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2011/07/05

こんにちは。根本齒科室の根本です。

前回、「事前的モラルハザード」ということばを紹介しました。
より安く、より国民の健康が増進されればいいのですが、なかなか
そうはならない厳しい現実があるのです。

そのまえに、いろいろと(私のコラム上だけ?!)槍玉に上がっている
保険制度をはじめとした現在の制度にまつわる諸問題を見ていきたいと思います。

ひとつ理解しておいていただきたいことがあります。

全国の医療機関(病院、医院、歯科医院、柔整、あはきetc)は保険医療行政という

国 家 の 公 共 事 業 の 下 請 け

業者なのです。
どうも一般の方は、医者歯医者は民間企業であるという認識が非常に強いのですが
やっていることはほとんど国の公共事業なのです。

以下、いわゆる「下請け構造」にまつわる諸問題をまとめていきます。

◆ 強制加入~保険証のある人しか診られない

否が応でも全国民は、社保か国保に強制的に入らされます。
もちろん、国民は全員保険証を持っていることになります。
すると・・・

◆ 二重指定~明治7年の「医制」以来の医師規制手段

いっぽう、医者は、建前上は
 保険診療をやるなら国の軍門に下って保険医登録をする
 いやなら登録しなくてもよい
ということになっています。

もちろん軍門に下って保険医登録をすると、健康保険法や療養担当規則
ならびに各種通達、指導、監査等によって、まさに保護主義的なきつい縛りを受けます。
何と言っても、医療は公共事業であり、政策的胴元は国です。
医療機関は下請け業者ですので、やりたいことの一部しかできません。

そういえば昨今、「歯科医師過剰問題」が取りざたされています。
豪邸に住み、高級外車を乗り回し、銀座でドンペリを開ける歯科医師、のイメージは
すでに過去のものとなりつつあり、「コンビニの2倍」「ワーキングプア」などという
センセーショナルな言葉が飛び交う始末です。

しかし実態は、OECD20ヵ国の中では日本の歯科医師数は平均的な方なのです。
それでも外国人歯科医師が破産したとか自殺した、などという話は一向に聞きません。
それもそのはず、1日10人以下の患者数で臨床の質を保ちつつ、ゆうゆうと
日本の歯科医師の数倍の収入を得ているわけです。

ところが、考えても見てください。国民は全員保険証を持っているわけです。
美容整形とか不妊治療、矯正歯科などのような特殊な例を除いては、どうしても
保険医登録をしないと誰も来てくれないことになってしまいます。

さらに、たとえば院長が不正をしたりして取り締まられても
別の勤務医を雇って診療を続けられるようでは、お上の締め付けが利きません。

そこで、医師本人だけでなく、医療機関のほうも「保険医療機関」として
国の監視対象にするということが行われています。
こうすれば、院長を取り締まると同時にハコ(=保険医療機関)もコントロールできるのです。

◆ 現物給付~国家による医師の裁量権侵害

これは、患者様が一旦全額を払った後に、保険金が後払いで戻ってくる
「現金給付~償還払い」の逆の制度で、患者様の一時的な負担が少なくてすむのが利点です。

しかし、現物=行為そのものですので、必ず行為そのものが規制されてしまいます。
「医師の裁量権ガー」、などと言う向きもありますが、何と言っても胴元がえらいのです。
「何とかワクチンはダメだ」「金歯はダメだ」「パノラマレントゲンは1回だけだ」
と言われてしまえば、それをしないと非常に患者様がまずい場合でも、何も出来ません。

◆ 出来高払い~偽りのチキンレースで医療の質の低下

私はコレが一番矛盾していて、おかしいと思います。
なぜなら、私たち保険医療機関が行っていることは公共事業の下請けだからです。
つまり「准公務員」に等しい立場なのです。

そうであれば、報酬が出来高払い=歩合制など、とんでもないことです。
准公務員に出来高払い=歩合制にしたら、「公的サービス間」でチキンレースに突入します。
つまり、回転率競争による、国民の命や健康を蔑ろにした、臨床の質の低下です。

じつは今の医療システムなら、医師一人とか医院一軒あたり毎月いくら、などの
「固定報酬制」でないと本質的に筋が通らない話だと私は考えます。

◆ 混合診療禁止~晩発性障害の元

このことについては非常に誤解が多いので、改めて説明します。
まず医科について説明します。
周囲にこの話をすると、あまりのえげつなさに、一様に固まります。
たとえば「一連の治療」の中で

