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2009/03/19

読者の皆さん、初めまして。

字幕演出家の落合寿和です。これまでに訳してきた分野は、映画、音楽、テレビドラマ、報道ドキュメンタリー、スポーツ、ファッションなど。現在のレギュラーでは「王様のブランチ」という情報番組の映画コーナーの来日スターや監督のインタビューの翻訳があります。以前は独自にブログを公開していましたが、今後はこのJunkStageに場所を移して、徒然にコラムを書いていきたいと思います。

字幕の世界は、世の中の多くの事がそうであるように、奥が深いものです。何しろ言葉を扱う分野なので、それは当然でもあります。たとえば「学園」と「学院」の違い。学園は学生や生徒が集まり学ぶ園。学院は「院」が建物を指すので学ぶ建物。要するに人に重点を置いた表現が学園で、場所に重点を置いた表現が学院になります。そう考えると「病院」はあっても「病園」はなさそうですよね。病気が集まり、病気を広める園となると、ブラックユーモアとしても笑えません。やはり病院は病気を治す建物(=場所)でしょう。こうして、普段何気なく使ったり目にしている言葉の奥深さから、そのニュアンスをできるだけ簡潔に、かつ的確に選別し、利用して表現しようとするのが字幕作りです。(もちろん他にも「音と映像を文字にして云々」とか、色々な説明の仕方がありますが。)

いずれにせよ、こうしたニュアンスを表現しようとする時、いくら客観的に判断しようとしても、結局それはその言葉を選ぶ人の主観での判断になります。しかし、時間的な制限や文字数の制限など、いくつもの制限がある字幕の世界では、できるだけ客観的な判断をしていきたいわけです。

そこで、このコラムでは、私が常々思ってきた事を読者の皆さんに知ってもらい、皆さんの意見も聞いて「より客観的な字幕作り」を目指してみたいと思います。

今は確定申告の時期なので思い出しましたが、翻訳の仕事をする人は税務署の分類では「文筆業」になります。いわゆる一般の文筆業の人と比べると創造性は低い気がしますが、巧緻性というか、表現を工夫する瞬発力は劣らない気がします。その意味で文筆業という分類に入るのは自然でしょうか。

ということで、翻訳家は文筆業なのですが、インターネットがここまで普及した今では、この文筆業は1日24時間全く外出しなくても平気という事が多くなります。同業者同士の交流も多くはありません。(そうした時間を作れるなら少しでも眠りたいといった人が多いので)

その結果、「より客観的な字幕作り」に有用な情報の共有もほとんど進みません。いわゆる学会のような組織もなく、専門書の類も皆無に等しいです。

そんな状態ですが、何も始めなければ何も始まりません。有用な情報の共有は有用に決まっていますし、誰も始めないなら、ここで始めてはどうかと、僕は思ったわけです。

「ケータイ」と「携帯」。字幕の場合、どちらがいいか。フィルムに焼き付ける時、画数の多い漢字は文字全体が白くなってしまうというのは過去の話です。今の技術では「携帯」も判読できるので、その制限はありません。

では、「ケータイ」と「携帯」のどちらを一般の人は好むのか。そもそも「一般の人」とは誰か。それは作品によって変わってくるでしょう。メインの観客層が子供なのか若者なのか、もっと上の年齢層なのか。それも考慮する材料になります。セリフを言っている人が何歳くらいなのかというのも考慮する材料になります。

ここで翻訳家は「より客観的に」考えます。「主観」で。

僕がこのコラムで試していきたいことの1つは、この「主観」を「客観」にすることです。たぶん、これは時間がかかる作業だと思います。

このコラムで、単に「どちらが好きですか?」とアンケートのように質問を投げて、その回答を集計する事は可能かもしれませんが、この形態の情報発信向きではありません。

僕は「字幕.com」というドメインを何年か前から保持しています。今はブランクのサイトです。これをできるだけ早く字幕の総合サイトのような形にしたいと思っています。こうした総合サイトがあれば、もしかすると字幕を頼りにしている観客の意識や気持ちが見えてきて、翻訳家の思い込みが減るのではないかと。字幕について建設的な議論ができるサイトがあっても悪くはないのではないか。僕はそう思うのです。

しかし、ここですでに問題があります。一般の人が字幕の総合サイトに何を求めるのか、考えてみると色々ありそうですが、色々ありすぎて何から始めていいのか分からない…。

字幕の客観的な評価、効果、ネガティブな意味ではなく建設的な意味での誤訳の指摘。先ほど書いたような「ケータイ」と「携帯」の、選び方のガイドライン作り。とか…。

漢字の取捨選択もそうです。「完璧」という漢字を完璧に書けない人は案外多いでしょうが、読めない人は案外少ないでしょう。「復讐」もそうです。これをわざわざ「完ぺき」とか「復しゅう」にしなくてもよいのではないか。僕はそう思います。でも、これも「翻訳家の思い込み」かもしれない…。

「ゆとり教育」と「詰め込み教育」の間のどこかに答えはあると思いますが、テレビを見ていると「絶滅危惧種」を「絶滅危ぐ種」にしてくれていたり。道路標識だと「A埠頭」を「Aふ頭」にしていたりします。(そういえば道路標識用に簡略化された漢字ってあるらしいですよね)車を運転している時は読めない情報があっては危険ですが、テレビの場合は少し状況が違うわけです。「危惧」と漢字にして、その上に「きぐ」とルビをつければいいだけではないのか…。むしろその方が漢字の勉強になったりします。第一「絶滅」の「滅」の方が漢字、難しいし…。

僕は文筆業で、普段黙って仕事をしています。そのため、人と話す機会があるとお喋りになります。

ネット上でも、もっと人とお喋りしたい。でもお互い顔が見えないコミュニケーションは様々な不安を伴います。それで、まずはこのコラムを書き始め、その中から徐々に顔が見えるコミュニケーションをとれたらうれしいです。

だんだん脈絡がなくなってきました。こうして途方もない事をコラムで書きながら、まとまりのある「字幕.com」を目指したいわけです。

コラムの自己紹介から、さっそくで何ですが「字幕.com」の立ち上げスタッフになりたい人いませんか?たぶん当分はボランティアですが、形になり、社会的に存在価値のあるサイトに成長する可能性は十分だと思っています。人1人の力は微々たるものですが、その小さな力が集まれば、何かが生まれるのではないでしょうか。

では、また次回。

2009/03/19 12:02 | 字幕.com | No Comments

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