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2011/06/29

こんにちは。根本齒科室の根本です。

私は、歯は治療できない、リハビリテーションだ、と前回まで言ってきました。
また、やや既成概念と異なることもいくらか言ってきました。

「何となくニュアンスは判らないでもない部分もあるが、具体的な点が・・」

こうお思いの方もいらっしゃると思います。
そこで、いわゆる歯の治療の実態とは何かについて少し述べていきます。


1年ほど前に「インプラント使いまわし事件」という、ありえない事件が起こりました。
他人の『骨』内に埋め込んだ「インプラント」という歯の支柱が、失敗して取れたのに
それを洗剤で洗って滅菌した後、また別の人の『骨』内に埋め込んでいたというのです。

インプラント治療とは、顎骨の中にチタンの支柱(人工臓器)を埋めて、癒着したら
それに歯を取り付けるという、技術的に高度な治療法です。
もちろん厳密な清潔操作が要求されるのは言うまでもありません。

いくら菌を消毒したからと言って、他人のタンパク質が付いた人工臓器を移植する・・・
Aさんの骨の中にあったものが失敗して取れてきたのに、何とそれをBさんの骨に埋める!!

私も恥ずかしながら、それなりにイカサマ治療や手抜き治療の話を聞いたり見たり
(しても自分では極力しないように)してきたつもりですが、コレには驚きました。
しかも傷害罪で検挙されなかったことには二度びっくり!!まさに開いた口が塞がりません。


しかし驚いた後、よく考えてみたら、別の意味でとても恐ろしいことに気がつきました。
歯の修復は、治癒力がないので、手作業の仕上がりが全てであることは当然です。これを

◆ 患者様は全く確認することができない

のです。


<歯石除去>

簡単に言うと、歯石とは歯周病菌がカルシウムイオンを取り込んで固まったものです。
歯に歯石が付くと歯周病になります。
歯周病になると骨が溶けるので歯石を取らないといけません。

歯周病菌は、酸素が嫌い(通性嫌気性)なので、隅の方隅の方に行こうとします。
とうぜん歯周ポケットの外よりも歯周ポケットの底の方に行こうとします。
また(簡単に言うと)歯周ポケットの底の方が菌が元気なので歯石も硬めです。

処置では、この底の方の隠れ歯石「縁下歯石」の確実な測定・除去が大前提です。
場合によっては麻酔をしたり、さらにメスで切って一時的に歯肉をはがしてまで
確実に縁下歯石を除去することを第一の目的とします。

ところが、こんな自分で見えないところの歯石が取れているか取れていないかなど
患者様が自分で確認することなど決してできません。

「取れたよ」と先生が言ったから取れたんだろう

・・・本当ですか?

「おかしいなあ、定期健診で取っても取っても、しばらくするとまた腫れてくる」
という自覚症状で推察できるかできないか、というレベルです。
普段は痛みも無いし、定期健診にも通っていて、歯みがきの指導も守っています。
ですので、患者様本人には落ち度はありません。そこで誤解します。
「私の歯肉は、他の人より弱いのかなあ・・・」
「私の歯みがきは、他の人より下手なのかなあ・・・」

そうこうするうちに、歯槽骨は痛みもなくスルスルやせて下がっていきます。

まさか取り残しだとは思いません。
まさにブラックボックスなのです。


<むし歯除去>

あなたは歯医者で治療してもらったときに、確実に自分のむし歯が完全に
除去されたことを、ご自身の目で確認したことがありますか?
おそらくそのような方は一人もいないのではないでしょうか。

ちなみに、現在では、むし歯の取り残しを染める色素「齲蝕検知液」で染めて
削った後に赤く残らなければ終了、ということになっています。
これは、確度は高いのですが、むし歯菌そのものを染めているのではありません。
むし歯でカルシウムが溶けた後の歯のコラーゲン残骸部分を染色するものです。

それすら目で確認していないでしょう。

先生も、時間がもったいないのか、それすらせず勘で削っていることがほとんどです。
「エナメル象牙境/EDJ」などと呼ばれる隅の方を見落としでもしたら
後でそいつの中に確実に残存するむし歯菌がフタの中で増殖して・・・

「取れたよ」と先生が言ったから取れたんだろう

・・・本当ですか?

じつを言うと、患者様がそれらを確認することができる歯科医院がごくまれにあります。
ドイツのカールツアイス社製の歯科用マイクロスコープ(双眼式実体顕微鏡)の
400万位する機種には、患者様が鏡像をライブで確認できる3Dのメガネ型スコープを
取り付けられるものがあります。
(私の医院のものは安物なので残念ながら取り付けられませんが)

それを見れば、先生がしっかり削っているか確認しながら治療を受けられるのですが、
第一にそんなのを覗きながら削られるのも、苦しくないですか??

そこで、目をつぶって治療を受けながら「私の場合は大丈夫だったと思いたい」
と信じたいのです。
まさにブラックボックスなのです。


<神経除去>

永久歯の神経を取る処置、ということは、その後に中の空洞を洗浄消毒して、そこに
防腐剤(根管充填材)を密に充填することにより、いわば

「歯の剥製」
「歯のミイラ」

を作成する作業です。

歯には1~3本の根があり、それぞれの根ごとにチクワの穴のように1本神経が通っている
とされます。
Google画像検索などで見られる歯の神経の図も、チクワのような単純そうな図です。
しかし、根によっては売れないキュウリのように強く湾曲していたりします。
また、チクワの穴(根管)がつぶれて断面がひょうたん型になっているものもあります。
あるいは、先端部(根尖部)で網目状に分岐したりもしていることもあります。

