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よく「B級映画」と呼ばれる映画ですけど、「B級」と言うと「A級」の次。そんな生ぬるいのじゃダメです。C級?ダメダメ。Z級?甘い。「級」という分類が間違ってます。ゆるさを楽しんじゃえば、こいつら全部A級です♪
これまでずいぶん翻訳してきたのですが、なかなか書く時間がなくて…。だいたい、こういう映画は「心に残る名場面」とか「心に残る名セリフ」とかないし。それどころかストーリー自体が細かくは頭に残らない事が多いので、翻訳してしばらくすると何も書けなくなっちゃうんです。映画のデータベースを見てもストーリーを細かく書いてあるものは少ないし。
それじゃ、もったいないです。こいつら「心に残る迷場面」とか「心に残る迷セリフ」満載ですから。だいたい、いつも翻訳ばかりしていて(仕事に追われて)、こうした作品は「やったら終わり」、「やりっぱなし」になるんですが、これこそ「僕が書かなくて誰が書く!?」なわけです。(でもない?)
ではさっそく最近訳した作品から。「Son Of Blob」、別名「Beware! The Blob」。邦題「人喰いアメーバの恐怖2」。もちろん劇場未公開。以前、ビデオで発売された時に付けられた邦題が「悪魔のエイリアン」ですが、原題は「ブロブの息子」(または「ブロブに気をつけろ!」)。当然、「ブロブの親」もいます。そっちは「SF人喰いアメーバの恐怖」というタイトルでテレビ放映されていました。この1作目も以前、ディレクTVがあった頃、SFチャンネル用に翻訳しましたが、オープニングからバート・バカラックのテーマ曲で飛ばしてくれるスティーブ・マックイーン主演の楽しい作品でした。(詳しい人に聞いた話ですが、1作目は昭和40年にまず「マックィーンの絶対の危機(ピンチ)」のタイトルで劇場公開され(併映は「最後の海底巨獣」)、その後(昭和40年代後半)、「SF人喰いアメーバの恐怖」のタイトルでTV放映され、ビデオの時は「マックィーンの人喰いアメーバの恐怖」。そしてDVDの時に最初の劇場タイトルが復活したという、タイトルまでアメーバみたいに変わり続ける作品です。)
で、その続編がこれです。「人喰いアメーバの恐怖2」(テレビ放映時は「SF/人喰いアメーバの恐怖NO.2」)。1作目でせっかく永久凍土(たぶん南極の)に葬った人食いアメーバを、パイプライン敷設作業をしていた作業員が掘り起こしてしまい、それと知らずにアメリカに持ち帰っちゃった事から始まる話です。(1作目を見ると、このアメーバは隕石に付着していた生命体だというのが分かりますが、この続編では何の説明もありません)
冒頭2分半ほどのタイトルバックは野良猫の散歩。70年代テイストの電子音BGMで、「これからどんなに恐ろしい事が起きるんだろう」と、全然思わせない始まり方です。この野良猫が最初の犠牲者。次の犠牲者が、この野良猫にエサをやっていた優しい奥さんマリアン。次がその亭主チェスター…。
タイトルバックが終わり、最初のセリフがすごいです。チェスター:「釣りのエサは?」マリアン:「買ったわ イクラをね」です。不幸な事にチェスターは釣りに行く前にアメーバのエサになります。彼はなぜか自宅の居間にテントを張ってビールを飲んでいるんですが、本当に釣りに行く気だったのでしょうか?(釣りに行く前に一発奥さんと…という気分もムンムンだし。)マリアンも「花瓶」という単語を思い出せず「これ」とか言うので、ちょっと頭がゆるい気がします。
彼女はアメーバのエサにならなければ、ボビーの誕生パーティに行く予定でした。ボビーの彼女がリサで、リサがアメーバの第一発見者として最後まで生き残ります。(ネタバレしてごめんなさいですけど、ネタバレしても怖くないのが、ゆるい映画の強みです。)あ、ボビーも生き残ります。(っていうか、誰がエサになって誰が助かったかとか、そういうの、どうでもいいんです。)
ボビーとリサの周辺にはマリファナやLSDの臭いプンプンの連中がいっぱい。麻薬入りのブラウニーを食べてラリッたり、お巡りさんまで「君達がトリップしようと私は知らんが」なんて思いきり60年代的セリフを言っちゃいます。(最近の事件もあって、「いくら昔の映画でも、お巡りさんに言わせちゃっていいのかよ?」と翻訳しながら心配になっちゃったりもしましたが。)
