Home > 日本画の創作法
先日、日本画で広く一般的に使用されてきた、牛から生成する三千本膠(にかわ)をつくる最後の業者さんが、廃業されました。
日本画や、書道家、日本人形の世界などでは、ずいぶん話題になり、買占めが起こったり一騒動であったのですが、実際、ほとんど添加物を加えずに、とてもシンプルに作られてきていた材料ですので、なくなってしまうことは、大変残念です。
日本画の画材は、日本独自のもの、というよりは、世界中でもともと使われてきていた、とてもシンプルな彩色画の画材です。
ものを燃やした煤に膠(牛などのコラーゲン質)を混ぜて線を描き(墨)、採取した色石や泥を砕いて、膠を混ぜて、色をつくり、草花や虫の汁で、画面を染め上げ、繊維質の草を栽培しトロロアオイなどを混ぜて、紙をすき…
そういう自然の材料で、繊細な心の色やかたちを、同じ自然の産物である、人間の手で描き起こしていくからこそ、鑑賞する人間の心に、感動の波長を与えることができるのだ、というふうに感じています。
そう信じているからこそ、わたしは、どれだけ入手に苦労しても、どれだけ扱いにくい画材と格闘しても、日本画の、天然の、最もいい状態の素材を探し、描き続けていけるのだと思います。
誠実に、美しいものを描きたい、という気持ちが、最近ますます大きくなってきています。
扇面平治合戦図 俵屋宗達画 池上紘子模写
最近、日本画をはじめて学ぶにあたってのご質問を、初心の方から、いくつかいただいたので、一度整理してみようと思います。
まず、『日本画』とは、明治以降に、洋画と対立してつくられた造語であります。
油絵が固着成分として乾性油を使用するのに対し、日本画では膠を使用し、石や泥、貝殻の粉末などを絹や紙に定着させます。
明治以前は、同じように、外国製の『唐絵』と、和様の『やまと絵』に分類され、時代によって分類もまちまちであやふやな部分も大きいですが、一例をあげると桃山から江戸期ごろはおおまかに、同じ時期中国で流行した墨絵(水墨)で中国風の題材を描いたものをを唐絵といい、和様のモチーフを描いた彩色画をやまと絵といいました。
しかし、彩色画の技法のルーツも、もとをたどれば中国であり、全体に、大陸文化の影響を濃厚に受けて育まれた日本の文化の中で、技法や材料の面で中国画と日本画を区別することは、非常に難しいことです。
では、日本画、というか、日本の絵画の独自性は、どこにあるのでしょうか。
まず、現在使用されている、『日本画』に用いられる膠彩画の技法は、もともとは、膠という、世界中で接着材料として使用されてきたものによって、世界中の貴石や染料、泥や金属を定着させる、非常に古典的でシンプルな技法を用いられています。
これだけ、古い時代の技法を現在まで数千年間ほぼそのままに踏襲されているのは、世界で類がなく、ここに、日本画の非常に大きな特性があるといえます。
この膠絵の技法によって、顔料や染料の色味を濁らせることのない、非常に繊細で発色のよい表現が、日本画の特色のひとつともなっています。
また、『線描』という、中国文化の影響を受け東アジア文化圏で、非常に重要視されてきた技法が、いまに伝わっていることです。
扱いこなせる作家は減っていますが、書と同じく、筆を立て、穂先を使い、腰をいれ、訓練された獣毛によって表現される、対象の質感と、無駄を排除する線は、見るものを魅了し、大胆にダイレクトに主張し、一気に作品世界に引きずり込む、ひとつの特色であるといえます。
また、唐様と対立してしばしばもちいられる和様の概念である、非常に柔らかで、繊細かつふくよかなイメージは、現在も、日本独自の概念として、世界に誇ってよいものであると思えます。
おなじく、日本独自の季節感、装束などの文化(もちろん現代のものも含めて)は、日本の絵画の特色ともなり得ますし、浮世絵からマンガへと発展する表現は、いうまでもなく、日本独自の表現として、世界に特別な位置を与えられた表現の一種であります。
