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もてる女性は例外なく聞き上手である。特に一見芋姉ちゃん、つまり一般受けしそうもない女性で、「どうしてあの人がもてるのだろう・・・」と思える人は、抜群の聞き上手かつほめ上手である。そのことは、多くの人が認めるところだろう。
否、癒し系、植物系の男の子がはやりの現代において、聞き上手は男性でももてる要素であろう。
聞き上手は恋愛だけではなく、いろんな場面で得をする。
トップのセールスマンは立て板に水のごとくのトーク上手より、無骨だけれど誠実でお客さんの話をよく聞く人だと聞いたことがある。聞き上手だと新入社員時代に先輩によく教えてもらえる。色々な人から耳学問ができ、知識が広がる。と良いことづくめである。
ところがである。
自分は大の聞き下手。
「真理さんはユニークで面白いんだけど、人の話を聞けるようになるともっといいと思います。」
と牧師さん(これでも一応クリスチャンである)に言われたこともあった。
医学部生時代に、若い人との交友関係で悩んでいたとき、
「自分が話すばかりでなく、話を聞くようにすればうまくいくかもしれないよ」
と私よりも年上の医学生に言われたことがあった。
実際そのおじさん医学生は、若い学生とうまくつきあい、実験・実習、試験の前には若い学生から交代で教えてもらって難を乗り越えていたようだった。教えてあげることは多くあっても、教えてもらうことはごく僅かだった私にとってはうらやましく感じたものだった。
自分でも欠点に気付き、直そうとは努力しているのではあるが、例えば
「研修医の生活ってどう」
「うん、ぼちぼち」という風に会話が終わり、続かないのである。
仕方がないので、自己開示に徹しているわけだ。自分が10開示すると、相手がやっと1か2開示するという具合である。
あ~あ、私にはどうして話をしてもらえないんだろう、と自己嫌悪。
ところが 患者さん相手だと自分は他の人より多く情報を引き出しているようなのである。上の先生も、「先生、性生活について聞いてみて」など聞きにくい情報を聞くようにからかう。
新しい患者さんがくると、まずは問診をする。現病歴(現在の問題についての経緯)、既往歴、家族歴(家族構成、家族の病気)、アレルギーの有無、飲酒・喫煙、職業など患者さんの病気、背景を知るためにいろいろ聞き出す。
患者さん相手ではないときには、「こんなこと聞いたら嫌なのではー」 とか「私には話したくないかもー」とためらって聞くことができないことも、仕事のためにためらいなく一生懸命聞き出す。
「おタバコは」
「一日一箱吸いますね。」
「おいくつの頃から」
「20からにしておきます。」
「診断の手がかりにするので、本当のことを言ってくださいね。別に20前に吸っていても警察に言いつけませんからー。(笑)」
と言うと
「ほんとは、15歳くらいから吸っていたよ。へへへ」と言う。
仕事の愚痴、嫁姑問題の愚痴、若いころの自慢話などを回診のときにする患者さんもちらほら。よって私の回診は時間がかかる。
「患者さんのお話を聞くことも大事なんですが、仕事の優先順位をうまくつけないとー」
と時々注意された。
このように私は医師ー患者関係では「聞き上手」のようである。
日常生活では、どうして聞き下手なのだろう。
その原因を私なりに分析してみた。
自分の話よりも相手の話の方が大事なのだという謙虚さとか、相づちの打ち方というテクニックの前に、一番自分に欠けていた重要なところは、「是が非でも聞くのだ」という姿勢 と相手は話してくれるであろう、という信頼感であった。
問診という仕事を通じて聞き上手の秘訣が少し分かった気がした。
今度は私生活でも応用してみようかな。
今の研修先は救急で有名。
他の大学病院では、救急か麻酔科のどちらかを選択させるところが多い中、ここでは救急3ヶ月、麻酔科2ヶ月みっちり行う。
さらに救急については、3次救急(内臓出血、心筋梗塞など緊急かつ高度の医療を必要とする救急)を2ヶ月間、1,2次救急(1次は咽頭炎による発熱など外来で済む救急、2次は急性虫垂炎のように入院が必要だが、3次ほどには高度な医療を必要としない救急)を1ヶ月とみっちり浸る。
1,2次救急は、我が病院ではATT(Advanced Triage Team)と呼ばれ、Triage(帰すか、入院させるか等の振り分け)と救急処置を行うのだが、正規の研修メニューの他に月に2回の当番があり、連休最後の5月6日の日は3回目のATT当番だった。
このATT当番、1年目の研修医3人、2年目1人、上級医が3,4人いて、患者さんが来ないときは、ぼっとしている時間も長い。
ATT当番の始まり、いつものようにぼっとしていると、いきなり「先生!心電図を取ってください!」 と言われた。
「えっ、心電図、取ったことない!」生理学の実習で心電図もあったけれど、5,6人のグループの中で、「実施者」に回ることができるほどの行動力も人望もなく、単なる見学者に過ぎなかったので、そうでなくても実践的なことが苦手な私。どうやってやるのかさっぱりわからないのだった。
恥を覚悟で、「済みません、心電図ってどうやって取るのですか?」と上級医に聞くと
「 人に聞くんじゃない。自分で調べてぱっぱとやるんだ。」
ところが、備え付けの本にはいずれも載っていない。
