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2016/09/19
1980年代の半ば、現在オッサンの私にも、大学生だった時代がありました。
ご多分に漏れずアルバイトなんかもしていたのですが、その中で最も強く記憶しているのが、“リング屋”さんでした。
そう、プロレスのリングの運搬と組み立て、撤収を請け負う仕事です。
今はなき「UWF」という団体、それも「第1次」の方で、何度か手伝わせていただきました。
新日本プロレスとUWFのリング屋を請け負っていた某社の社長の息子が、たまたま大学の同級生だった関係で、声がかかったのです。
リング屋アルバイトを通じて見聞した話だけで何本か書けるのですが、今回はリングの構造について、書きたいと思います。知らないですよね、リングの構造?
フッフッフ、私は知ってます! 何せ荷下しから撤収までの各工程をすべて、少なくとも一度はやりましたからね。
なお、あくまで私が知っているのは「新日本プロレスとUWF」のリングだけです。他団体のリングについては、知ってる範囲で注記します。

リングのつくりかた

リング設営は、まず四隅の鉄柱を置くところから始まります。
この鉄柱、クッソ重いのですが、1人で担がされます。
最近、インディ団体のリング設営の写真を見て、若手レスラーが2人がかりで担いでるのを見たのですが、嘆かわしいことです。レスラーのくせに何と軟弱な……1人で担げよ!
床を傷つけたり全体がずれたりするのを防ぐため、頑丈なゴムのシートを敷き、その上に置かれることになります。
01_steel_post
次に、各辺の真ん中に1つずつと、全体のど真ん中に1つ、マットまでの高さの支柱を計5本立て、それぞれの間を鉄骨で繋ぎます。全体としては田の字型になりますね。
ちなみに全日本プロレスでは、鉄骨ではなく木材を使っているそうです。
柱どうしはケーブルでしっかり固定されます。
02_flames
続いて、厚くて固いを、骨組みの上に並べて敷き詰めます。
03_bourds
この上からマットを敷くのですが、まずは厚いゴム(恐らく鉄柱の下に敷いたのと同じ材質)を敷きます。
04_rubber
その上から2センチ厚くらいのフェルトを敷き詰めます。
何と、マットはこれだけ。敷きながら、「こんなもんで衝撃を吸収できんのかよ?」と思ってました。
推定ですが、投げ技でレスラーがマットに叩きつけられた時の「バン!」という音は、演出的にけっこう重要ですから、分厚いマットで音が消えてしまわないようにしたのではないかと思います。
なお、全日本は板の上に普通の体操で使うマットを敷いていました。まあ、ないよりはいいのでしょう。
05_felt
マット類を弛みなく敷き詰めたら、キャンバスのシートを掛け、下図のようにロープで鉄骨に固定していきます。
シワがよってしまうと、足を取られて負傷する可能性がありますから、この作業はとても重要。
手の空いている者が全員で、1つずつキツく締めていくため、けっこうな時間がかかるのです。
下図の要領で、鉄骨に溶接されたフックにロープで締めていきます。
06_cambus
ロープを3Dで再現するのはめんどうくさいので、省略。
07_cambus
お次はロープです。
ロープといっても、ワイヤーにゴムを被せたものです。WWEでは、ワイヤーは絶対に使わず、繊維のロープだけを使うそうです。
全体が輪のようにつながっているため、1人1本ずつ、肩にかけて運搬するのですが、何せワイヤーですから、とにかく重い!
バイト翌日は肩に食い込んだロープの形にアザになるほどです。
金具で鉄柱にロープを固定して、申し訳程度のカバーを付けます。
なお、ロープがピーンと張るように金具を締めるのは、試合直前。それまでは、やや緩い状態にしておきます。
4つのコーナーにコーナーポストをくくりつけます。
08_posts
最後に、エプロンに垂れ幕を掛け、その裏に備品(階段、ビニールテープで補強したビール瓶に水を入れたのをまとめたバケツなど)をしまい、完成です!
ちなみにビール瓶の水を使っているところを見たことがありません。
09_ring
この後は売店の設営です。
シリーズ共通パンフに対戦カードのスタンプを押したり、グッズや釣り銭箱を並べたり。
開場後は売店の売り子仕事がありますが、設営が終わったらしばし休憩。
仕出しの弁当を食べて、後は選手が会場入りするまでは自由時間なのです。
本当はいけないらしいのですが、目の前にモノホンのリングがあるのに、大人しくしているわけがありません!
もちろん、プロレスごっこon the本物のリングとなるわけですよ。
さて、それでは、本物のリングに上がったことがないとわからない、プロレスのリングの秘密をお話ししましょう!