常に、最先端の研究が求められる、画壇や市場の中では、現在、古典研究、温故知新というよりは、文化の枠を取り払った作品が求められる傾向にあります。
しかし、学ぶ者が『日本画』の独自性をのぞむのであれば、最初に、古典をよく学び、よく観て、筆を学び、写生をし、模写をし、彩色法を研究し、絵画に付随する文学や和歌、焼物、茶や華、書などの知識を広げ、焦らずに、ひとつずつ、蓄積していっていただきたいと思います。
古典の流れの中から、自身の表現を学ぶのであれば、
① 模写
② 鑑賞
③ 写生
④ 古典籍の研究
は必須項目であります。
●初心の方の筆選びについて
筆は、多くの名前がついていて、とてもわかりにくい、とご相談を受けることが多いです。
基本的には、自分の描きやすいように、表現に適した筆を選べばよいのですが、よく使われる筆を簡単にご説明します。
① 彩色筆 もっとも一般的な形状の筆。
② 平筆 平たい刷毛形の小さい筆。
③ 絵刷毛 刷毛。ドーサ用と、胡粉など白い絵の具用、染料、墨などに使うものがあ ると便利
④ 面相筆 細かい表現に適した、細い筆。いたち毛などの腰のあるものを使うことが多いです。
⑤ 隈取筆 ぼかし筆。含みが多く、たっぷりとした表現をしたいときにも使います。
この種のものを、何本かずつそろえればよいと思います。
あとは、お店によって、名前がついていたり、金泥を描く用の特別の筆や、馬や猫などの特殊な毛を使用したもの、作家の好みで作られた筆などあります。
●硯選びについて
昔から、いろいろなことのいわれる硯ですが、少し品質のいいものを置いておくと、墨のおりもよく、長く使えます。
ひどいものですと、なかには硯の中に違う材質のものが詰まっているようなこともあります。
好みに合うものを探して愛用してください。
中国の端渓硯、歙州硯などが有名です。デパート、書道用品店、中国物産店などにあります。日本画でよく使用される、墨のやわらかく、膠の弱い、松煙墨は、端渓硯が適しているように思っています。
日本の石では雨畑や、那智黒などが有名です。
● 墨について
墨には、油煙墨と松煙墨があります。
油煙は菜種などの油と膠、香料を材料にしています。
最近では、多くのものに工業油を使用されているので、墨の色の美しさにこだわりたい場合は、よく調べて『菜種油煙墨』とされるものを探してください。
松煙は松などの煤と膠、香料を材料にしています。
経年変化で美しい青を発色するとされていますが、発色は松の質にもよるとされています。
最近は、新しい状態でも青を発色させるため、藍を混ぜられていることが多いです。
藍は墨と分離して、ひどい色彩になるので、多少茶色くても、天然の色調を生かして描くほうがよいでしょう。
松煙墨は、日本画の上書きに適した、細かな表現の可能な美しい墨となります。
紙の用意ができたら、油絵のキャンバスのように、パネルに張り込んでみましょう。
紙に日本画を描く場合、紙そのままでは水にぬらすと波打ったりしてしまうので、パネルに張り込んで、ピンと張った状態にします。
紙は、あらかじめ、パネルの大きさ+2~3センチ程度の糊しろを残して、裁断しておきます。大きな作品の場合は、パネルの上に紙を置いて、パネルの形に折って、そこから糊しろを残してカッターで切ります。次に、裏側に水を張る、と表具師に教わったのですが、実際には表に水を張ったほうがうまくいくようです。
刷毛で紙の表に水を引いて、紙の裏の糊しろの部分にパネルの角から5ミリほどあけて(画面裏への糊の侵入を防ぐため)糊を塗って、パネルに張ります。
角は、軽く、左右に均等な力がかかるようにさっと押さえて完成です。
従来の裏から水をひく方法であると角にどうしてもしわがよったのが、この方法だと、力をかけずによく張り、はがす際にも、とてもきれいです。
他に、直接、糊しろ部分にガンタッカー、画鋲などで張り込むと、うまくいくという方もおられます。
パネル本体の制作も、場所と、電気のこぎり、小さな家庭用の電気ねじ回しなどがあれば、とても簡単に制作できます。