 治療A:保険診療(3割負担7割国庫)
 治療B:保険診療(3割負担7割国庫)
 治療C:保険外診療

の順に行われたとします。

すると、治療Cが行われた時点で、「治療A」「治療B」の分の保険料を請求されるのです。
つまり、治療Aの7割国庫の分と治療Bの7割国庫の分も、今さらのように請求されるのです。

これが混合診療禁止の原則です。今あなたも固まったでしょう・・・

これが問題になったのが、がんの治療と歯科の治療です。
がんの治療の場合、A~B~Cの流れだと効果があるのに、A~Bで止まると効果がない場合
命にかかわりますよね。時々裁判になるのですが、いつも原告(患者)側が負けています。

歯科の場合は、以前もお話した「差額徴収制度」で保険料を抑えるというアイデアで
チェアタイムの確保=臨床の質の低下抑制を図ってきた面があります。
残念ながら「昭和51年課長通知」の公布で差額徴収が終焉したことも、
そのせいでかえって歯科医療費が増えてしまったこともご案内のとおりです。
一応

 根の治療:保険診療(3割負担7割国庫)
 冠の修復:保険外診療

この流れだけは認められることになりました。

今、一昔前の、いい加減な基礎(根の治療)の上に豪華な差し歯が乗った歯の根の汚染
たいへん深刻な問題になっています。
その患者様は当時、1本10万円程度のお値段で立派なセラミックの差し歯を入れたはずです。
しかし根の治療の方は保険が利くので、まさにスピード勝負の「チキンレース」だった
可能性がかなり高い訳です。
また昔は、トラブル(術後疼痛)防止のためと称して、現在よりもかなり安易に、便宜的に神経を
取っておく行為(便宜抜髄)が行われてきました。その際の汚染も馬鹿になりません。

その結果、5年後10年後20年後に根が腫れて、豪華な差し歯を外そうにも硬くて外れない、とか
無理に外したら根が割れてた、あるいは根が中で朽ちていた、または根を再消毒しても汚染が
非可逆的に(根尖口外バイオフィルム)拡大して手遅れ、などの

「晩発性障害」

が非常に多発しております。

・・・「汚染」?「晩発性障害」?
まるでどこかで聞いたことがあるような言葉ですね()

その傍証でもありますが、私の歯科医院のホームページでは無料メール相談も行っていますが
面白いほど、9割方は判で押したように「晩発性障害=感染根管による根尖病変」の相談です。
このことは、いかに日本の歯科の保険診療がいい加減であったかの証左に他なりません。

◆ 応召義務

基本的な点については「保険制度以前の歯科と医療」をごらん下さい。
ここでは『医制』と『予約制』にからめて、もう少し考えてみたいと思います。

明治7年公布の医制の制定理由はご案内のとおりで、この精神は現在でも生きています。
それが応召義務です。

これは「今持ち合わせがなければ次でも良いですよ」ではなく、
金を払う気のない人も含めて現に金がない人でも医師は診察しなければなりません。

医師法19条では「正当な事由」がない限り診療拒否できない、と定められています。
この「正当な事由」については厚生省通知通達(昭和24年)があります。以下のような物です。

<診療拒否できない場合>

(1) 診療報酬の不払い
(2) 診療時間の制限
(3) 特定の人を相手に診療する医師(会社の医務室勤務等)
(4) 天候の不良など
(5) 自己の標榜する診療科以外の疾病について診療を求められた場合
[壱] 医薬品の不払い(医業といえども生活資料を得るを目的とする行為である)
[弐] 施術行為中(他の患者を診ているとき)

*下2つは戦前は診療拒否できたが戦後できなくなったもの

<診療拒否できる場合>

① 医師が不在の場合
② 病気、酩酊により事実上診療できない場合
③ 医師の親族、知人の婚礼、争議がある場合
④ 患者酩酊
⑤ 休日診療などが整備してあり、緊急で無い場合

