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2010/05/07

「つゆ雨を、集めて臭し、目黒川」

連日の雨のため、工場沿いを流れる目黒川のプランクトン繁殖も
峠を越し、

「春過ぎて 夏きにけらし、ボディコンの、衣ほすてふ、大崎2丁目」

一首詠むごとに東京砂漠に変わり果てた工場の一角にも時は流れ、
夏が訪れようとしていた。

この間、ホンジャマカの石塚を陰気くさくしたようなHさんが
何を思ったか新たに逆指名でエイリアンズ入りを果たし、
エイリアンズの生涯未婚率は一気に60パーセントに跳ね上がった。
一角だけ21世紀を前に、ひと足早く無縁社会に突入していた。

そのころには私も『第9地区』の主人公のように指がピック化しはじめた。
「シー・ラヴズ・ユー」や「ノーファア・マン」などのいくつかのビートルズナンバー。
ブルーハーツやブームをストローク弾きできるようになっていた。
マーシャルのアンプでオーバードライブをかけて音を歪ませて
トリップに拍車がかかっていたころだった。

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会社の後輩I君が結婚することになり、
2次会でわれらエイリアンズに1曲やってほしいという
アンビリバボーな依頼が舞い込んだ。

離婚の新記録を樹立する気なのか。
結婚相手の写真を見せてもらう。
かわいい子だった。

I君はおとなしくまじめな好青年だった。
一角を訪れたレコードはない。
これはまずい。
どうやら我々がエイリアンだということを認知していないらしい。

式は9月初めだという。
あとひと月あまりしか時間はなかった。
しかもエイリアンズで練習できる時間はトリップタイムに限られている。

このままではこの二人は二次会後に別れてしまう。
I君カップルの名をギネスに掲載させてはならない。
ちなみに世界最速離婚レコードは中国浙江省のカップルで3時間、
ショービズ系は20世紀初めのハリウッドスターの6時間だった。

残念だ。上には上がいた。ワールドレコードは無理か。

しかしまだ日本レコードの心配がある。

これはトリップなんぞして遊んでいる場合ではない。
I君のために一刻もはやくバンド名を決めなければ。

さっそく一週間後、
第9地区会議場(工場のコンクリート上)にて
貴重なトリップタイムを削って、
私たちは第一回バンド命名会議を開いた。

私を含む5エイリアンが出席。
議長はYアンニュイ・レノン先輩だった。

Y先輩 「では、よい名前を思いついたエイリアンから意見をお願いします」
  私  「プアーズはどうでしょう?」
Y先輩 「却下」

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フラジャイルなカルテット、ドアーズと
将来の上野公園デビューを控えたエイリアンズを
メタフィジックに融合させた私の名案は秒殺された。

パールジャムをもじったセミプロS君の「パール妖怪人間ベム」も
寸殺でお蔵入りした。

「色ものバンドじゃないんだから。もっとマジメにやろうよ!」
Y先輩は憂いを帯びたレノン顔でみんなを見渡した。

最年長三十半ばのHさんが巨体をゆすっておずおずと挙手した。
「パンクバンドっぽくてもいい?」
Y先輩の顔がレノンからマッカ―トニーへぱっと変わった。

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「おっ、どうぞどうぞ。カッコいいやつあります?」
「セックス・ムエンボトケーズてのは……」
Hさんが最後まで言い終わらないうちに、
Y先輩はレノン顔で肩を落として首を横に振った。

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ふと背後に人間の気配に気づいて振り返ると
泣きそうな顔をしてこちらを見つめる
第9地区デビューのI君と目があった。
続きはまた次回。

2010/05/07 10:32 | 映画 | No Comments

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