画面となるベニヤ板を、しっかりと直角に切ることができたら、裏から、補強のための角材(30ミリ×25ミリ~40ミリ×35ミリ程度)を周囲と中に数本渡せば完成です。
小さな作品を作る場合ははじめのうちは、画材屋さんで購入したパネルを使用するのもよいですが、大きなものになっていくにつれ、価格も上りますし、自分でのパネル制作は自由なサイズを作れる利点があります。ただし、自由なサイズに制作すると、既製品の額が使用できないので、注意が必要です。
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作家近況
東京、上野の森美術館 日本画院秋季展 出品
会期9/2~9/7
詳しくは、ブログにて
●紙について
日本では、古くから、繊維の強靭な多くの和紙が漉かれています。
http://www.tesukiwashi.jp/sanchi_map.htm
日本画の基底材としてよく知られるものに、雲肌麻紙、鳥の子紙、ほかに裏打ちに使用される美濃紙などがあります。紙の種類はさまざまで、多くの和紙が日本画に使用されます。丁寧に漉かれた和紙に、天然の染料を発色させると、それだけでも十分美しい芸術的作品になります。
いろいろな紙を試し、紙の美しさを味わってみて下さい。
紙は植物の繊維と「ねり」といわれる、トロロアオイなどで漉かれます。
繊維として、使用される代表的なものに、楮、三椏、がんぴがあります。
それぞれに、繊維の長さや特色が違い、紙質の違いなども生まれてきます。
●絵絹について
日本画では、近年紙を使用することが多いですが、古い時代より、特に大作に関しては、圧倒的に絹に描かれたものが多いです。
絹はぼかしや重ねる表現も簡単で、より複雑な表現が可能です。
また、独特のつやのある質感も大変美しいものです。
絵絹の使用方法は、木枠に絵絹(2丁樋か3丁樋)を画鋲で伸ばし、張り、糊をたっぷり木枠の上から施し、乾いたらドーサを引きます。紙におこなうドーサの1/3程度の濃度を目安に引くとよいでしょう。絹は伸び縮みが強いので、しっかりと伸ばして、縦横の平行を心して張り込みます。
絵絹の裏打ち、パネルへの張り込みは、丁寧に行いたいのであれば、表具にまわすほうがよいでしょう。
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作家近況
8/29 池袋勤労福祉会館で1日体験日本画教室を行います。 『色紙に日本画を描く』 参加費2500円
日本画顔彩絵具などで、花や野菜など思い思いの色紙を仕上げます。日本画体験授業として、色紙や、扇子の作品創作を行いたいと思います。色紙や、団扇に日本画の画材と技法を使って絵を描き、、持ち帰ります。
古典的なやまと絵や、水墨、没骨、骨描きなどの技法から、現代的なアレンジ、写生風の作品まで、幅広く学べます。
講師は京都の美術系大学で古画模写修復を専門に学んでいました。
博物館に展示されているような、日本画の古い描法に興味のある方、モダンな日本画に挑戦してみたいかた、是非、ご参加お待ちしております。 持ち物●水入れ(筆を洗えるもの)
●筆(2、3本)
●雑巾
●パレット(100均などで売っている水彩用のもの)
●あれば顔彩
●モチーフ(描きたいもの)お花や果物、人形などが描きやすいかと思います。写真でもかまいません。
●色紙は当日販売します。
講師で何人か分はご用意しようと思っていますので、道具がなければ無理にご用意頂かなくてもかまいません。
参加ご希望の方はメッセージに、
【お名前】
【年齢】
【Emailアドレス】
【デザインやデッサンのレベル】
をご記入して
ホームページ内のメール宛にまでご連絡ください。 http://e-nihonga.jp
ドーサとは、和紙に絵の具をのせる際に必要となるにじみ止め加工のことです。
明礬と膠でつくります。明礬は画材店で購入できます。
