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中編まで書いておいて三ヶ月近くも放置するという、まさかの大失態をやらかし、
読者のみなさまには、大変ご迷惑をおかけしております…。
さて。
前回は(といっても昔のことすぎて覚えていない方がほとんどだと思うが…)、
かなりお堅い話をしてしまった、というより、
正直、自分以外の誰にも得になりそうもない話をしてしまった、と猛省。
最終回となる今回は、もうちょっと柔らかい話、
東ブータンのおすすめ観光スポットをご紹介していこうと思う。
東は筆者にとっても初訪問ということで、当地の大学での用事を早々に片付けて、
あとは観光、と考えていたのだが、本当に思いの外早く、用事が片付いてしまった。
というか、日本に持ち帰らなければならない案件ができてしまい、
それ以上、ここにいても何も進まなくなってしまった、と言ったほうが正しい。
というわけで、割と本格的に、東ブータンの観光地巡りをすることと相成った。
そもそも。
読者の大半が、ブータン自体に足を踏み入れたことの無い方ばかりだと思うので、
いきなり、東ブータン、といっても何のこっちゃか分からないかもしれない。
少しばかり、ブータンの西と東と違いについてお話ししておきたい。
とはいえ、先にお断りしておくが、その筋の専門家ではないため、
ここを見ているブータン関係者で、「それは違う!」とお気付きの点があれば、
なるべくボロが出ないうちに、早めにご指摘をいただきたい。
西と東の違い、それは一言で言えば、文化の違い、ということになる。
が、それだけでは、身も蓋も無いので、もう少し説明すると、
西ブータンは、首都ティンプーや国際空港のあるパロを擁する、
ブータンの中では比較的早い段階から近代化が進んだエリアだ。
一方の東はというと、西ブータンから、山を越え、谷を越えて、
車で丸二日間かけてようやく辿り着く、ブータンの中でも比較的未開の地である。
そういった環境が文化に与える影響ももちろん大きいのだが、
一番の違いは、やはり、民族、そして、言語の違い、に象徴される。
東ブータンに住むのは、主にツァンラ(シャチョッパともいう)と呼ばれる民族で、
彼らは、ブータンが、チベット文化の影響を受ける以前から当地に住んでいた、
いわゆる先住民族である。
また、ツァンラ以外にも、多くの少数民族が住んでおり、
一つ峠を越えれば、違う民族が住み、違う言語を話す、という場所も珍しくない。
現在、ブータンで広く話されている言語は、ゾンカと呼ばれており、
チベット語に近い言葉。
一方、ツァンラの人々が話す言語は、ツァンラカ(シャチョップカ)と呼ばれ、
東ブータンでは、ほとんどの地域で、このツァンラカがゾンカよりも通じる。
学校では、英語とゾンカを学び、家庭ではツァンラカを話す、といったように、
この地域の子供たちは、齢10歳に満たないうちから3ヶ国語を使いこなしている。
さて、まずはそんな東ブータンで最も大きい街、タシガンから紹介していこう。
タシガンは、西ブータンの中心地である首都ティンプーから、
車でおよそ20時間(2泊3日)かけて、ようやく到着する。
(一応、国内線もあるにはあるのだが、運航が流動的なため要確認)
ちなみに、Google Mapsでは、ティンプーからタシガンまで、
9時間弱との計算になっているのだが、どう考えても無理なので、あしからず。
実は、南のインド国境の街、サムドゥプジョンカルから陸路入国したほうが、
距離的にはだいぶ近いので、もう西ブータンは見た、という方にはオススメ。
ただし、インドのグワハティ空港を利用するため、インドビザが必要となる。
そんなタシガンは、西から来た場合、まず、本当にここが東の中心地なのか、
と驚くぐらい、こじんまりとした、素朴な味わいのある街である。
観光客が訪れることも少ないためか、みな、好奇の眼差しで見つめてくる。
タシガンの街は、深い谷に沿った急斜面に作られており、
歩いて回るのはかなり辛いが、しかし、その高低差が織り成す街の風景は、
他のブータンのどの街とも異なる趣がある。
その中心に位置するタシガン・ゾン(城塞)も、大きさこそ小ぶりだが、
街からのゾンの眺め、そして、ゾンからの山々の眺め、ともに見事の一言である。
このタシガンから北上していくと、道中、ゴム・コラと呼ばれる寺院が見えてくる。
ここは、ブータン歴史上随一の高僧パドマサンババ所縁の聖地であり、
寺院裏手にある巨岩の下には、パドマサンババの手によって封じられた土着の神が
眠っているという言い伝えがある。
さらに川沿いを北上すると、やがて、周囲の景色が深い渓谷へと姿を変える。
その渓谷に沿って道なりに進むと、辿り着くのがタシヤンツェという街。
街の入り口まで来ると、視界は意外なほどに急激に開けて、
なだらかな斜面に広がる集落と棚田が一望できる。
タシヤンツェの街で、まず目に映るのが、チョルテン・コラと呼ばれる寺院だ。
これは、他のブータンの寺院とは異なり、ネパール式の仏塔を擁する寺院である。
春には、東ブータン中の人たちが集まる祭りが催され、大きな賑わいをみせるという。
さらに、タシガンからほど近い、ラディ谷にある農村では、見事な棚田と、
時期によっては、牛耕などの伝統的な農作業風景を目にすることができる。
また、ラディ谷への入り口にあたる、ランジュンという街には、
ウェセル・チョリンと呼ばれる壮麗な寺院がある。
また、その他にも、今回訪れることのできなかった場所がたくさんある。
例えば、メラ、サクテンと呼ばれる地域は、東の果てに位置し、
ブロクパと呼ばれる遊牧民族が住む、標高3,000mを超える高地である。
自動車道路の終点から徒歩で2日がかりでようやく辿り着く、
まさに秘境中の秘境と言えるだろう。
ともすれば、東ブータンは、西に比べて見るべきところの少ない場所に映る。
しかし、由緒ある寺院や、壮麗な城塞、そして、深い渓谷が織り成す美しい風景、
などなど、実際には、西にひけを取らないだけの観光資源を抱えた場所でもある。
観光客にとって、特に交通の面でかなりハードルが高いがゆえに、
かえって、昔ながらのブータンが色濃く残る場所にもなっている。
初ブータンで東まで制覇、となると、おそらく最低でも2週間近く必要だが、
もし時間がたっぷり取れるのであれば、そんな欲張りな旅も悪くない。
一度西を訪れたことがあるのであれば、東だけさくっと回るのであれば、
4-5日あれば要所は押さえられる。
その場合、一つでもテーマを持って、多少の予備知識を備えてから訪れることを、
個人的には強くオススメしたい。
(了)