以前、母校の歯内治療学の医局での実験で、抜去歯を手に持って神経を取ろうとしても
取りきれない(根尖を穿通できない)ものも1割くらいあった、というデータを
見たこともあります。その道(根管治療)のプロがやってこれです。

また、じつは根管の本数を2本だと思ったら3本だった、という見落としもあります。
(これは、他院での再治療のときに発見されたりします)

このように、どうしても取りきれない神経や機械的に洗浄しきれない管の内面が
残ってしまいます。

そういうものは、結局薬で殺したり、アルカリで溶かしたりして、何とかした
「ことにする」ことで、治療を進めざるをえないというのが実情だったりします。

神経除去や根の治療についてはいろいろありすぎるので深くは割愛しますが
もうひとつ大事なことは、

◆ 先生すら治療中に治療部分(根尖部)を見られない

つまり、指先の勘と電流計(根管長測定器)だけをたよりに処置するしかない、という
ものすごい不確実性が存在します。
いったい他のどの分野に、目で見ないで勘だけで処置する治療があるのでしょうか?
こんな治療は神経とか歯科の治療だけです。

もちろん数百万円の歯科用マイクロスコープで覗いても、見えるのは入り口だけで、
中間部分以降はたいてい大なり小なり湾曲しているので見えません。そこで

◆ 器具の先端が根の先端まで届いたら治療終了

などという、きわめて不確実な基準で治療を終えざるをえません。
先端に届いたことは電流計やレントゲンで確認できますが、神経や汚れを取り残して
いないかどうかを確認しているわけでは全くありません。

後はメーカーの指示通りの量だけ内面研磨(拡大)して終了になってしまいます。
それも、拡大終了根管は必ず正円にちがいないと言う「希望的観測」をもとにして。
まさにブラックボックスなのです。


以上は、歯科医院で 日 常 的 に 行われる処置です。

豊橋でインプラント使いまわし事件がおこったときに、浅はかな私は
「患者様の目に見えないからといって、使いまわすなんて何と非倫理的な」
と、いったんは憤ってはみました。
しかしほどなくわが身を省み、まさに背筋が凍るような恐怖感に襲われました。
それは歯の治療すべてが、

◆ 施主が工程の精度を一切確認できずに進行するがままの工事

に他ならないと改めて気が付いたからです。
私は心の底から自分の仕事に落胆しました。
歯科の治療では患者様がこんなに不確実で不安定で不利な状況に置かれるなんて!

そういえば、「歯」という漢字を見ていて、アレを思い出しました。
数年前の、某建築士による耐震偽造問題です。ずいぶん新聞をにぎわしましたね。
とりあえず、例の物件がその後倒壊したなどの大きなトラブルはまだないようです。
今回の震災でも、特筆すべき被害は今までのところ見られなかったようです。
しかし、私たちの安全を脅かすこのような偽装やブラックボックスが
日常的に存在することはとても怖いことです。

しかも歯科治療の場合は、ていねいか手抜きかにかかわらず、治療体系自体が
構造的ブラックボックスを誘発
する宿命的な問題を抱えています。

じつは、ほとんどの開業歯科医の先生は、うすうすこのことに気が付いています。
しかし、現在の制度上、開業医は経営を強いられるので利潤をあげる必要があります。
ためしに数々の歯科医院のホームページを見てください。

 「私はインプラント/審美治療/○○治療etc. が大変上手です」
 「私は○○国に留学しました/国際○○学会に所属しています」
 「私の治療は完璧です/他院のように悪くなりません/痛くありません」

そんなのばっかじゃないですかwww ウチもですけどorz

まさか自分の口から
「歯科治療とは本質的にブラックボックスであり不確実性を伴うものである」
などと本当のことをポロッと漏らしたら、患者さんがビビって逃げ出してしまいます。
もちろん、自分の店がつぶれてしまいます。

ですから、歯科医師の口からは絶対にこのことは国民に漏れないようになっていますw

患者様は、どのような気持ちで通院すればよいのでしょうか?
「先生を信じろ」とでも言うのでしょうか?
先生ですら見えない治療があるというのに、それを信じろとでも???
「私の場合は大丈夫だったと思いたい」それでは宗教ではないでしょうか?


「歯は治療できない」
私は初回のコラムのタイトルにそう書きました。

あなたが以前受けた処置が、こんなブラックボックスでよかったのでしょうか?
当面痛みが出さえしなければ、中や裏側は大雑把な手抜き工事でいいのでしょうか?

もちろん私も、やるからには極力丁寧にやろうとは思いますし、そうしています。
しかし、家に帰ってきてからが、心苦しいですね。酒が一向に減りません・・・
このような、「歯科治療」と称するブラックボックスを作り出すシステムや作業を
国民医療・国民福祉の枠組みから一刻も早く一掃して、別の職能集団による
「歯の治療のない日本」を何とか確立してほしい・・・

最近はそんなことばかり考えています。
あなたも一度、外科や内科など、他の科と比較して考えてみてください・・・


p.s.
インプラント使いまわし事件に関連してひとこと申し上げますが、万一失敗して
インプラントが取れてしまった(初期固定に失敗)場合、古いインプラントを撤去
(これは非常に簡単です)した後に、穴の保存処置をして数ヶ月待つと、ふたたび
再埋入が可能になります。その際により長いor太い物にするとたいてい問題なく
生着します。
つまり、通常治療の失敗とインプラント治療の失敗では、再現性の観点からみて
通常治療のほうが決定的に不利なのです。骨は再生しますが、歯は再生しません。

【今回のまとめ】

歯科の治療はブラックボックスで、患者様は工程を確認できず、先生もできない。

2011/06/29 06:11 | 歯科の臨床的っぽいこと | No Comments

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