせる意味が込められています。国内に細菌兵器を拡散させてしまうという失態を、どのように収束させるか。そもそも、この細菌兵器は秘密裡に開発されていたため、その存在を公表せず、どのようにこの町の戒厳令を全米に伝えるか。政府と軍の首脳達は悩みます。「核爆弾を落とすしかない」「細菌兵器の開発を認めるよりはマシだ」と、また例に漏れず核兵器を出してくるのですが、ここで面白いのが、彼らは深刻な話をしているのに、最初の会談場面ではコーヒーを飲み、オレンジを食べる。次の会談場面ではピクルスのアップから始まり、サンドイッチを食べています。「核を落としましょう」といった最も深刻な相談をする場に、くつろぎの空間があります。逆にエボンシティでは白い防護服姿でガスマスクをした兵士達が、土足で一般の民家に押し寄せ、略奪行為にも及びます。

何かを食べるシーンというのが、この作品には他にも2つありますが、1つは住民を追い出した後、その家でくつろぐ兵士達。そして、その兵士を倒し、その民家で休む主人公達です。兵士は銃を持ち、その後に来た主人公達も彼らから奪った銃を肩にかけて食事をします。この緊急事態の中での食事も、「ザ・クレイジーズ」の意味を考えさせられます。

低予算ならではの、「この展開はないだろう」的な部分もありますが、「ザ・クレイジーズ」の意味を考えれば考えるほど、「この展開はないだろう」と思えば思うだけ、「本当にパニック状態になったら、むしろあり得るのかも」と思ってしまうような作品でした。

この作品、翻訳していて楽しかったのが、ライダー少佐でした。妙に職人的な軍人で、妙に人間味があり、共感できる存在といった感じで、「どのセリフ」というわけではないのですが、親しみやすい。

逆に困ったのが首脳部の会談場面です。出てくるのは4人。どうやら軍首脳1人、政治家1人、顧問的な民間人2人なのかと思いますが、彼らの上下関係が年齢だけでは判断しずらく、ざっくばらんに話させていいのか、丁寧語を使い合うべきか、難しかったです。結局、丁寧語にしましたが、実際、どういう設定だったのか、知りたいところです。(小ネタですが、住民の1人としてロメロ監督自身が一瞬出てきます。それから作品中の大統領もロメロ監督が演じています。後頭部が映っているだけだけですが。)

それから、最後に舞台となる町の名前。これは最後の最後まで判断に迷いました。最初に「エボンシティ」と書きましたが、ペンシルバニア州にはEvans Cityが実在し、この作品のロケもそこで行なわれています。吹替え版では、実際に「エバンスシティ」になっています。ただ、ダイアローグリストではEbonn Cityになっているのです。

このダイアローグリストは映画が完成した後に、そのセリフを聞き起こした原稿ですが、それを作ったのはニューヨークの会社です。実際、素材を見ていてもエバンスシティには聞こえません。Ebonnというスペルは独特だし…。

さらに困った事に、本編の画面上にも「ペンシルバニア州エバンスシティ郵便局」の建物の外壁がしっかり写り込んでいるカットがあります…。

さらに「吹替え版ではエバンスシティと言っている」と聞いて…。困りました。結局、英語のセリフが聞こえる字幕版ではダイアローグリストの聞き起こしをした人を信じ、「エボンシティ」にして、英語のセリフが聞こえない日本語吹き替え版は(画面上にも地名が出てくるし)、「エバンスシティ」でいくという事になりました。

この作品は12月21日発売予定です。

2009/12/05 11:27 | 翻訳作品(映画) | No Comments

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