« | Home | »

2009/11/15

bote_jacket.jpg 

原題はBeginning Of The End(「終末の兆し」と、よく訳されていた作品です)。監督はバート・I・ゴードン。そのイニシャルから“ミスターBIG”と呼ばれる人。彼が最初に生き物を大きくした作品がこれです。(デビュー作では元から大きい恐竜を出していましたが…。)この監督の作品は「魔法の剣」と「巨大生物の島」を僕は訳しているので、これで3本目になります。

いきなりですが、この作品で巨大化したのはハチではなく、イナゴです。いえ、正確にはバッタです。いえ、正確にはイナゴです…。イナゴはバッタの一種というか、バッタはイナゴの一種というか…。ここら辺の詳しい説明は昆虫学者に任せるとして、この作品で巨大化したのはイナゴ。「食感と味がエビに似ている事からオカエビと呼ぶ地域もある」(Wikipedia)イナゴです。

なぜバッタとイナゴを混同するかと言うと、主人公の昆虫学者、エド・ウェインライト博士(名字が長すぎで字幕にしたくない役名)自身が「locust(=イナゴ)、またの名をgrasshopper(=バッタ)です」と言っちゃったりするので、この作品に出てくるイナゴがイナゴなのかバッタなのか、昆虫の専門家ではない僕には分からんのです…。

前置きが長くなりましたが、アメリカの中西部にある“農務省イリノイ試験場”で放射能を使った農産物の栽培実験をしていた(名前が長い)ウェインライト博士の管理不足で、試験場に入ったイナゴが放射能を浴びた飼料を食べて巨大化し、さらにイナゴなので大群になりシカゴを襲う、という話です。

この作品は印象に残るセリフがいっぱいあります。

まず巨大イナゴが人を襲っているという事が、ついに判明し、軍隊が出動する場面。

兵士A:
バッタって食えるか?

兵士B:
マスタードとケチャップで

兵士B:
メキシコでは本当に食ってた

兵士C:
用心しないと食われるぞ

兵士C:
ウェインライトさんは
科学者だ 冷静に話してる

AとBは冗談半分ですが、Cは真剣。

こんなセリフもあります。

兵士D:
最近は収穫も天気も
悪ければ放射能のせいだ

確かに、50年代のゆるい映画は何でも放射能のせいで変身したり巨大化します。

少尉A:
巨大イナゴなら州兵で充分だ

巨大イナゴを見くびってはいけません。というか、この少尉、州兵の兵力は知っているでしょうが、「巨大イナゴ」の強さをどう見積もって言っているのでしょう…。

さらに…。

ウェインライト博士:
ああ 軍を説得できないと
人類が絶滅しかねない

女性記者:
絶滅?

ウェインライト博士:
その通り
終わりの始まりだ

すごい大げさです。「世界終末の序曲」です。実際、イナゴが巨大化して大群になれば、世界は終わる可能性があるでしょうが、なんかこう、イナゴという言葉と世界の終わりという言葉が一緒になると微笑ましいと思ってしまうのは僕だけでしょうか…。それにイナゴの大群というと、作物を食い尽くし、空を覆うように飛ぶイメージが浮かぶと思いますが、この作品の「特撮」では、イナゴが飛ぶのは面倒だったらしく、(名前が長い)ウェインライト博士に「羽は巨大化しなかったので飛べません」と言わせて終わり。「巨大イナゴの大群」は出てきますが、それが空を覆う様子は一度も出てきません(「都合がいいにもほどがあるだろ」と言いたくなりますが、前回書いた「昆虫怪獣の襲来」でも、飛ばなかったし…。50年代の放射能には昆虫を飛ばす力がなかったんでしょう。)

試験場の管理が甘かったと自分を責める(名前が長い)ウェインライト博士は「地球が怪物の星になる」とつぶやきますが、羽が巨大化しなかったイナゴなら、北米だけがイナゴの餌食になるだけで…。(ま、いいです。)

