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2010/04/21

今回は楽器にまつわるなつかしい思い出を書いてみたい。
20代半ばのころ、会社にギターのうまいYさんという先輩がいた。
Y先輩はビートルズが公式録音した213曲を
譜面なしにそらで弾けるという動くDVD並のフリークだった。
 
私はドアーズが好きでビートルズにはあまり興味がなかったが、
触発されてビートルズを聴くようなり、
ギターを弾きたくなってY先輩に弟子入りを志願した。

楽器といえば、ガキの頃にタテ笛とカスタネットの乱れアンサンブルで
まったりしたノラネコ界隈にアナーキーな緊張感を張り巡らせた杵柄があるくらいで、
ギターはほとんど触ったことがなかった。

こうして「3コード進行がロックだ!」の掛け声とともに、
私のラキンローラーへのトリップの日々がはじまった。

「レノンは○○○○に殺されたんだ!」
暗殺犯、マーク・D・チャップマンに話が及ぶと、
普段温厚な先輩は、阿修羅の形相で買ったばかりの私のフェンダーストラトをひったくり、
弦をぶち切らんばかりの勢いで『ゲット・バック』をかき鳴らし、
ぬるい5月の昼下がりを真夏に染めていった。

その緊張感は、かつてネコの毛もよだつ
ノラネコのタンゴならぬグルーヴを生んだ恍惚を
私の脳裏にゲットバックさせた。

それ以来、Y先輩がギターを持っているときに
だれかがチャップマンの名を口にしようものなら、
先輩はパブロフの犬のごときタイトさで反応し
『ゲット・バック』をストロークした。

1時間ある昼休みを15分で飯を食べ、残り45分間がトリップタイムだった。
ただし、腹が減ると、掘っ立て小屋を彷彿させる事務所の時計の針を進めて
弁当を食べ終えるとまた戻したので、実際の時間はカオスにつつまれている。

カーキの作業服の上から黒の皮ジャンをはおり
紅白ボディのフェンダーを抱えた私は、
即席ラキンローラーというより
無目的にカスタマイズされたチンドン屋だった

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毎日昼休みに工場の一角でフェンダーを抱えて
Y先輩とギター・アンニュイ劇場を上演しているうちに
どこから嗅ぎつけたのか、ギャラリーに同じ部署のOさんやSくんの顔があった。

運送会社から転職してきたばかりのSくんは、
ギターはセミプロ級のテクでレコーディングにも参加したことがあるという。

Oさんは会社では先輩だったがまだ20代前半と私より年下で、
かつ彼が神とあがめるさだまさしと見た目年齢が同じという
一人時間差攻撃による相手への心理的ゆさぶりを得意としていたナイスガイだった。

Oさんは休憩時間には大学ノートに詩をしたため、
定時を回るとイヤホンをして一目散に帰途についた。
最寄り駅で階段にかかれた矢印通りに上り降りしない乗客と
つかみあいになるくらいルールにタイトな一面も持っていた。
Sくんいわく生まれた瞬間からトリップ中のOさんは
自慢のマーチン・ギターを持参し、
さだまさしのナンバーを歌いながらつま弾いた。

その西方浄土から響くようなリリカルな裏声と
作業服から時折のぞかせる年季の入ったランニングシャツの捻じれが
周囲を仮死状態にした。

こうしてファンタスティックなメンバーが集った工場の一角は、
隔離されたエイリアンの住む『第9地区』さながら
女子の人口密度はマイナス537人を計測し、
寄ってくるのはアリだけというアンタッチャブルな空間になっていた。

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続きはまた次回。

2010/04/21 10:06 | 映画 | No Comments

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