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2010/01/24

では前回に引き続き……。

親父は車を最寄り駅の駐車場に停めると、
帰りはおふくろに車で迎えにこさせればいいと、
電車に乗るやいなや、缶ビールを次々空けていった。

アルコールもまた、彼の体内のリンパ系をギンガ系に置き換えることに貢献する。
「あの三角あたまの化け物、いっぺんみたかったんや!」
親父はどうやら『ジョーズ2』に連れていってくれるらしかった。

すっかりできあがりつつあった親父は、
映画館を居酒屋の暖簾のようにくぐると、
「やっぱりあれか。マス席は高いのか?」
とさっそく窓口のおねえさんに軽いジャブを浴びせた。
ここは国技館じゃねーつーの。えいがかん。
おねえさんは頬を急激に焼き餅化させていく。

「ほな、一般席でええわ。ザブトン2枚くれるか」
あるか、そんなもん! 
ジャブ2発目ともなると、おねえさんはすっと頬の空気を抜き、
笑っていいのかスルーするか、逡巡の極にいた。
このとき、私の脳内シネマでは『パピヨン』が上映されていた。

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なんとか親父を置き土産にしての映画館からの脱獄を思いとどまり、
千鳥足の親父を誘導して席に放りこんで、
終わるまで騒がないよう念力をかけた。

『ジョーズ2』は、
平和なビーチを巨大な人食いザメが恐怖に陥れる『ジョーズ』の続編。
スティーブン・スピルバーグからヤノット・シュワルツに監督が交代したが、
サメに立ち向かうヒーローは同じくロイ・シャイダーが熱演している。

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すでに間接描写でサメが出現しているにも関わらず、
「三角あたま、なかなかでてこんなー」
親父はあくびをすると、出てきたら起こすように私に命じて
そのまま意識を失っていった。

そんな親父はうたた寝モードを通過し、爆睡モードに突入していた。

人食いザメが現れる度に、ゆすって起こすが、
親父は蘇生しかけては、「毛布をくれ」とフライト・アテンダントにいうような
セリフをつぶやきながら瞬く間にあっちの世界へフェードアウトしていく。

親父がようやくこっちの世界へ戻ってきたときには、
映画はまさにクライマックスを迎えていた。

サメに襲われている子供たちを助けるために、
救助用ボートに乗ったロイ・シャイダーが海底ケーブルをオールで叩いて
サメを自分の方におびき寄せようとしている。
サメはその音に反応してケーブルを両手でつかんで挑発するシャイダーに襲いかかる。

「うわー、なんじゃありゃ!」
シャイダーの思惑通り、
ケーブルに噛みつき顎から目から火花を噴いて海に沈みゆくサメは
親父の眠気と正月気分を吹き飛ばすには十分だった。

帰宅後、
ほろ酔い親父の目からあやしいギンガ光線が愛犬シローに向けて放たれていた。
親父は釣り竿をのばすと手で叩いて、
私に合図をだしたらシロ―の鎖をはずすよう命じた。
どうやらシロ―をジョーズにしたてて
クライマックスシーンの再現をもくろんでいるらしい。
まだ親父の体内のギンガ系はリンパ系へ戻ってはいなかった。

「ええぞ。はなせ!」
親父はすっかりロイ・シャイダー気取りで
私に顎をしゃくって合図した。

鎖を離すと、シロ―は喜び勇んで親父の脇をすり抜け、
あっという間に姿を消した。

そのまま、シロ―は行方不明になり、
近所の電柱にたずね犬の張り紙をする私は、
失踪したシロ―がスティーブ・マックイーンにみえた。

3日後、顔を真っ黒にしてバツの悪そうな顔でのこのこもどってきたシロ―は
挫折感をたっぷりにおわせて犬小屋で爆睡していた。

そんなシロ―が、最後に流された絶海の孤島にとどまる決心をしたダスティン・ホフマンと重なり、
もののあわれを感じた小学生最後の正月だった。

2010/01/24 01:58 | 映画 | No Comments

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