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2016/01/25

究極”という言葉が広く一般に使われ出したのは、「美味しんぼ」あたりで使われてからですかね?

Macプリインストールの辞書を引くと、

① ある物事を推し進めて最後に到達するところ。究竟。「―の目的」
② 物事を最後まできわめること。

ということでした。あんまり軽々しく使う言葉ではなさそうです。

プロレスはエンターテインメント、と何度も書いてきましたが、エンターテイン=“楽しませる”というのは簡単なことではありません。
喜ばせる、怒らせる、笑わせる、悲しませる、スッキリさせる、感動させる、唸らせる、考えさせる……これらすべてを含んだものが、プロレスの場合の“楽しませる”なのです。

そのために、プロレスラーは身体を鍛え、訓練を受け、考え抜いて役割を全うします。
ある人はカリスマ性を売りに、ある人はやられっぷりの良さを売りに、ある人はアクロバティックな飛び技を売りに、ある人は卓越したしゃべりを売りに……あらゆる手を尽くして、ガッツリ観客を満足させようとするのです。

で、ですね、もしも、もしもですよ、“その人がいるだけで、観客が満足する”なんてレスラーがいたら、まさに“究極”だと思いませんか?
存在そのものがエンターテインメント、そんなレスラーがいたら……

い る ん で す !

“究極のプロレスラー”と、私が勝手に認定するのが、ジ・アンダーテイカー(The Undertaker)その人です。
208cm(6フィート10インチ)、135.6kg(299パウンド)の巨大な男で、長年WWEを支えてきた人です。

私のプロフィール写真も、この人にインスパイア()されたものでございます。
このコラムの目的は“くわしい説明”ではなく、“いかにプロレスが楽しいかを伝えること”ですので、詳細は上記リンク先やウィキペディアの記事でも見ていただくとして、“アンダーテイカーがいかに凄いか”だけを書かせていただきます。

Undertaker
※似顔絵です。

キャラクターの迷走を凌駕する“存在感”

不世出のスターである彼も、一朝一夕に“究極”に達したわけではありません。
はるか昔、アンダーテイカーになる前、“パニッシャー・ダイス・モーガン”というリングネームで新日本プロレスに来たことがあるんですが、その時は、残念ながら鳴かず飛ばずでした。私も「ダメじゃん、こいつ」と思ったような。

1990年、WWE(当時WWF)でアンダーテイカーのキャラを与えられてから、彼の躍進は始まります。
アンダーテイカーとはまんま葬儀屋の意なのですが、日本で紹介される時は(まんまだとカッコ悪いからか)“墓堀人”となります。
当時は怪奇派のレスラーはたくさんいました。恐らく、最初は彼もそういうレスラーたちの1人に過ぎなかったのではないかと思います。

キャラ設定の粗さにも、それが表れていると思います。
まず、“葬儀屋”なのに死人キャラ。そして、一言も話さないキャラクターでした。
また、(もう死んでるから)痛みを感じないという訳のわからない設定だったので、殴られても蹴られても投げられても、表情はまったく変わりません。本当は痛いこともあったでしょうに。
マットに叩きつけられて横たわっても、何事もなかったように上半身をムクッと起こすギミックは、今でも“ここぞ”というところで使われています。

そういうテキトーな設定にも関わらず、彼は頭角を現します。
数ある怪奇派レスラーでは終わらないだけの能力を持っていたのです。
WWEデビュー翌年の91年には、レッスルマニアに初出場してジミー・スヌーカに勝利。これを契機に、その後のレッスルマニア連勝記録がスタートします。
同年、何とハルク・ホーガンを破ってWWF世界ヘビー級王座を獲得。短期政権で終わったものの、これは当時としては異例の戴冠劇でした。

同時期に出てきたレスラーの中で頭ひとつ抜けつつも、設定はころころ変わっていきました。

骨壺からのエネルギーで動く設定、“異父弟”のケイン登場、なぜか稲妻を操れる設定、姿を消したり現れたりする設定が加わるのですが、いつの間にか痛みを感じない設定はなくなりました。
しまいには、大型バイクに乗って、革ジャン+バンダナ+ブーツの不良中年“アメリカン・バッド・アス”キャラに。何でも本人が怪奇キャラが嫌になり、普段のまんまの自分をギミックにしたのだとか。

しばらくすると、結局は葬儀屋キャラに戻るという、何だかわからない状態で、これは設定が迷走したと言ってもいいのではないかと。

しかし、ファンは一貫して(ヒール時代も)アンダーテイカーを支持し、現在に至っても絶大な人気を誇っています。
つまり、キャラの変化に関係なく、“アンダーテイカーそのもの”が支持されているのです。

 

アンダーテイカーの凄さは、次元が違う

では、アンダーテイカーの何がそんなに凄いのか。

  • 巨体にもかかわらず素速く動ける身体能力。
  • リング内からトップロープのずっと上を飛び越えられる瞬発力。
  • 特長ある決め技の数々。
  • 動きの緩急、静と動の組み合わせの妙。
  • 長丁場の試合の組み立てもうまく、30分以上試合をしても、終始飽きさせない上手さ。

こんなのはごく一部です。言い出したら終わらないくらい凄いところはありますよ。
しかし、彼の本当の凄さは、こうしたこととは違う次元にあるのです。

アンダーテイカーが本当に素晴らしいのは、

“出てくるだけで凄い”

これに尽きます。

出てくるだけ、ただいるだけでも凄いんです!

