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2015/02/24

こんにちは。根本齒科室の根本です。

前回の続きです。
今の日本では、前回のようなおおらかな話は通じません。
たとえば家族にキャリアの方がいて、その処遇について、などというプライベートな内容とは別に、不特定多数の方に観血的処置をもって接さざるを得ない歯科医院のような施設では、求められる感染対策のレベルは違ってきます。

一般に、感染対策では
「一般予防策」
「標準予防策」
というものがあります。

◆ 中国大陸と肝炎つづき

前回は、付き合いで行った団体旅行の後に、違法売春の取り締まりのニュースと、肝炎蔓延のニュースを目にして慄然とした話までしました。
でも昔は日本もいろいろな意味でほめられたものではありませんでした。

そこで、
「一般予防策(ユニバーサルプリコーション)」
「標準予防策(スtナダードプリコーション)」
のような概念が取りざたされるようになってきました。

詳しくはガイドラインなどがネットでいくらでも落とせますのでそちらに譲ります。

◆ 肝炎をエイズ扱い?!

基本的にはウイルス感染症ですので、薬液消毒と十分な手指の洗浄がキホンになります。
私のところでも、開業当時にいた衛生士のIが、いろいろ調べて、具体的なマニュアルを策定してくれました。

これを見ると「あぁ、なんて素晴らしいんだろう」などと、今でも他人事のようにふと思います。

そこで、ウイルス性肝炎の患者さんが来院されたときには、このようなマニュアルに従って処置を進めていくわけですが、まぁ、面倒くさい!
事前準備はまぁいいとして、事後の清掃の後に、60分放置、とかあります。

① 清掃後の待ち時間は、他の患者様をそのユニットに通せません

ですから、アポの人数が3人くらい違ってきてしまいます。

また、ガイドラインに従って、ドリルなどの道具は完全に分けています。
新しいドリルなどが必要になった時は、通常治療用のところから流用して、その後それを感染症専用にしています。

② 道具を共用することはできません

ですから、あまり大きな声では言えないのですが、経営的な面からだけ言えば、感染症対策は大きなコストであり、明らかな採算割れです。

これらの
「一般予防策(ユニバーサルプリコーション)」
「標準予防策(スtナダードプリコーション)」
は、感染症一般、たとえばエボラのような極端に感染力や危険性の高いウイルスは別として、通常のエイズを含む慢性ウイルス感染症の対策です。
ウイルス対策は、スタッフが感染しないこともさることながら、患者様同士で交差感染を起こさないことも重要視されています。
ですから観血的な道具の使いまわしは論外なのは当然として、さまざまな器具類の洗浄や滅菌についての細かいガイドラインがあります。

◆ 医療機関の使命

これは難しい問題です。
とりわけ、日本では意図的に民間を下請けとして利用することで保険制度を維持してきた歴史的経緯がありますからなおさらなのですが、肝炎やエイズのかたが来院されても「診られない」と言ってはいけないことになっています。
それでも「近所の●●先生のところでは肝炎は診られないと言われた」といって当院に流れてきてしまうパターンも少なくなく、正直、大きな声では言えませんが、複雑な心境です。
これらの感染症対策にからんでは、物理的、なかんずく時間的コストを大きく損ねる形になります。

当院では、少しでもそのあたりのロスを防いで他の患者様に大きな影響を与えないようにする観点から、なるべく、昼ごろの来院をお願いして、昼休みの時間を利用して消毒を終えるようにはしています。
それでも、その日に入れられるアポの人数が3人くらい違ってきてしまうので、ロスでないとは言えません。

しかし「診ない」とはいえないんです。
その肝炎の方だって、(ほとんどの方は)望んでなられたわけではないですから、その意味では善意の方です。最大限忖度しなければいけません。

でも、あまり大きな声では言いたくないのですが、たとえば肝炎が当たり前のような某国にあそびに行って移ってしまったとか、肝炎の代わりにエイズになってしまったとか、など、明らかな自業自得のケースもあるので、現場は非常に非常に悩み多い時間を過ごしているんですよ。

<ケース1>

あるB型肝炎の方がいて、いつもどおりに感染症対策を取りながら治療をしていました。ご本人もそれが一般的な形だと思っていたのですが、あるときその方が、予約時間の変更を申し出て、夕方4時ごろにならないか、という話になりました。
夕方4時と言えば、書き入れ時です。他の方に大きなロスが出ます。
どうも、その方に感染症対策の件が伝わっていなかったようでした。
そこで、私みずから、患者様に改めて説明しなおしました。
B型肝炎は、ご案内のようにDNA情報が細胞にコピーされてしまうので、治ったと思っても、ほおっておくと勝手に自分の細胞が肝炎ウイルスを産生してしまう。昔はそのようなことは細かく言わなかったが、個人的な人間関係とは異なり、不特定多数を相手にする医院のような公的な場所では万全を期さなければならない。その意味で、交差感染を防ぐ意味からも「一般予防策(ユニバーサルプリコーション)」や「標準予防策(スtナダードプリコーション)」のようなガイドラインの励行が推奨されている。
その方は少し驚かれたようですが、納得していただきました。

<ケース2>

あるC型肝炎の方がいて、いつもどおりに感染症対策を取りながら治療や定期検診をしていました。肝炎の方はがん化して、ときどき手術をしていたりしたようでした。ある年の8月ごろに、「これから手術にいってきます」とおっしゃっていました。
私は「それは大変ですね」と言いましたが、その方は「いえ、手術は慣れてるから大丈夫よ」と気にもしていない様子でした。
結局、その来院がその方の最後になってしまいました。
あくる年の3月ごろ、ある男性患者様が「入れ歯が合わない」といって見えました。
お話を聞くと、なんとそのC型肝炎の患者様のご主人の方でした。
「じつは女房から、根本さんが親切でいいと何度もいわれていたんですよ(多分奥様が買いかぶられたか視野がお狭かったのだろうと思います)。しかし昨年末に他界しましてね」
「他の先生のところに通っていたんですが、どんな先生かと思ってね、来てみたんですよ」
ご主人は、歯がわりあい健康だった奥様に比べて、残念なことに総入れ歯の状態でした。
合わないというので、何度も型をとり直し、最近何とか形になりました。。
保険の総入れ歯は一般論で言えばコスト高で不採算なのですが、私はその奥様の顔を思い出すと、そんなことも言ってられませんでした。気がつけば技工所にも無理を言って人一倍一生懸命に打ち込んでしまいました。

感染症対策と言えば、確かにコスト高で割に合わないのかもしれませんが、それでもたまに、こんなほんのりしたエピソードもあります。

人生、「やりたいこと」「やりたくないこと」の座標軸にとらわれることなく「やるべきこと」「やるべきでないこと」という目的意識で自らを律して生きていくことが、もしかしたら大きな今生の課題なのかもしれませんね。

【今回のまとめ】

歯科医院での感染症対策は、公的であるがゆえにシビアでありコスト高でもある

2015/02/24 02:25 | 歯科の臨床的っぽいこと | No Comments

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