最近の日本画画材店では、ドーサ引き加工をしたものを扱っていることが多いですが、ドーサの利きによって可能な表現も変わるので、自分でひいてみることも、是非行ってみてください。 ●麻紙にひく場合の標準的なドーサ(紙質の薄いものや、絹に引く場合はさらに薄めます)
800ミリリットルの水につけて溶かした明礬5グラムと、200ミリリットルの水に湯煎してとかした三千本膠一本程度をまぜ、さらし木綿でこします。明礬は湯煎すると、すぐにテカリを起こすので、できれば水で溶かします。
よく晴れた日の朝に、生紙を広げ、紙の裏面に、刷毛でドーサ液を含ませます。 完全に乾いたら、表、また、完全に乾いたら裏と、三回ほどドーサを引きます。
大体3時ごろまでに作業を終わらせるようにします。(生乾きの状態を続けると、ドーサがきかなくなります)
ドーサ液は保存が利かないので、前日もしくは当日につくり、その日のうちに作業を終わらせるようにしましょう。
膠について
日本画では、顔料と基底材を固着させるため、膠という、動物コラーゲンを使用します。日本で使用される膠は、主に、牛の皮などを炊いた上澄みです。世界各国で、多くの種類の動物・魚類から膠が採取されています。化学合成接着剤の発達する以前は、絵画のみではなく、その接着力から、さまざまな用途(たとえばベニヤ合板の接着)に使用されていました。
膠は、温度や配合を厳密にはかって使用しなければ、顔料の色味を損ないます。また、防腐剤が入っていないので、非常に腐りやすいです。効きが弱いと、顔料が剥落しやすく、画面に定着しません。動物性なので、ある程度以上に温度が下がるとかたまってゼリー状になってしまい、40度程度を越すと劣化しはじめ、接着力を失います。 日本画を始める方が、まず、苦労されるところは、この膠です。強引に濃度の濃いもので接着していくのもひとつですが、できれば、色味を損なわないように、慎重に様子をみて使用しましょう。
3千本膠 粒膠 鹿膠 などがあります。 膠の使用方法3千本膠は折って使用します。膠は一晩常温で緩んだところを軽く湯煎して溶かします。保存は冷蔵庫で、冬場は1週間、夏場は3~4日と思ってください。人や用途によって、膠の濃度はまちまちですが、わたしは3千本膠を約半本に200ミリリットル程度の水で溶かして使用します。くさった膠は、画面をいためます。
箔について
箔というのは、金箔、銀箔のような、金属を薄く延ばしたもので、絵画表現の幅を広げてくれる、とても面白い画材です。
金銀などの顔料が絵画に使用されだすのは、案外早く、一部表現では、日本でも奈良時代にも見られますし、おそらく、もっと古い時代から、使用されていたことと思われます。 本格的な採鉱が始まり、加工技術の発達があった、室町、桃山期ころからは、金碧障壁画といわれる特殊な表現も現れます。
画面に箔を置くには、ベビーパウダーで、手や道具の油気をとり、竹はさみで箔を持ち上げ、濃い膠やふのりを引いた画面にそっと置きます。先にあかし紙に油をひいて、箔あかしという作業(箔の裏打ち)を行うと、実際の画面の上での失敗がありません。 箔は、風などで揺れて、くっついてしまうので、空調を切り、窓を閉め、息を止めておこなう作業となります。しっかりとていねいに手順を踏めば、かならず、画面に美しい効果をもたらしてくれるものです。
泥について
金属を細かくし、顔料の粉のようにし、膠で練って泥状態にして用いる画材。金泥、銀泥、プラチナ泥、など、ほかにも合成のものも含め、多くのものがあります。 金泥は少量の膠で練り上げ、水を足し、さらに膠を足し、何度か上澄みを捨て、色を純化させて用います。
丁寧に扱えば、顔料上でも、美しく輝きます。
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作家近況
7/25 池袋勤労福祉会館で1日体験日本画教室を行います。 『色紙に日本画を描く』 参加費2500円
日本画顔彩絵具などで、花や野菜など思い思いの色紙を仕上げます。日本画体験授業として、色紙や、扇子の作品創作を行いたいと思います。色紙や、団扇に日本画の画材と技法を使って絵を描き、、持ち帰ります。