 ロープは痛い

プロレスをあまりご存知ない方でも、レスラーがロープに走って、反動で戻る動きには覚えがあると思います。
あれ、プロレスラーは顔色ひとつ変えずにやってますが、ロープに当たるとメッチャ痛いです。
うっかり強めに当たりに行ったら、その場でうずくまりました。
鍛えてるとはいえ、プロレスラーだって本当は痛いはずです。我慢してるんですよ、あれはきっと。

トップロープから見下ろしたリング

リングに上がったら、やはりトップロープに上ってみたくなるのは人情というものです。当然ながら私も上りました。
あのー、スキーなんかで、下から見ると大した斜面に見えなくても、いざ上がって滑ろうとすると、すんごく急な斜面に見えたりすることがありますよね? 大げさでなく、垂直に近いような錯覚をする場合さえあります。
類似の現象は、トップロープの上でも起きました。
もんのすごく高い所に立ってるような印象を受け、リング全体が節分の豆まきの枡くらいに見えるのです。
10_from_top
誇張抜きで、こんな感じに見えます。
トップロープで立ち上がると、目の高さはマットから3mくらいの高さになりますから、確かに結構な高さではあるのですが、想定を大きく超える恐怖感がありました。
上った時は華麗にダイブしようと思っていましたが、そのままスゴスゴとコーナーから下りましたとさ。

カウントはつらいよ

プロレスごっこのレフェリー役をさせられた時、当然フォールの際にはマットを叩いてカウントするわけですが、あれがね、大変なんですよ。
軽く叩いてると、ゴッツイ先輩たちから「音がちっちぇえ! ちゃんと叩け!」と怒られたので、大きい音がするように叩くと……
叩くと……
痛え! 痛えよ!
薄いとはいえマットがあるので、叩く音は弱まります。その上で、大会場の後ろの席でも聞こえるような音量でマットを叩くのは、なかなかハードルが高いアクションです。
リング屋さんは肉体的にハードなアルバイトなので、バイト翌日は身体のあちこちが痛みました。
全身の筋肉痛、鉄柱やロープが食い込んだ肩のアザ……
確実に言えるのは、レフェリー役による右手の痛みは、全体の2割は占めていました。
あのジョー樋口さんの右手は、厚みが左手の倍近くあり、箸も使えないほどだったと聞いたことがありますが、実感をもって理解できます。

レスラーだけを最低限保護する仕組み

さて、そんな痛みの根源のようなリングではありますが、杉下右京ばりに細かいところが気になる私は、それでも「ダメージを軽減する仕組み」を発見しました。
これは、新日本プロレスと同じリングを使っている場合の話で、他の団体についてはわかりません。
四隅にある鉄柱には、骨組みになる鉄骨をはめるための枠が一体化しています。
ここのところですね。
11_spring
アップにすると、細かい部分の粗が見えますね。実際の鉄柱とちょっと形状が違うのですが、めんどうなのでこのままで。
実は、この中にスプリングがあるのです。
ただし、バネ鋼の直径が5mm以上ありそうな、ものゴッツイやつです。
試しに鉄骨をはめて上から押してみたんですが、ピクリとも動きませんでした。体感で1mm押し込めなかったと思います。
つまり、マット全体が一体化した状態で、鉄柱のバネが衝撃を吸収するようになっているのです。
実際問題、あんな固いバネで、どのくらいの効果があるのかはわかりませんけどね。
なお、こうした整ったリングは日本とアメリカくらいで、ヨーロッパやメキシコなどでは、カチカチだったり、逆にフカフカでジャンプしづらかったり、マットが平らでなかったりと、レスラーがその力を存分に発揮できない場合もあるようです。
プロレスをご覧になるとき、“リングそのもの”に着目してみるのも、また一興です。
今度見るとき、よーく見てみてください。
2016/09/19 04:32 | 全般, 見方 | No Comments

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