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2014/02/02


この前も友人に言われたのですが、わたしはわりと常に前向きでハッピーな人間です。不平不満言ったり、誰かを悪く言ったり責めたり、怒ったりすることもあまりなく、そういう意味で自己完結?・・・してるのかもしれませんね。

なんででしょう。そんなことに費やしている時間があるほど人生は長くはないと思っているからかも?

それに、たとえ多少の嫌なことがあったとしても、生命を脅かされることなくヌクヌクと生きていられる今この瞬間って素晴らしいと思うのです。それは、そのように生きたくても生きられない人をたくさん見てきたからかもしれません。

12月のクリスマス直前、オランダから日本に帰って来る機内で体験した、ちょっと泣けるようなお話をしましょう。

トルコ経由で帰国したのですが、アムステルダムからイスタンブールまでの機内で隣りに座ったお洒落な紳士が妙にウキウキとしていました。

「あなたはロシア語をしゃべるのかね?」

といきなり聞いて来るのです。なんだろうこの人、でも変な人ではなさそうだし、と思いながら、

「いえ。オランダ語ならできますが・・・」

「そうですか、旧ロシア圏の方かと思ったからね。」

私はよくハーフに間違われるほど国籍不明の顔立ちをしているから、不思議ではありません。

「ロシア出身なのですか?」

「いえ、旧ロシア圏ですよ。モルドバという国です。オランダに来て以来13年ぶりに、祖国に帰るのです。」

moldova

「そうなんですか! オランダ移民ですか? 13年ぶり・・・ということは、私と同じ年にオランダに来たのですね。」

「あなたもそうですか。でも私は祖国に帰るといっても、片道切符ですよ。昨日まで刑務所にいました。オランダ政府に追い出されたのです。ちょうどクリスマスだし、まあいい機会でしょう。ははは。」

この言葉ですぐに私は、いろいろなことを察しました。

この男性、実はただの移民ではなく、祖国が内戦状態に陥ったときに、命からがらオランダに逃げて来た、いわゆる政治難民であること。

そういう斡旋エージェントに多額のお金を払えるだけの富裕層の出身であること(紳士の話し方、そして身のこなし方からも自明)

政治難民は通常、祖国の状態が改善されたら、オランダ政府から容赦なく追い出される身であること。

それでもなんとか残り続けようと試みたのだろうが、何からの問題があって(本人の仕事や収入の問題、あるいは警察沙汰になったとか)ビザの延長ができなかったであろうこと。

そのため、ビザ無しの状態でオランダに残り続けたため、移民警察に捕まり、強制収容所に入れられたのであろうこと。

おそらく処置が決まる間、半年〜1年くらい刑務所生活を送り、強制送還が決定し、オランダ政府からテンポラリーのパスポートと片道切符が渡されたのであろうこと・・・。

私のようなヌクヌクした身には想像しえない、壁だらけで困難な人生を、この人は歩んで来たに違いません。彼のような政治難民にはオランダではよく出会います。その度に、日本国という平和で経済的に豊かな国に生まれ落ちたことをこれ以上ない幸運だと感じます。

「祖国ではどんな仕事をしていたのですか?」

「警察官です。」

職務上、命を狙われた、ということなのだろうか。

「オランダでの生活は、どうでしたか?」

「素晴らしかったですよ、こんな私でも妻になってくれた女性がいましたからね。」

「そうですか・・・ これから、どうするのですか?」

「ははは、わかりません。どうしましょうね・・・まずは、13年ぶりに友達と家族に会って、それからですね。」

人の恨みは簡単には消えない。いまだに少なからず命の危険はあるはず。そんなところに帰らなければいけないなんて。いくら友達と家族がいるとはいえ、国を捨てた身。いったいそんな人に、帰るところはあるのでしょうか。

彼はイスタンブールから Kiliya という黒海沿岸のウクライナの街に乗り継ぎ、そこから陸路でモルドバに入るとのことでした。

「これからマイナス20度の世界が待っているんですよ、ははは。」

と、シベリアの人がかぶる様なフサフサの帽子を見せてくれました。

そして、イスタンブール空港では成田行きの搭乗口近くまでエスコートしてくれました。昨日まで刑務所にいた身、誰かと話せるだけでウキウキするのでしょうね。終始素敵な笑顔でした。

すでに成田行きの飛行機が出そうだったので、別れ際はちょっと慌ただしく握手とハグ。

「いつもハッピーに生きるのですよ!」

その言葉こそ、私がかけてあげたいくらいなのに・・・でも喉がつまって、何も返せなかった。私は、泣きたい気持ちを抑えて笑顔を作るのに必死でした。

というのも、この人は、もう明日は生きていないかもしれないのです。戻った瞬間、殺されるかもしれない。そういう危うい場所に帰っていくわけで・・・。

成田までの空の旅では、やるせない気持ちが渦巻きました。先進国のパスポートもビザも持っていて、自由に日本とオランダを旅することのできる、恵まれた身である私。どちらに帰っても、追い出されることもないし、命を狙われることもない。むしろ私の身を守ってくれる家族や友人がいる。食べるものにも困らない。じぶんの悩みなんて、ちっぽけなものにも思えてきます。

オランダにいると、世界的な人種差別を身に感じます。出身国が日本というだけで、自然と優遇される。先進国だからです。どんな場面においても、貧しいアフリカやアジアの一国とは全然違う信頼とリスペクトを得ます。私の努力で勝ち取った属性ではないのに・・・。

モルドバのことを調べると、やはりいまだに内戦状態にある国でした。ある民族が独立しようと試みており、事実上の紛争状態にある、と。そしてそのため、モルドバはヨーロッパ圏でも最貧国であるそう。

クリスマスは、ワインを独りしんみりと飲みました。名も聞かず別れてしまった紳士のことを思いながら・・・今頃どうしてるだろう、家族に会えたのかしら? そして、心から祈りました。無事であれ、と。

2014/02/02 02:41 | オランダ, 旅・非日常 | No Comments

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