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2014/11/10

中編まで書いておいて三ヶ月近くも放置するという、まさかの大失態をやらかし、
読者のみなさまには、大変ご迷惑をおかけしております…。

さて。
前回は(といっても昔のことすぎて覚えていない方がほとんどだと思うが…)、
かなりお堅い話をしてしまった、というより、
正直、自分以外の誰にも得になりそうもない話をしてしまった、と猛省。
最終回となる今回は、もうちょっと柔らかい話、
東ブータンのおすすめ観光スポットをご紹介していこうと思う。

東は筆者にとっても初訪問ということで、当地の大学での用事を早々に片付けて、
あとは観光、と考えていたのだが、本当に思いの外早く、用事が片付いてしまった。
というか、日本に持ち帰らなければならない案件ができてしまい、
それ以上、ここにいても何も進まなくなってしまった、と言ったほうが正しい。

というわけで、割と本格的に、東ブータンの観光地巡りをすることと相成った。


そもそも。
読者の大半が、ブータン自体に足を踏み入れたことの無い方ばかりだと思うので、
いきなり、東ブータン、といっても何のこっちゃか分からないかもしれない。
少しばかり、ブータンの西と東と違いについてお話ししておきたい。
とはいえ、先にお断りしておくが、その筋の専門家ではないため、
ここを見ているブータン関係者で、「それは違う!」とお気付きの点があれば、
なるべくボロが出ないうちに、早めにご指摘をいただきたい。

西と東の違い、それは一言で言えば、文化の違い、ということになる。
が、それだけでは、身も蓋も無いので、もう少し説明すると、
西ブータンは、首都ティンプーや国際空港のあるパロを擁する、
ブータンの中では比較的早い段階から近代化が進んだエリアだ。
一方の東はというと、西ブータンから、山を越え、谷を越えて、
車で丸二日間かけてようやく辿り着く、ブータンの中でも比較的未開の地である。

そういった環境が文化に与える影響ももちろん大きいのだが、
一番の違いは、やはり、民族、そして、言語の違い、に象徴される。
東ブータンに住むのは、主にツァンラ(シャチョッパともいう)と呼ばれる民族で、
彼らは、ブータンが、チベット文化の影響を受ける以前から当地に住んでいた、
いわゆる先住民族である。
また、ツァンラ以外にも、多くの少数民族が住んでおり、
一つ峠を越えれば、違う民族が住み、違う言語を話す、という場所も珍しくない。

現在、ブータンで広く話されている言語は、ゾンカと呼ばれており、
チベット語に近い言葉。
一方、ツァンラの人々が話す言語は、ツァンラカ(シャチョップカ)と呼ばれ、
東ブータンでは、ほとんどの地域で、このツァンラカがゾンカよりも通じる。
学校では、英語とゾンカを学び、家庭ではツァンラカを話す、といったように、
この地域の子供たちは、齢10歳に満たないうちから3ヶ国語を使いこなしている。


さて、まずはそんな東ブータンで最も大きい街、タシガンから紹介していこう。
タシガンは、西ブータンの中心地である首都ティンプーから、
車でおよそ20時間(2泊3日)かけて、ようやく到着する。
(一応、国内線もあるにはあるのだが、運航が流動的なため要確認)

ちなみに、Google Mapsでは、ティンプーからタシガンまで、
9時間弱との計算になっているのだが、どう考えても無理なので、あしからず。

EastBhutan
©Google Maps

実は、南のインド国境の街、サムドゥプジョンカルから陸路入国したほうが、
距離的にはだいぶ近いので、もう西ブータンは見た、という方にはオススメ。
ただし、インドのグワハティ空港を利用するため、インドビザが必要となる。

そんなタシガンは、西から来た場合、まず、本当にここが東の中心地なのか、
と驚くぐらい、こじんまりとした、素朴な味わいのある街である。
観光客が訪れることも少ないためか、みな、好奇の眼差しで見つめてくる。

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(写真:谷間にあるタシガンの中心街)

タシガンの街は、深い谷に沿った急斜面に作られており、
歩いて回るのはかなり辛いが、しかし、その高低差が織り成す街の風景は、
他のブータンのどの街とも異なる趣がある。
その中心に位置するタシガン・ゾン(城塞)も、大きさこそ小ぶりだが、
街からのゾンの眺め、そして、ゾンからの山々の眺め、ともに見事の一言である。

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(写真:小高い岩山の上に立つタシガン・ゾン)

このタシガンから北上していくと、道中、ゴム・コラと呼ばれる寺院が見えてくる。
ここは、ブータン歴史上随一の高僧パドマサンババ所縁の聖地であり、
寺院裏手にある巨岩の下には、パドマサンババの手によって封じられた土着の神が
眠っているという言い伝えがある。

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(写真:ゴム・コラの寺院本堂)

さらに川沿いを北上すると、やがて、周囲の景色が深い渓谷へと姿を変える。
その渓谷に沿って道なりに進むと、辿り着くのがタシヤンツェという街。
街の入り口まで来ると、視界は意外なほどに急激に開けて、
なだらかな斜面に広がる集落と棚田が一望できる。

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(写真:棚田が広がるタシヤンツェの街並み)

タシヤンツェの街で、まず目に映るのが、チョルテン・コラと呼ばれる寺院だ。
これは、他のブータンの寺院とは異なり、ネパール式の仏塔を擁する寺院である。
春には、東ブータン中の人たちが集まる祭りが催され、大きな賑わいをみせるという。

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(写真:チョルテン・コラの仏塔)

さらに、タシガンからほど近い、ラディ谷にある農村では、見事な棚田と、
時期によっては、牛耕などの伝統的な農作業風景を目にすることができる。

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(写真:牛耕の様子)

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(写真:美しい棚田にかかる虹)

また、ラディ谷への入り口にあたる、ランジュンという街には、
ウェセル・チョリンと呼ばれる壮麗な寺院がある。

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(写真:ウェセル・チョリンの寺院本堂)


また、その他にも、今回訪れることのできなかった場所がたくさんある。
例えば、メラ、サクテンと呼ばれる地域は、東の果てに位置し、
ブロクパと呼ばれる遊牧民族が住む、標高3,000mを超える高地である。
自動車道路の終点から徒歩で2日がかりでようやく辿り着く、
まさに秘境中の秘境と言えるだろう。

ともすれば、東ブータンは、西に比べて見るべきところの少ない場所に映る。
しかし、由緒ある寺院や、壮麗な城塞、そして、深い渓谷が織り成す美しい風景、
などなど、実際には、西にひけを取らないだけの観光資源を抱えた場所でもある。
観光客にとって、特に交通の面でかなりハードルが高いがゆえに、
かえって、昔ながらのブータンが色濃く残る場所にもなっている。

初ブータンで東まで制覇、となると、おそらく最低でも2週間近く必要だが、
もし時間がたっぷり取れるのであれば、そんな欲張りな旅も悪くない。
一度西を訪れたことがあるのであれば、東だけさくっと回るのであれば、
4-5日あれば要所は押さえられる。
その場合、一つでもテーマを持って、多少の予備知識を備えてから訪れることを、
個人的には強くオススメしたい。

(了)

2014/11/10 12:00 | ブータン, 大学院生活 | No Comments