トルコ人が裸で夜の町を走ります。バージェス・メレディス(「ロッキー、立て!」オヤジです)は「カモノハシ野郎」なんて悪態をつきます(意味不明)。「散髪は芸術だ」とのたまう理髪師も出てきます(散髪料400ドル)。ボーリング場では機械の整備係がピアニスト(指を傷めないようにね)。ボーイスカウトのリーダーはハイキング中にマスタード(芥子菜)を摘んで、リサにプレゼントします。(マスタードは強い植物で、どんな土地でも育つそうです。アメーバとは関係ないけど。)そういえば、ボビーは「アボカドサンドはベーコン抜き」がいいそうです。(でもリサはベーコン入りが好き♪)
話題満載の87分。ゆるい気分で見ると、とっても楽しい作品なんです。見なきゃ損です。いや、見ると損?いやいや、世の中不景気だし、思いきりゆるい気分で、こういう映画を皆でワイワイ言いながら楽しむのは安上がりです。
…やっぱりこう書いてみると、ストーリーを細かく書く気になってない…。(あらすじを書く文章力がない…)
さ~て、ここからが本題。この作品を訳していて印象に残った事を書こうと思います。それはさっきも書いたマリアンの花瓶。ゆるい翻訳です。
キッチンでマリアンが野良猫のサミュエル君にイワシの缶詰を上げたりしているシーン。
先に結果を書いておくと:
Samuel?
サミュエル
What’s this?
何これ?
Oh, Samuel.
サミュエルったら
You broke my 49 cents thing.
49セントのヤツを割ったわね
I really did like that thing.
お気に入りだったのに
You are a bad cat. You really are.
本当に悪い猫ね
という字幕になりました。
サミュエル君はマリアンが目を離したスキに、流しにあった花瓶を床に落としちゃいました。それで上記のマリアンのセリフになるわけですが、「ヤツ」は間違いなく花ビンです。まあ、普通なら(1)「私の花ビンを割ったわね」(2)「49セントの花ビンを割ったわね」(3)「花ビンを割ったわね」にしちゃうでしょう。そもそも、サミュエル君は最初にアメーバに食べられちゃうだけで、作品全体としては他に重要な意味もないし。という事で深く考えず、(3)「花ビンを割ったわね」で全然問題はありません。(ストーリーを追うためには)でも、なぜこのゆるい映画を撮った監督(“ダラス”のJ.R.役が有名な俳優ラリー・ハグマンが監督してるんですけど)が、なぜvaseという単語を避けてthingにしたのか悩みました。単に撮影現場が本当にゆるくて適当に撮っちゃって、そのテイクを使ったのか。マリアンというキャラをゆるくしたいという演出があったのか。はたまたマリアン役を演じた女優さんが、実際にゆるい人だったのか…。分からない…。で、ストーリー的には全然重要ではないセリフではあるし、『せっかく彼女がthingって言ってるんだから「花ビン」と訳すのは大きなお世話だ。』と僕は考え、直訳で「49セントのヤツ」を割らせました。
う~ん、どうでもいい事で悩むんですよ。字幕翻訳って…。
でも逆に、冒頭のセリフ(イクラ!)は工夫があります。
チェスター:釣りのエサは?
Did you get my salmon egg?
マリアン:買ったわ イクラをね
Yes, honey. I have your salmon egg.
にしました。これは直訳すれば「イクラあったか?」「あったわよ」なわけですが、この2人が食べるわけではなく、チェスターは明らかに釣りに行く支度をしている(でも、なぜか居間にテント張ってビール飲んで「エコだぜ」とか言ってるけど)ので、「釣りのエサ」にしたのです。(大きなお世話かな…)
まあ、マリアンもイクラを見つけるのに3軒もお店を回ったみたいだし、ストーリー的には全然重要じゃないイクラも、単なるイクラじゃなくて釣りのエサなんだと主張できれば、それなりに重みも出てくる(出ないか)と考え、「釣りのエサは?」という字幕になった次第。
いや、本当にどうでもいい事を考えながら「ゆるい映画」は翻訳されていくわけです。
ちなみにこれは11月にDVD発売されるので、お楽しみに♪
予告:
「ゆるい映画劇場0002」は、不景気だろうと何だろうと景気よくデカくなっちゃう話です。(ストーリーを忘れないうちに書かないと)
DVD発売日: 2009/11/27