古典的なやまと絵や、水墨、没骨、骨描きなどの技法から、現代的なアレンジ、写生風の作品まで、幅広く学べます。
講師は京都の美術系大学で古画模写修復を専門に学んでいました。
博物館に展示されているような、日本画の古い描法に興味のある方、モダンな日本画に挑戦してみたいかた、是非、ご参加お待ちしております。 持ち物
●水入れ(筆を洗えるもの)
●筆(2、3本)
●雑巾
●パレット(100均などで売っている水彩用のもの)
●あれば顔彩
●モチーフ(描きたいもの)お花や果物、人形などが描きやすいかと思います。写真でもかまいません。
●色紙は当日販売します。
講師で何人か分はご用意しようと思っていますので、道具がなければ無理にご用意頂かなくてもかまいません。
参加ご希望の方はメッセージに、
【お名前】
【年齢】
【Emailアドレス】
【デザインやデッサンのレベル】
をご記入して
ホームページ内のメール宛にまでご連絡ください。 http://e-nihonga.jp
染料とは、水に溶けない色の粒の顔料よりも、粒子の細かい、動物性や植物性の汁ものをイメージしていただければよいかと思います。
子どものころに、朝顔の花で色水を制作した経験はないでしょうか。染料は、そのように、日に当てると色が飛んでしまい、粒ののこらない、扱いに細心の注意の必要な、繊細な発色をするものです。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
染料(せんりょう) とは、溶媒(普通は水である)に溶解させて布や紙などを染色するのに用いられる有色の物質をいう。
無色の前駆体が溶媒に可溶であり、染着後に発色させた色素は不溶となるようなものも含む。溶媒に溶解せず何らかの媒体に分散させて使用されるものは顔料と呼ぶ。
日本画で主に使用される染料は、
① 水干絵の具(胡粉に天然染料を染付け水干したもの)
② 棒絵の具(染料をアラビアゴムなどで練り固め、棒状にしたもの)
③ 顔彩(染料をアラビアゴムなどで固め、角皿に固めたもの) ④ 丁子、藍のような、染色用の天然素材を染色技法で使用するものなどがあります。
染料の種類
青系統 藍(原料:蓼藍)
インディゴ(合成染料)
赤系統 臙脂(カイガラムシ)
黄系統 藤黄(藤)
水干絵具などは、合成、天然の染料を適宜混色し、多くの色を生み出しています。
創作過程では、染料系統の絵の具を、下地に使用し、徐々に粒子の粗い顔料を重ねていく方法が一般的です。
人物の顔の表現や、花鳥画の花びらの表現などは、繊細な表現に、染料と胡粉のみが使用されていることが多いです。
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作家近況
池袋勤労福祉会館 日本画教室を開講決定!
7/25 参加費用2500円
・授業 17:45~19:25(100分)
15分休憩
・授業 19:40~21:20(100分)
ホームページのメールフォームよりお申し込みください。
文京区千石 『千石空房』にて 個展開催 10/4~10/18
左から、天然緑青、白緑、群青、鶏冠朱、丹、辰砂、弁柄
顔料を焼くためのフライパン、焼いた天然緑青
ギリシャの土 これらも顔料として使用します。日本の土や、中国黄土もなども使用します。
今週は顔料について説明したいと思います。 日本画では、膠という動物由来の接着剤(天然ゼラチン)を用いて、画面に顔料(色の粒)をのせ、独特の美しい発色をさせます。日本画で使用される顔料は、主に、鉱物性、または、動物、植物のものになります。
顔料と膠を用いた絵画技法は、前述のとおり、世界中で行われた、大変シンプルな絵画の制作法です。 日本では、戦後、人造岩絵の具、合成岩絵の具などと名づけられた、人工的に合成、加工された、岩絵の具が登場し、多くの色数を生み、顔料の低価格化に貢献しました。
しかし、その以前、数千年にわたって使用された天然の顔料は、発色も大変美しいもので、日本画を描かれる方には、一度は使用していただきたいものです。 代表的なものを列挙します。
