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1995年10月9日の東京ドームで鳴り響いた曲に度肝を抜かれた時のことを、今でもありありと思い出せます。
曲名は「Mannish Boy」。
シカゴブルースのパイオニアのひとり、マディ・ウォーターズの名曲です。マディを知らない方も、あのローリング・ストーンズがバンド名を彼の曲名から取った、といえば、どんだけの人かはご理解いただけると思います。
なぜ度肝を抜かれたのか。
何と、プロレスラーの入場テーマとして使われたのです。
当時も今も、日本のプロレスラーの入場テーマはエレキギターとシンセと打ち込みのドラムの曲がほとんどで、ギターソロはツインギターがハモるみたいな様式があります。
ぶっちゃけ、ダサい曲が多いというか……
それが、50年代のブルースで、しかも1コードの曲で入場してくるプロレスラーがいるとは!
その「Mannish Boy」に乗って堂々と入場したのは、まだ若手の高山善廣。本編の主人公です。
高山さんのこれまでの実績を年代記的に書くのは、このコラムの芸風ではありません。まあ、Wikipediaをご覧いただければ十分かと。
ただ、これだけは言っておきたい。
高山善廣のキャッチフレーズは「帝王」ですが、まさに彼こそ掛け値なしの日本プロレス界の帝王なのです。
日本プロレス界では、新日本プロレスのIWGP王座、全日本プロレスの三冠王座、プロレスリング・ノアのGHC王座が3大王座と言われています。そのシングルとタッグの王座をすべて獲得したただ1人の男、それが高山善廣なのです。
そう言うと、「プロレスの王座は強さの象徴ではないから云々かんぬん」と言い出す奴がいるのですが、もうね、アホかと。
そりゃ確かにプロレスの王座は本当に勝負に勝ったから取れる、というものではありません。その団体が「こいつをチャンピオンにしよう」と決定して、与えられるものです。
じゃあ、芥川賞はどうなのか? グラミー賞はどうなのか? アカデミー賞はどうなのか?
誰かに与えられた賞は、意味がないの?
ましてや、(普通はないと思うけど)芥川賞と直木賞と本屋大賞を取った作家って、凄くないですか?
高山善廣は、まさにそれなんですよ。
敢えて言っちゃえば、ボクシングや総合格闘技の王座なんて、強ければ取れちゃうでしょうが。
どんなにアホでも、どんなに嫌な奴でも、強ければ取れちゃうのが、スポーツ格闘技の王座です。
しかし、プロレスの王座は違います。
これまでのコラムをお読みいただいた方は、一流のプロレスラーに必要なスキルがいかに多岐にわたり、身につけるのが困難なものか、おわかりいただけると思います。
チャンピオンは、その団体の「主人公」であり、「座長」であり、「センター」なのです。
主要3団体を渡り歩いて、全団体で「こいつが王者にふさわしい」と評価され、実際にベルトを腰に巻いたって、とんでもないことなんですよ。
そして、高山さんは総合格闘技の試合にも積極的に挑戦しました。
残念ながら総合格闘技での試合は4戦して全敗。
しかし、そこでもプロレスラーとしての姿勢を崩しませんでした。
作戦を練って手堅く勝ちに行くような試合は一切しません。真っ正面からぶつかって玉砕。
PRIDE 21でのドン・フライとの試合は、その壮絶な殴り合いをご覧になった方も多いのではないでしょうか。
見てください、これを。
このド迫力はプロレスだ格闘技だの枠を超えています。
掛け値なしに、世界中の格闘技ファンに伝説的に語り継がれている名勝負なのです。
私が高山さんと知り合ったのは、2013年でした。
彼が代々木上原で経営していた飲み屋さんにお邪魔した時のことです。
その後、まあ常連と言ってもいいような状態になり、プロレス好きのマーケターのオジサンたちで押しかけては長居していたのですが、いつも高山さんは私たちに同席して、けっこうヤバい話も含めてプロレス談義に付き合ってくれました。
そういう人は私たち以外にもたくさんいたのではないでしょうか。
高山さんとは年も同じで、ローリング・ストーンズの熱狂的なファンという共通点もあり、いつも楽しく話をさせていただきました。
Facebookでも「友達」の1人に加えていただき、メッセージのやり取りもかなりの回数になりました。
WWEの来日公演を見に行くと偶然何度も近くの席になり、高山さんの隣の芸能人が来るはずだった最前列の席に、うちの子を2人座らせてくれたこともあります。
「いつもWWEでしか会わないなあ……」と思ってたんですが、それもそのはずで、日本の団体を見に行く時は、高山さんは試合に出てるんですよね(笑)。
写真は高山さんにうちの娘との写真に応じていただいた時のものです(身内の写真はネットに上げない方針なので、トリミングしてあります)。
というようなことだけでも、いかに高山さんがファンを大事にしてくれるか、よくおわかりいただけると思います。
あんな怖い顔をして、本当に親切な人なのです。
WWEのネットの噂さえ出回っていない話、身体を痛めないトレーニングのしかた、ビッグマッチの感想、ストーンズのローディーがアレした話……いろいろな話をしてくれました。
相手はプロレス界の帝王、こっちは一介のファンですよ。
おそらく、こうやってやり取りしたのは私だけではないはずです。かなりの人が高山さんの(陳腐な言い方ですが)神対応を受けているはずなんです。
現代日本のプロレス界で最高の実績を残しているのに、それに驕ることなく、1人1人のファンを大切にする人なんです。
そんな高山さんも、2017年5月4日を最後に、リングに上がっていません。
当時参戦していたDDTのリングで頸髄損傷という重傷を負い、首から下が麻痺状態になってしまったからです。
一時は生命の危険さえあったのですが、懸命のリハビリの結果、2018年11月現在では肩のあたりまで感覚が戻ってきているそうです。
2018年8月31日、盟友の鈴木みのる選手が中心になって、ほとんどすべての主だったプロレス団体からプロレスラーが集結し、「TAKAYAMANIA EMPIRE」という興行が行われました。
ほとんどオールスター戦と言ってもいいような興行です。
あれだけのメンバーが集まり、解説を小橋建太や佐々木健介が務め、開場前では多くのプロレスラーや格闘家が募金の呼びかけをしていました。
高山さんの人徳なんでしょうね。
今回の記事は、ぶっちゃけ募金の呼びかけです。
美人の奥様や多くのレスラーの支えがあるとはいえ、頸髄損傷という重傷は、とても治療期間が長いのです。
あなたがプロレスファンであれば、たぶん一度は募金されたことがあるでしょう。
うちの娘も、WWEの会場で本当によくしていただいたので、募金が始まった日に小遣いから募金しました。
でも、おそらくまだまだ足らないんです。また、募金してください。私も続けます。
私は1ファンとして、高山善廣がリングに帰ってくるのを見たいんです。せめて自分の足でリングに上がり、引退の挨拶をして、自分の足でリングを降りるだけでもいい。
あなたがプロレスファンでなくても、1ミリでも感じることがあれば、少額でもかまいません。募金していただけませんか? 100円でも、何なら10円でもいいです。
募金の仕方は、高山さんのオフィシャルブログに案内があります。
厚かましいお願いで恐縮ですが、ご協力を心からお願い申し上げます。
※なお、高山さんの「高」は、本当は「はしごだか」です。今時大丈夫だとは思うのですが、UTFでないと表示できない文字ですので、「高」と表記しています。