これを見ると、とにかく医師が医院に「居たらアウト」です。
無銭飲食でも専門外でも時間外でも治療中でもアウトです。

逆に「居ない」「酩酊」というのがセーフのポイントです(酒かよ・・・)。
また、近所に同じような他の医院があれば断ってもセーフです。


これが歯科にもそのままあてはめられているのが大きな問題なのです。

ご案内のように、歯は有限であり、かつ自然治癒しないので、機能と形態を一から
構築する必要
があり、その手技的煩雑さは一般に医科外来の比ではありません。

必然的に診療の質を担保するための計画性およびチェアタイムの確保、すなわち
「予約制」
の合理的必要性が生じます。

ところが健康保険法や療養担当規則その他にはキャンセル料の規定はありません。つまり
「順番制」
医師は無限に診療を行いなさいという想定なのです。

これはお上ばかりではありません。
一例ですが「医療サービス需要の経済分析(井伊、大日 日本経済新聞社)」の26ページに
このような記述があります。
「他方で、医療サービスの供給曲線は短期的には水平であると考えられる。①医療サービスの取引単位として受診率をとっており、また少なくとも日本では待ち行列の長さを理由に受診を拒否されることもないので、その場合には供給曲線は水平である。つまり、行列が長くなると診療時間で調整され、受診を拒否するという割り当て的な解決はされないとする。
もし仮に、②医療サービスの取引単位を診療時間とすると供給曲線が右上がりとなり、診療報酬点数で定められる③公定価格が均衡価格よりも低いと割り当てが生じることになる。しかし、これは少なくとも④日本における軽医療では一般的なことではないので、前者の想定、つまり受診率を取引単位とし、供給曲線を水平であると考えるほうが妥当であろう。」(番号および下線は根本註)

これはいったいどうしたことでしょう?

① 女性が産む機械でないのと同様、医者は診る機械ではありません。あんまりです。
② これこそが歯科医院の予約制の意義の本質です。否定しますかね・・・
③ 保険点数が低すぎて、保険だけではすぐ倒産してしまうのが日本の歯科の大きな問題点
 なのですが。ご存じないのでしょうか?
④ 割り当て(=予約制or順番ノート制)が一般的でないなら、歯科とは何ですか?

お上どころか、民間の認識ですらこの有様です。
まるで医師を人とも思わない「診る機械」扱い、割り当てと称して予約制の否定。

おそらく学者様なので悪気はないのだろうと好意的に解釈して、私なりに忖度するに
「歯は自然治癒しない」「歯は有限である」
ことがもたらす現実面の大きな制約に対して全く無警戒・無関心かと思うしかありません。

なお、一部の自由診療専門医の歯科医院では、キャンセル料を徴取している所もあります。
これに倣って、保険医療機関の一部でも同様な試みを行っているところもあるやに聞きます。
一説では院内掲示などで認知していれば有効等という説もありますが、どうでしょう。

もはや歯科医療について現行法の解釈運用が限界であるのは当然といわざるを得ません。

◆ フリーアクセス~大事な病歴の消失

日本の法津では、紹介状が必要な一部の基幹病院を除き、自由に初診で全国どこの
医療機関にかかっても良いことになっています。

じつはこれは応召義務の裏返しであり、本質的に同じことを表しています。

「根本歯科はどうもヤブだから、もうやめて○○歯科に行こう」
業を煮やした患者様が保険証一枚持って、予約も取らずにいきなり○○歯科に駆け込みます。
「根本歯科でヤラれたんだけど、急に痛くなった。○○先生のところで診てくれ」

こんなことをして歯科医院を叩き出されないのは、先進国の中では日本だけです。
(知らない振りをして叩き出すところもありますが、厳密に言うと現在は違法です)

なぜ叩き出されないか?
それは歯科医院側が「応召義務」で規制されているからです。
応召義務は日本だけ。
だから叩き出されないのは先進国の中では日本だけなのです。

しかしそれ以上に重要な問題があります。

○○先生(は多分根本歯科より上手でしょうが)には、その患者様に特異的な問題点が
全く分からない状態でスタートせざるを得ないわけです。一生懸命問診はしますが

 精神的にかなり不安定である
 酒が強すぎて麻酔がぜんぜん効かない
 血糖値が高く傷が治りにくい
 口が開きにくく、治療しにくい
 何とかという薬で副作用が出た
 etc

など、診療に際してあらかじめ注意すべき情報が完全に失われてしまった状態で
始めなければいけないわけです。

これはじつは全ての医療機関における日本特異的な問題でもあります。
このようなことを防ぐため、とくに欧州では「家庭医制度」が発達していて
救急を除き、基礎的な疾患ではまず専属の家庭医にかかるシステムになっています。

これは、病歴管理の観点からはきわめて合理的な制度だと、私は思います。

◆ 開業規制~人災で日本人の歯が蝕まれる

これらを踏まえて考えてみると、皆様いろいろ思うのではないでしょうか。

「どうも歯科は当たり外れがあって分かりにくいなあ」
「後々まで面倒を見てくれる歯医者のほうが歯が持ちそうだ」
「なるべく歯を削らない歯医者のほうが歯が持ちそうだ」
「やっぱり優しい先生がいい」
「※ただしイ()」
「近いところのほうがいいけど、不安だなあ」
etc