●顔料表 孔雀石(塩基性炭酸銅) → 緑青・白緑 緑
藍銅鉱(塩基性炭酸銅) → 群青・白群 青
イタボガキ(かきの貝殻)→ 胡粉 白
辰砂(硫化水銀) → 辰砂 赤
鉛丹(四酸化三鉛) → 丹 オレンジ
石黄(硫化砒素) → 雌黄 黄
水銀と硫黄の化学化合物(硫化水銀)→朱 赤
珊瑚 → 珊瑚 桃
酸化鉄 →弁柄(べんがら) 朱、赤紫
●日本画顔料の製作過程 現在では、絵の具屋と作家は分業化していますが、明治に入るまでは、絵師のところに、顔料係も併設されていたことが、古い資料よりうかがわれます。絵の具の専門のお店で作られたものは、品質も安定し、使いよいものですが、手製の多少むらのある顔料も、一度の彩色で味わいと深みを出してくれるという、特色があります。実際に顔料を作るには、まず、好みの石や貝殻を選び、乳鉢などで摺り砕き、ごみや、不純物の含有部分を取り除き、絵の具として適する大きさになるまで、砕いていきます。(藍銅鉱などでは、乳鉢でも十分粉砕できます。)ある程度、細かくなったら水樋し、粒子の大きさで分別していきます。当然、光の屈折率で細かい粒子のものの方が、色は白みがかります。粗いものから、6番8番…と番号がつき、もっとも細かい顔料を白番といいます。細かい緑青を白緑(びゃくろく)、細かい群青を白群(びゃくぐん)、のようによびます。
● 顔料を溶く 日本画の顔料は、上記記載したように、ひとつひとつ、特色があり、粒子の大きさも、特性もさまざまです。毒物となるようなものもありますので、現在では入手できない顔料もあります。ひとつひとつの顔料の性質になれ、扱いこなすには経験が必要ですが、あきらめずに向き合えば、3年ほどで、たいていの顔料は発色させることができるようになります。
顔料を膠で溶くときは、少量の膠と、顔料を、根気よく練り合わせることが、顔料のよい定着に結びつくので、あせらずじっくり、混ぜ合わせましょう。はじめに、しっかり、膠と顔料が密着していると、最終的な膠の量は少なくすみ、結果的には、顔料の発色がよくなります。
●特筆すべき顔料 朱は粒子が軽く、膠と混ぜても浮いてしまい、また、粒子が細かいこともあり、大変流れやすい顔料です。ほんのわずかな膠でよく伸ばし、そこから、膠を足し、電熱器などで熱しながら、練り合わせます。水をあわせて熱し、浮いてきた黄色の汁(黄目)を捨て、色味を純化させます。 緑青や、群青は、絵の具を焼くことで色味を調整できます。ゴマ用のフライパンなどに顔料をいれ、電熱器やコンロの弱火で焼きます。黄みよりに色味の調整ができ、黒っぽく落ち着かせる、など、さまざまに使用できます。もともと、ひとつの石にまざっていることもある顔料なので、非常に相性もよく、緑みの青、青みの緑などの調整が可能です。
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作家新着情報 ブログhttp://hiroko.1.exblog.jp
展示活動情報
8/10~8/23まで 大阪府枚方市御殿山美術センター『アートフラッシュ 池上紘子展』
9/5 junkstage イベント展示(南青山)
9/2~9/7 上野の森美術館 日本画院展展示
10/4ころ 本郷にて個展予定(詳細未定)
11/3~11/8 石川九楊楽書会書塾書展
右下から、反時計回りに、向日葵、向日葵の写生、下絵、本画(未完)。写生から創作をおこなった作品。
今日、日本画は、さまざまな解釈をこころみられ、戦後の一時、日本画滅亡論が出たほどに、その定義は判然としません。
日本画を創作する上で、何を描き、どう表現するかについて、規定はありません。描きたいものを、描きたいように表現し、現代のこの国から発信された絵画が日本画であるともいえます。
