« 東京国際映画祭レポート3 | Home | 続思春期デビューのほろにが冒険 『翔んだカップル』 »
ここらで東京国際映画祭のレポートはひと区切りにして、
思春期デビュー中学時代にみたほろ苦い思い出の映画について書いてみたい。
今から30年前、小学校からの悪友だったNという同級生がいた。
Nとは同じ中学に進んだが、クラスは違ってしまった。
それでも、私は休みの日には相変らずNの家へチャリで行っては、
他のメンバーを交えて野球やゲームに興じたりマンガをみたり、
まったりと過ごしていた。
夏休みに入ったある日、いつものようにNの部屋でくつろいでいると、
『翔んだカップル』というマンガの単行本をみつけて
何気なく読んでいたら、その面白さにハマってしまった。
ストーリーは、
地方から東京の名門高校、北条学園に合格した田代勇介は単身上京する。
勇介は海外に駐在することになった叔父の留守番代りに
広い一軒家に一人で住むことになる。
一軒家での一人暮らしを持て余した勇介は、
男性限定という条件で同居人の紹介を不動産屋に依頼した。
そして、勇介の家にやってきた待ちに待った同居人は、
なんとそのかわいさで入学早々学校中のアイドルになった
同じく地方出身の同級生、山葉圭だった。
原因は圭という名前で男だと決めつけた不動産屋の手違いだった。
学校にばれて退学になることを恐れた勇介は圭を追い出そうとするが、
圭は退去を拒否し、
二人のあつれきがお色気シーンも交えてコミカルに描かれていた。
そしてそのマンガが、勇介を鶴見辰吾、圭を薬師丸ひろ子というキャスティングで
実写化され上映中ということを地方紙の映画案内欄で知った。
薬師丸ひろ子は、78年に『野性の証明』のヒロインとして高倉健と共演した売り出し中のアイドル女優で、
透明感のある声と愛くるしい大きな瞳で人気を博しており、
私とNもすっかり彼女のとりこになっていた。
「おい、もしや?」
私は心の中でにやけつつも真顔で
「こんなシーンもあるんかな?」
単行本の中の勇介が圭の裸を妄想するシーンを
薬師丸ひろ子の裸を妄想しながらNに訊いた。
Nは当然といわんばかりにガッツポーズをクールに決めた。
私とNは円陣を組んで、第一回『翔んだカップル』観劇隊出陣式を挙行した。
「ファイトー、シュッパーツ!」
「で、映画館ってどこやったっけ?」
気ばかり急いて、肝心なところをおろそかにしてしまうという点で
私とNは似たものどうしだった。
「うわ~あかん! よっかいちや~!!」
そう叫ぶとNは新聞をカーペットにたたきつけ、がっくりと跪いた。
なんと私たちの村から40km以上離れた四日市市でしか上映していないのだった。
私はその場にばったりと倒れ、目頭を押さえた。
生徒同士で学区外に出かけてはならないという厳しい校則があり、
生活指導の強面教師たちを思い浮かべると科せられるであろうペナルティに
目の前が真っ暗になった。
私は一時間くらいその場に倒れていた。
Nもしょぼくれた顔でグラブをはめて軟球をもてあそんでいた。
薬師丸ひろ子のお色気シーンと生活指導TとIのいかつい顔が
私の頭の中で激しい相克を繰り広げていた。
やがて薬師丸ひろ子が55対45くらいでTとIを凌駕しだしたとき、
私は生徒手帳を投げつけた。
私とNは翌日、第二回『翔んだカップル』観劇隊出陣式を挙行した。
「ファイトー、シュッパーツ!」
続きは次回で……。