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2010/03/30

連載開始した途端にすっかりご無沙汰、失礼しました。

実はお彼岸までしばらくの間谷間を離れて百姓を休んでおりました。お彼岸前にはこの谷間に戻ったのですが、連休前から昨日にかけて来訪者が重なり、彼らと一緒に過ごすのに忙しく、百姓仕事は長い休日を頂いていたという次第です。

そこで今回は、その休日中の来訪者達と共に過ごしたひとときから、他所では恐らく見ることができないであろう一コマ、「籾摺り」の様をご紹介します。

来訪者達(主に学生時代や勤め時代からの友人達です)が到着すると私は彼らに長旅の疲れを癒す間も与えずに宣言します。
「ここでは自分が食べるお米は自分で準備してもらわねばなりません!」
もちろん、皆、「はあっ?」という顔をしています。
「ご安心ください。『準備』と言っても米を買って来なさい、とか、況して、今から自分で育てろ、などと無茶を申し上げるのではありません。『準備』とは即ち、この『籾米』から籾殻を取り除き、人間が快適に食することができる玄米とする事、即ち、『籾摺り』です。今から演ってみせるから覚えてください」

我が家の現在の籾摺りには擂鉢とかなり太目の自家製擂粉木を使っています。
先ず、床に籾殻を受ける為に大きく半畳程に紙を拡げて置き、その端に擂鉢を抱えて座ります。
次に、籾米を擂鉢に適量入れ擂粉木を持ちます。この際に籾米を余り大量に入れると却って効率が上がらないので、量はやや控え目にするのがポイント。そして徐にゴリゴリと擂粉木を左廻り(時計の反対廻し)に動かして籾殻を摺り外してゆきます。
しばらく摺ると籾殻が上の方、玄米が下の方に溜まってきます。そうしたら、擂鉢を両手で拝むように抱えあげ、リズミカルに鉢を揺すりつつ、フイゴのように勢い良く、息をふうふうと吹きかけて籾殻だけを鉢の中から吹き飛ばします。

この様は、率直に言って正気の大人がやる所業とは思えない、滑稽極まりない図なのですが、この愚挙の結果、玄米は籾より重いので無事鉢の中に残るのです。そして、この愚挙を都合10回程繰り返すことで、無事、きれいに籾が外れた玄米を手に入れることができるのです。

但し、この籾殻を飛ばす際には上手く力と方向を制御しないと、籾殻だけでなく玄米まで一緒に吹き飛ばし、自らの頭に米糠の粉を振り掛けることになり兼ねないですから、注意が必要です。観察していたら、来訪者達の何人かは、籾摺り作業の後、まるで急に白髪になったかのようでした。

さて、この私のデモンストレーションを、皆はびっくり呆れ返り、苦笑いしつつ眺めています。
そこで私は続けます。
「この籾米は、私が昨年、自ら全て手作業のみで種を降ろし、苗を作り、植え、育て、収穫し、天日干し、脱穀、選米(唐箕掛け)した籾米です。一粒たりとも疎かにする事は許されません!基本的に君達は恐らく一食で1人一合程は食べることと思う。明日の昼までの三食の内、二回はご飯を食べる予定だから、1人最低一合半を目標にして籾摺りして頂きたい。ちなみに、今こうして摺りあがった玄米は一合の僅か1/5程度であります。」

皆からは、悲鳴と抗議の入り混じったようなどよめきが起こります。
多分、私だって、彼らの立場だったとしたら、いきなりこんな事を言われても困惑するばかりだったことでしょう
ところが、この籾摺り、いざ始めるとほとんどの人が結構夢中になってしまうのです。皆、はっきり言って、「一心不乱」にやっていました。今回の来訪者の中には、自分の順番を待ち切れずに、「早く交代してくれ」などと願い出る者まで現われました。そして、皆が一通り経験した後では、それぞれが自らの籾摺りのコツについて、挙句には、籾摺りに当たっての心構えを熱く語り、討論まで始める始末だったのです。
曰く、「息を吹きかける際には注意深くあらねばならない。君のやり方では誤ってお米を飛ばしてしまい兼ねないではないか?君には一粒のお米も無駄にしてはいけない、という想いが足りないのではないのか?」「いや、そんな事はない。私は今、モッタイナイの精神の具現者となって息を吹きかけているのである。」「君の擂粉木にはいささか力が篭り過ぎているのではないか?もう少し優しく扱わねば大切なお米様が割れてしまうぞ。」云々。。。

さて、ご飯時、土鍋で炊き上げた玄米飯。
頬張った皆が口を揃えて言いました。
「このご飯は本当に美味しいねー!」
勿論です。私が大切に育てた無農薬、無肥料のお米です。況してや、籾から摺ったばかりのお米は将に「さっきまで活きていたお米」なのですから、普段みんなが食べている「死んでから随分経っているお米(白米)」よりも美味しくなかろうはずがありません。

しかし、美味しかった一番の理由は、何よりも、皆であれほど一生懸命に、美味しくなれ、美味しくなれ、と魔法をかけて(息を吹きかけて)一緒に準備したお米だったからですよね!

2010/03/30 09:47 | 暮らし, 食べる | No Comments