日本や、東洋絵画独自の感性や思想、表現を追及することも、また、面白いかと思いますし、まったくそういったものから離れ、自身の表現を模索することも、また、大切であると思います。芸術による新たな世界を、一歩切り拓くような創作ができれば、また、それもすばらしいことだと思います。
創造の可能性を信じ、自身の表現を追及するために、芸術の構成要素をしっかりとつかむ研究や研鑽を怠らないようにすることが、基礎の段階では大切です。
①何を描くかを決める
絵の草稿(下絵)は、どんな絵画でも同じです。写生をしたり、イメージによって想像したり、自分の表現したい世界を練り上げます。
わたしは日本画の先生により、生の本質に迫る、写生の重要性を非常に強く教えられました。
自身の経験から、他にも、資料を集めたり、本や、和歌や、表現したい世界に近い情報を、たくさんの分野から得ることも作品を深めるために大切だと思っています。
何が描きたいか分からないうちは、写生から描くと、対象が自然に教えてくれることも多いので、まずはスケッチに行くことをお勧めします。自然の形状に学ぶことで、学ぶことも大きいと思います。
草稿段階で、一点一点、自分の描き出す世界を、よく練り上げることはとても重要です。
ですが、どこまで行っても答えのでないことも多いので、今この瞬間の自分を大切に、思い切って踏み出してみることも大切です。
どのような作品を描くにしても、絵画の構成要素は同じです。画面の構成、配置、主題、リズム、バランス、配色、描写、密度、線など、よく考えて、しっかりとした画面作りをしましょう。
② パネルの準備
パネルに紙を張ります。
紙は、あらかじめドーサをひいて(ドーサ引きの紙でも可、詳しくはドーサの項参照)おきます。
パネルのサイズにのりしろを足した大きさの紙に、裏面から水を引きます。
側面に糊(でんぷん糊、できれば自分で糊を炊く)をひいたパネルの上に紙をかぶせます。表面の乾いた側をはけなどでよく押さえ、空気の入らないようにします。
四隅に空気が入るとしわになりやすいので注意します。
③ 下絵を写す
下絵を本紙に、チャコペーパーなどで写します。
パネルに張った本紙の上に、下絵を置き、間にチャコペーパーをひき、下絵の上からなぞります。
④ 骨描き
下絵の線を墨でなぞります。
以前は、この骨描きの線が、日本画の特色となり、骨となっていた時代が長くあり、非常に重視されましたが、最近では、輪郭線は完成作品からは姿を消していることも多いです。
自分がどういった作品を描いていきたいのか、骨描きをすべきか、頼るべきか、東洋画から離れ、顔料を使用した現代のアートを目指すのか、自身の判断で模索してください。
⑤ 彩色
現在では、日本画の彩色法は一定ではありません。定められた方法はありませんが、基本的には、染料の方が粒子が細かいので、染料系統の絵の具(水干絵具)で先に細かな描写をしておき、その上に粗い顔料をのせる方法をとります。粗い顔料をかけると、流れやすくもあるので、その上から細かい顔料でふたをするかんじに彩色し、更に粗いものをかけたり、自分の表現したいものを納得のいくまで描きます。
非常に古典的な方法を紹介すると、骨描きの後、白番(もっとも細かい)顔料を彩色、染料による調子付け、顔料(12~8番程度)、染料、顔料の繰り返しによって彩色する方法があります。基本的には顔料の色を濁さないため、違う色を重ねることは行いません。(例:赤の上に緑や青の絵の具を混ぜるなど)実際には近い色でなるべく顔料の色を損なわない表現がとられます(例:白緑青→藍、藤黄→緑青)
顔料は粒子が粗く、扱いにくいものです。自分の表現になじむまで、何度か失敗して画面を汚しても落ち込まないことです。少々の失敗は、一色の顔料を上から厚めに重ねることで解決できます。
作品の枚数を重ねるうちに、顔料や染料の感触が身体になじみ、自分の表現と合致していきます。
⑥ 完成
作品の完成にむけて、表現したいものが、うまく表現できたか、画面はしっかりと構成されたか、破調はないか、つめはしっかりとしたか、など、いろいろと確認をし、完成へ持っていきます。
最後に落款やサインを押すと、画面が引きしまります。