私もいつも考えています。「患者様は『○○』と思ってるだろうなあ」と。

そんな私なりの理想の歯科「医院?」は、現時点では一応こんな感じです。

 紹介制(飛込厳禁。一見さん初診時は説明会のみ。同意者のみ次回以降処置)
 会員制(ランク分けして、ディスカウントを導入)
 抜歯・投薬・歯石除去のみ保険適用
 インプラント、矯正(全顎・部分とも)は積極的に行う
 GP(一般治療)は原則的に行わない
 複数の担当衛生士による予防・定期管理中心
 院長は普段はマネージメントと患者説明に特化
 分院で、全員衛生士のみの予防専門サロンを経営

まあ、いろいろな考えがあるとは思いますが、私がウソをついても仕方ありません。

しかし、今の日本では下線部の部分が法律に引っかかるので、このような夢を
実現することはできません。日本では

① 医師・歯科医師・歯科技工士・薬剤師に開業(開設)権が制限されている
② 応召義務があるので、不測の大規模停電一見さんの飛込を規制できない
③ 保険医療機関はすべての保険診療を拒めない。「入れ歯と銀歯のみ不可」とか言えない
④ なぜか衛生士が麻酔もレントゲンも独立的処置もできないような理不尽な法規制

のような前近代的な規制がいまだに健在だからです。
現にオーストリアでは誰でも歯科治療して良いというフリーダムの状態です。
またオーストラリアやニュージーランドでは「デンチュリスト」と称して、一定の期間
技工所勤務すると、歯の治療をしてもよいという認定を受けることができます。
ちなみに、そもそもそれらの国には国家資格としての「技工士」というものはありません。
つまり誰でも歯科治療をしてもよいというのと同じことなのです。

これはほんの一例です。
それでその辺の国の歯はボロボロかというと決してそんなことはなく、
むしろ日本よりも成績が良かったりするから分からないものです。

日本のは、すべて歯科医学的には全く根拠のない妄想の部類であり、
医師歯科医師に権限が集まりすぎなのです。
だから既存の日本のシステムでは

 どうしても歯科医師が開設(開業)せざるを得ず
 どうしても保健医療機関登録せざるを得ず
 どうしても不測の一見飛込みを規制できず
 どうしても想定不適当な保険範囲内選択要求を拒めず
 どうしても患者側もホームドクターを決めきれず
 どうしても患者側も「痛い=悪い」の呪縛を逃れられず
 どうしても患者側も一旦悪くなるまで歯科医院の門を叩けず

という残念な方向に行ってしまうのです。
そして国民の歯は無為に削られ、抜かれ、口の中を金属スクラップだらけにされるのです。
「歯は修復よりも管理を重視すべき」「From on demand to control」という世界の潮流に
真っ向から逆流している、情けない現状です。

これは制度設計と法規制の体系が、必然的に国民をコチラに誘導するようにできているからで
私からすれば明らかに人災です。
日本国民の口に巣食う人災です。


いかがでしょうか。

◆ 強制加入~保険証のある人しか診られない
◆ 二重指定~明治7年の「医制」以来の医師規制手段
◆ 現物給付~国家による医師の裁量権侵害
◆ 出来高払い~偽りのチキンレースで医療の質の低下
◆ 混合診療禁止~晩発性障害の元
◆ 応召義務
◆ フリーアクセス~大事な病歴の消失
◆ 開業規制~人災で日本人の歯が蝕まれる
・・・

たとえば極端な例ですが、ドラッグストアーが薬剤師を雇う形態と同様の形態で
歯科衛生士が開設して、歯科医師を雇うor顧問歯科医師と契約、でも全然ありでしょう。

なぜ歯科衛生士が浸潤麻酔をしてはいけないか?開業してはいけないか?と言われれば、
法律で決まっているからという答えになるでしょう。

しかし、なぜ法律が「歯科衛生士が浸潤麻酔をしてはいけない/開業してはいけない」
などの、前近代的で国際水準で見ても説得力を大きく欠く因習にとらわれたままなのか?
現在の医療事情を鑑みても、前近代性の根拠が理解できないので納得の行く説明を求める
と言われたら、官僚は何と答えるのでしょうか?
官僚は良いとしても、担当政務官や大臣は、絶対に答弁できないと私は思うのですが・・・

【今回のまとめ】

日本の歯科行政は、制度設計上、国民の歯をより傷めるようになってしまっている

2011/07/05 01:46 | あまり歯科の臨床的でないこと | No Comments

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