それが、彼を他のあまたのスーパースターと隔てているです。
最初の方で書いた“その人がいるだけで、観客が満足する”を体現しているのなんて、アンダーテイカー以外にはいないのです。

会場が暗転すると同時に鐘の音が鳴り響くだけで、場内の盛り上がりは速攻でMAXになります。
ある意味、“出てくる前から”観客の心を掴んでしまうわけですから、“出てくるだけ”という表現は正確ではないかもしれません。

まあ、ちょっとこの動画を見てくださいよ。

鐘の音が鳴ってから試合のゴングまで、長いと5分以上かかりますが、観客の目はその間アンダーテイカーに釘付け
私も、アンダーテイカーの入場は、毎度毎度同じなのに、ジッと見入ってしまいます。

前回も書いたように、入場シーンはレスラーにとってすこぶる重要です。誰もが色々な工夫をこらして、盛り上げようと努力するものです。

が、アンダーテイカーは、基本、“ゆっくり歩いて、たまに白目をむく”だけ。
たったこれだけしかやらないのに、数千人から数万人の耳目を自分だけに集中させることができるんです。

よく、「武道の極意は“闘わずして勝つこと”」なんて言いますよね?
プロレス的には、“試合をしなくても盛り上げること”が極意なのではないかと。
アンダーテイカーがその“極意”に到達したということは、間違いないと思っております。

 

The winning streak was over

そして、先ほどサラッと「レッスルマニア連勝記録」と書きましたが、初レッスルマニアのジミー・スヌーカ戦を皮切りに、2014年のレッスルマニア30でブロック・レスナーに敗れるまで、何と21連勝の結果を残しています。

2回目に書いたように、試合結果はあらかじめ決まってはいます。
が、とにかく2013年までは、レッスルマニアで負けていないのは、アンダーテイカーだけだったのです。

恐らく何年か経ってから、誰かがアンダーテイカーがレッスルマニアで負けていないことに気づいて、それをギミックに変えたのではないかと邪推してるんですが、とにかく、彼の連勝記録はレッスルマニアのひとつの売りになったのです。
COOのポール・レヴェスク(リングネームは“トリプルH”)曰く、「アンダーテイカーの連勝記録が興味を引くので、カードも決まらないうちからチケットが売れる」とか。

何でもレスナーに負けて連勝記録を終わらせたのは、アンダーテイカー自らの希望だそうです。
これはインパクトのある試合結果ですから、リークを防ぐため、経営陣と本人たち以外のほとんどの人間に伏せられており、何とレフェリーまで知らされていなかったとのことです。
なので、アンダーテイカーが負けたのを見たレスラーたちも驚いたくらいですから、観客の驚きたるやたいへんなものでした。

我が家でも、子供たちと3人で見ていたのですが、カウントが3つ入った瞬間、一斉に「ええええっ!?」と叫び声が上がりました。もちろん、私も同様でした、
会場のビジョンに映った「21-1」(21勝1敗の意)の数字を見ても、現実のこととは思えない。
そのレベルの衝撃だったのです。

私はもちろん、子供たちもプロレスがエンターテインメントであることは百も承知です。
しかし、事前に結末を知らなければ、衝撃的な結末はやっぱり衝撃なんですよ。
上でご紹介した観客以外にも多くの人が衝撃を受けたようです。お時間のある時にでも、「undertaker winning streak end reaction」で動画検索してみてください。すっごいリアクションが山ほど見られます。

翌2015年のレッスルマニア31ではブレイ・ワイアットを相手に勝利しましたが、連勝記録そのものは終わってしまいました。
彼が自ら望んで連勝記録を終わらせた、という事実は重いのです。

長年WWEを、いや、世界のプロレス業界を牽引してきた男が、いよいよ引退を本気で考えているのではないかという気がしてならないのです。

2016年4月3日、ダラス(アーリントン)で行われるレッスルマニア32。
史上最大の観客数が見込まれており、しかもアンダーテイカーの地元テキサスでの開催です。
ここで彼は引退するのではないかと、ファンの間では憶測されています。
しかし、本日現在まともなチケットは入手不可能です。
WWEネットワークで見るしかないのか……(勝手ステマ。お金はもらってません)

ファンの1人として、しっかり見届けたいと思います。

2016/01/25 06:29 | 群雄名鑑 | No Comments

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