HANGMEN ALSO DIE(1943) @IMDB
戦争関係の映画が続きますが、久しぶりのフィルム上映です。
東京の下高井戸シネマで2010/12/9(木)~12/11(土)の間上映されます。
これは昭和18年の作品。それだけで、この作品はすごい作品です。“ナチスと市民の攻防戦”とか“反ナチ映画の傑作”とか、そういうキーワードもぴったりですが、単に手に汗握るローラーコースター作品という言い方もできるくらいの作品です。(もちろん、白黒で1943年製作ですから、ダイ・ハード的なノンストップアクションを期待して見たら、のんびりしていて退屈な作品になるだろうし、それしか期待したくない人にとっては時間のムダだと思います。)
映画鑑賞の醍醐味の1つは、その時代に我が身を没入させる事から得られます。作品が描く時代と世界に入り込むだけでなく、それが作られた時代に身を置ければ完璧です。昭和18年には世界中のどの遊園地に行っても、絶叫マシンと呼ばれるような最近のジェットコースターはありませんでした。それしか知らない世界に身を置いて、この作品を見たらハラハラします。(その想像力を眠らせる作品が最近は多くて困ったものだと思いますが…。)
毎度、長くなるので短めに書きますが、この作品は第二次大戦中、ドイツ占領下のチェコはプラハで実際に起きた事件を基にしています。この事件は後に「暁の七人」(また、あかつきですが)としても映画化されています。
とにかく、これは1999年8月に劇場公開用に訳したもので、先日の「ビッグ・ヒート/復讐は俺に任せろ」と同じで、DVDソフトも当時のフィルムのままで字幕はon/offできません。前にも書いたように、個人的にはこれはこれでよいのですが、この字幕には他の点で不満があります。
当時の時間の流れの細かい部分は覚えていないのですが、プリントの到着が遅れに遅れた事をはっきり覚えています。どれくらい遅れたかというと、公開前日か当日に成田にプリントが届いたのです。配給元のケイブルホーグは結局、資金繰りに行き詰まり、残念ながら今は存在しませんが当時はそこまで困っていたわけではありません。5月か、少なくとも6月には支払いが終わり7月上旬から中旬にはフィルムが日本に届くはずでした。それで9月の公開になっていたのですが、なんと公開前日か当日まで届かなかったのです。
タイムコードの入っていないビューイングテープ(事前に作品を見られるようにフィルムをビデオにダビングしたもの)などは7月の段階で届いていました。フィルムの到着が遅れ始めたところで、そのビューイングテープを元にタイムコードを先に作ってしまい、翻訳作業は進めてありました。でも、上映はフィルムです。翻訳データが完成していても、フィルムに字幕を載せていく作業はレーザー字幕のシステムを使っても最低数日かかります…。
結局、差し替え作品の1つとして、フリッツ・ラング監督が自作について語る「ひとつ言っておこう」というドキュメンタリーをビデオで特別上映したり、何らかの対応をして「休映」にはしなかったのですが、「死刑執行人もまた死す[完全版]」がフィルムで上映されたのは、当初の公開初日から1週間から10日ほど後になってしまいました。
これは、この作品の字幕への僕の不満ではありません。問題は、時間がない作業になってしまい慌てていた上に、ビューイングテープの早さが微妙にズレていた事です。フィルムからビデオにダビングする時、映写機の回転速度が100でなければならないとして、それが99.95だったりする事があるのです。こうしたズレが生じる理由は何種類かありますが、0.001くらいのズレでも、100分の作品にすると数秒のズレが生まれてきます。字幕で数秒ズレていたら、話が全然分からなくなる事は、考えるまでもなく分かると思います。このズレの補正作業は、映画本編さながらとまでは言いませんが、スリリングな状況でした。
とにかく、先にこちらで作ったタイムコードの時間の進み方と、フィルムの上映時の時間の進み方にズレが生じます。この補正は残念ながら機械的にはできません。それを限られた時間で進めていったため、本来取ってあったスポッティングが半ば台無しになってしまったのです。
もちろんフィルムでの上映は1週間から10日後には実現したわけで、基本的にはOKのタイミングにはなっているのですが、当初、丁寧に行なった作業は生かされませんでした。それが今もフィルムとして残り、DVDとしても残る事になったので、それが不満なのでした。
それでもこの作品の価値が変わるものではありません。それが今も残っているのは歓迎すべき事です。それから、このソフトのバージョンは以前は[完全版]と付いていましたが、この作品の場合は本来これは必要がなかったもので、本作より短いものが[カット版]になるべきものでした。長い歳月を経て、完全な姿の本編の方が散逸してしまっていたのです。
この点に関しては実情は分かりませんが、少なくとも1999年に日本に輸入されたフィルム以降、この作品に関しては新しいプリントが見つかった形跡が世界的にありません。(実際はあるのかな?)その時のマスターにあたるプリントが今もどこかに存在するのではないかと思いますし、それをいずれ誰かがリマスターするなどすれば、音質も画質もアップしたフィルムやソフトが登場するのでしょう。でも今はこのバーションしか存在しないようです。
その意味ではDVDなのに字幕をoffにできない仕様でも、本当に見たい人は見ようと思えば見られる状態になっていてよかったと思います。
後は、もうあり得ませんが、こうした作品の字幕の制作費が満額支払われる事…。ケイブルホーグが倒産しちゃって、あり得ないのが残念ですが…。とにかくヘザーは生き残りました。
という事で、貴重なフィルム上映です。
ちなみにIVC発売版も同じフィルムを素材にしています(字幕も同様)が、今回は改めてテレシネしたもので、オーサリングもやり直しているはずなので、作業時期の違いを考えると、同じフィルムを使っているとはいえ今回のソフトの方が画質がよいとは思います。
余談ですが、フリッツ・ラング監督の「メトロポリス」が、ついに150分版になってソフト化されます。これは80年代にジョルジオ・モロダーが音楽をプロデュースしたバージョンで日本でも大々的に劇場公開されましたが、その時は84分バージョンだったか、短いものでした。この作品は1926年(昭和2年)のSF超大作で、それこそフィルムが散逸してしまい、様々なバージョンが存在してきました。リリースされるのが楽しみです。
サイレント映画も今になるまでタイトルが語られ、ソフト化されるような作品はどれも力強く、ドラマとしてとても重いものも多いです。僕自身はカナダの映画学科で何本か精査するような見方をしたり、時代背景を踏まえながら見たりしたので、かなり好きです。
もちろんフィルムの保存状態の関係から、画面が見ずらく話が分かりにくいとか、単調なBGMで寝てしまうとか、そういう問題もありますが、腰を据えて見ると貴重な映像資料であるばかりではなく、ドラマとして十分に楽しめて、色々な意味で想像力を駆り立てられるものです。お勧めです。
最後に、フリッツ・ラング監督の「大いなる神秘/王城の掟」と「大いなる神秘/情炎の砂漠」の二部作も誰かソフト化しましょうよ!