「載ってないだろ。それくらい当たり前の知識なんだ。ネットで調べろ。時間をかけるんじゃない!」
詳しいものは見つからなかったが、心電図の電極の先には色が付いているのだが、右手首赤、左手首黄色等の電極装着位置だけを確かめることが出来た。
患者さんは、59歳の女性。年を聞いたとき、「おばさま」を想像していたが、40代でとおりそうな若々しさで、しかも美人。ダンスが趣味だそうで、全ての動作が優雅だ。自分より年上で、しかも魅力的な女性に会うと元気がでるよね。
「お待たせして済みません」とカンニングペーパーを見つつ、電極を装着する。
さて、と心電図のスイッチを入れようとしたが、機械音痴の自分は操作方法がわからない。
急いで診察室を出て、「済みません。機械の操作がわからないのですが・・・」と今度は元同級生のS君に頭を下げた。
電極の位置を直され、電圧やその他のモードを調節して記録に入った。
美しいご婦人に「済みません、研修医になったばかりで慣れてなくて。実習の時も遠慮してひっこんでいたのですけど、割り込んでも覚えないとダメですよね」と苦しいいいわけをした。
「分かりますよ。若い人の中でやっていくのは大変でしょう?」となめらかな口調で慰めてくれた。
このご婦人、動悸が激しく、心房細動(心房が450~600/分も収縮する病態。早く収縮しすぎて心室にその動きは伝わらなく、心室の方はきまぐれに収縮する。ありふれた不整脈なのだが、心房に血液がたまりやすく、血栓となりやすくそれが脳に飛ぶと、長島茂雄氏がなった脳塞栓になるので注意が必要だ。 )を起こしていた。
「治療薬は何にするんだ !」
「えっと、抗血栓薬 は後ですよね。心房細動の抗不整脈薬は何がいいんだろう」と調べていると
「ええい、もういい!××を○g点滴して!」
「済みません。ルートまでは取れるのですが(点滴の針を刺すこと)、点滴をセットすることやったことがありません。」
「何をやってるんだね。他の研修医はもうできるよ。他の人に比べて、働ける時間が短いのだから、その分早く吸収しなければいけないでしょ。他の研修医もあんたがこんななのに何やってるのかねえ」
他の研修医2人は、私のそばにきて点滴のセットの仕方を教え始めた。
「その前に心電図もう一度取ろう」ご婦人のところに行くと、待たされているあいだに、回復していて心電図は普通の波形になっていた。
「お大事に」というと
「貴女のような人がいると慰めになるわ。頑張っていいお医者さんになってね。」と軽やかにそのご婦人は去っていった。
結局私のしたことは問診中に、そのご婦人が最近ストレスがたまって多忙だという愚痴を聞いただけ。結果オーライだったが、勉強や訓練の課題を山ほど感じたATT当番であった。
私が今いる消化器内科では、二人のやくざやさんが入院あそばしていた。
過去形を使ったのは、そのうちの一人は5月2日に退院したからである。
一人は、お酒の飲み過ぎで痙攣を起こし救急経由で入院し、もう一人はC型肝炎の治療のためインターフェロン+リバビリン療法を受けるために入院してきたが、前者の急性アルコール中毒のお方もC型肝炎に罹っていた。
さて、このC型肝炎だが、際だった自覚症状がないまま半分は慢性化し、いったん慢性化すると自然治癒は望めず、20年、30年と長期間を経て、肝硬変、肝細胞癌になる怖い病気だ。
このC型肝炎は血液を介して感染する。すなわち輸血、注射バリ、入れ墨によって移るが、今は感染防御が徹底されて輸血用血液はすべてチェックするし、注射は使い捨てだし、一般の人が健全な生活をしている限り感染することはない。
感染するとしたら、採血に不慣れな研修医が患者さんの採血をした注射針を誤って自分の指に刺してしまう針刺し事故くらいだろう。
あとは健全でない生活、覚醒剤の回し打ちとか入れ墨をなさっている方が罹るわけだ。
ところで、このやくざやさんお二人は、背中一面に入れ墨がある上、若い頃は覚醒剤の回し打ちもしたという。
「俺たちがC型肝炎に罹ったのは医者の責任ではない。若い頃はさんざん悪いことばかりやったからなあ、がっはっは」
と笑う。
俺たちというように、このお二人はすぐに仲良くなった。同じ消化器内科の入院患者といえ、4階と5階に分かれていたし、以前の顔見知りだったわけではない。
やはり「類は友を呼ぶ」ということわざがあるように、人間の同じ匂いをかぎ分ける能力はたいしたものだ。
入れ墨においては、一応針の消毒は念入りにやるらしいが、墨の方は何人もに使うらしい。片手落ちだなあ!
もっとも入れ墨も悪いことばかりではなく、アルコール中毒で入院した方のやくざやさん(仮にOさんと呼ぶ)は肺癌の手術をしたのに胸に傷跡がない。うちの胸部外科の教授が執刀したのだが、背中の「芸術作品」を傷つけまいと細心の注意を払って縫合した結果らしい。そういうことができるのなら、他の手術でも傷跡が目立たない手術を心がけて欲しいよね。
さて私はこのOさんの採血を失敗した。
「わしにまかせてくれれば、シャブ打ちの極意で一発で決めてみせる。先生とは年期が違う」とのたまった。
その後面白いことがあったのだが、公開出来ないので秘密。
友人・知人の方はあとでそっと聞いてください。
なにはともあれ、急性アルコール中毒のおじさんは5月2日に退院、もう一人も来週退院の予定である。
何となくさびしく感じ、メアド交換ならず住所交換をいたした次第である。