シカゴの街にイナゴが進んで来る時のテレビの臨時ニュースでは「敵に対して私達が有利なのは攻撃の瞬間が明らかな点です」「イナゴは攻撃前に高い音を出します」「音は耳が壊れそうなほど激しくなります」「最も激しくなった時に彼らは攻撃を始めます」と放送されますが、疑問①巨大イナゴの音は大きいのに、建物の裏から急に姿を現わしたイナゴに襲われる人がいるのはなぜか…。疑問②「最も音が大きくなった時」、どれくらいの音になるのか…。(ま、いいです。)

巨大イナゴは時々ピョンピョン跳ねますが、さっき言った理由で飛びません。でも、前線の兵士が無線で言ってきます。「迫ってきます」「ジリジリ来ます」「波状攻撃です」「防衛線を突破される」「囲まれた ダメです!」。どう見ても「防衛線」の人達が何もしていないだけではないのか…。

さて、色々ありますが、(名前が長い)ウェインライト博士は、ついにシカゴに原爆を落とす以外の方法で巨大イナゴの大群を退治する方法を思いつきます。それは、なんと…。(わざとネタバレさせず)

で、「準備に必要な物は何でも言ってくれ」と言われた(名前が長い)ウェインライト博士「生きた巨大イナゴ」「巨大イナゴ1匹」。なんか訳していて楽しくなってくるセリフです(笑)。その理由は…。(ネタバレ回避)

その後、見事に生きた巨大イナゴ1匹を捕獲した(名前が長い)ウェインライト博士は言います。「小さめで幸運だった」。いや、でも頭だけで大人の身長くらいありますけど…。そして「イナゴ史上初だな」と言いつつ、巨大イナゴにウソ発見器をつなぐ(名前が長い)ウェインライト博士。

最後に、もう1つ印象的なセリフ。「イナゴだらけです」。

前回の「昆虫怪獣の襲来」は緑の地獄が舞台だったので、映像的にもメリハリがあまりなく「森の中」とか「砂漠」という場面が多かったのに対し、今回はシカゴを逃げ惑う人々とか無人のシカゴとか、都会の映像も出てきます。何より、巨大イナゴがものすごくリアル(=本物)で、動きもハッキリ。ピョンピョンしますし、名セリフも多いので、色々楽しめます。

シカゴの街は当時も都会だったのね。とか、当時もループがあったのね。とか、色々な見方ができますが、じつは絵葉書の上をバッタが跳ねているだけの映像も忍び込ませてあったり、よくよく見て下さいね(いや、一目瞭然かも…)。

さて、最後に本題です(やっと)。

今回訳していて最初に気にしたのが、イナゴとバッタの違いでした。それなりに調べたのですが、どういう時にイナゴがイナゴでバッタがバッタなのか分かりにくく…。調べても分かりにくいものを、字幕を見ている人に分からせるのは大変。と判断し、英語のセリフでイナゴと言っているところはイナゴ、バッタと言っているところはバッタと、忠実に訳しました。(大げさだ。)

どうもイナゴって強そうな感じがしないし、怪物や怪獣ならバッタの方がいいと思ったりもしたものですが、、やっぱり「大群」といえば「イナゴ」にしたいし…。

それから、(名前が長い)ウェインライト博士。これは最初に「エド・ウェインライトです」みたいに自己紹介する機会があったので、そこで1回だけフルネームを出し、その後は「エド」7回に「ウェインライト」7回と使いわけました。昔の字幕(それも90年代になっても多くの字幕)は、ファーストネームかファミリーネームに統一しちゃう事が多かったものです。実際、その方が訳していて楽ですし、僕自身もそうしていた作品もありますが、今は何とか工夫して使い分けています。

といった感じで、また、どうでもいい事を悩みながら「ゆるい映画」を訳してしまいました。

DVD発売日: 2009/12/29

2009/11/15 02:00 | ゆるい映画劇場 | No Comments