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2014/03/31

火中の栗を拾うような真似をあえてしよう。
今回のお題は、博士課程在籍者が語る、STAP細胞論文問題について。

ただし、研究の中身については未解明の部分も多いため、
あくまでも、近年の科学界における、
「研究」と「論文」に対する取り組み姿勢に焦点を当てていく。

そもそも、研究者の目指すところは、
少々クサい言い方をするならば、「新たな知の探求」にある。
一般には有り得ないと考えられているものを、有ると証明する、
そのための全てのプロセスが「研究」と見なされる。

研究室で試験管片手に機材を操作することばかりが研究ではなく、
リンゴの木の前で寝そべっている時間も、ときに研究に繋がることもある。

一方、「論文」とは、その研究成果を発表する最も代表的な手法だ。
どんな素晴らしい発見をしても、それが世間に認められなければ、
その研究には何の価値も与えられない、ただの自己満足となる。

まれに、自身の好奇心を満たすためだけに取り組んでいる研究者もいるが、
それだって、研究で飯を食っていくとしたら、
ある程度は周囲に評価される成果物を残す必要がある。

必然的に、多くの研究者は、日頃から論文の執筆に追われることになる。
それは、営業マンにとってのノルマのようなものだ。

発見のための発想力や知識のほかに、
物書きとしての素養がなければ、おそらくこの職業は務まらない。
そういう意味では、このコラムの原稿を、落としに落とした自分は、
どうやら、若干、その素養を欠いている節もあるのだが…


さて。
近年、研究の世界は、生き馬の目を抜くような時代へと突入した。
どの学問分野でも、問われるのは、その「スピード」と「オリジナリティ」。
言い換えれば、「最も早く新しい発見をしたもの」が評価される時代。

有用性や汎用性は二の次、とまで言ってしまうとやや語弊があるが、
少なくとも、基礎研究と呼ばれる領域では、あまり重要視されることはない。

誰もが新しい発見を目指していくとどうなるか。
研究のテーマは、常に最先端の分野へと偏り、その先端をさらに伸ばしていく、
あるいは、先端を枝分かれさせていく、そのことに全神経が集中する。

その結果、学問分野は限りなく細分化してきている。
「学会」という括りで、ある程度似通った分野の研究者が寄り集まっているが、
実態としては、各研究者が独自の学派を形成している、とさえ言える。

問題となるのは、そのような状態で、
他の研究者を「評価」することなどできるのか、という点。
そのことに触れる前に、まず、一般的な論文の構成について言及しておこう。

通常、論文を執筆する場合、先行研究と呼ばれる、
関連する既存の研究について、ある程度ページを割かなければならない。
誰かが既に言及したこと、証明したことを記述することで、
自分の論文が依って立つ研究領域を明示するのが、その主な目的となる。

既知の事柄を自分の言葉で記述する、というのは、思いの外、骨の折れる作業だ。
コピペするのは論外だが、当然、自分の研究成果ではないので、
せいぜい文章表現を変えるくらいしかできることはない。
そんな二次創作のようなことをすることに果たして何の意味があるのか。

かといって、長々と数十ページに渡って誰かの文章を引用をするわけにもいかない。
それはそれで、引用ではなくパクりだ、との批判を浴びる種になる。
通常、引用はせいぜい数行程度まで、と言われている。

実は、この先行研究、本来は「誰々が何々と言っている」程度の触れ方をして、
詳細は参考文献そのものを参照してもらえば事足りるはずのものだ。
わざわざ参考文献でどのように書かれているか、事細かに説明する必要はない。
通常、論文の評価者(査読者)は、その学問分野に精通しており、
示される参考文献には一通り目を通していることが前提となるからだ。

しかしながら、先も述べたように、学問分野は細分化しており、
提出された論文が、その評価者(査読者)にとって未知の内容を含むこともままある。
そういった場合、論文を評価するにあたって、
参考文献まで全て目を通すとなると、その作業量は膨大になってしまう。

先行研究を丁寧に書くということは、こういった査読者の負担を軽減する目的もある。
というより、それは「暗黙の作法」と言ってしまっても差し支えないと思う。

もちろん、本質的には、そういった作業を含めて査読者の責務の範囲であり、
正当な評価を下すためには、そうした労力を惜しんではならない。
ただ、湯水のように次々と新しい論文が発表される昨今の科学界において、
それはあくまでも理想論でしかない、というのが実情だろう。

STAP細胞論文において、20ページに渡るコピペが見つかった背景には、
当然、研究者個人の倫理の欠如もさることながら、
上述のような、アカデミック論文における「暗黙の作法」が物語るような、
根深い闇が隠されているような気がしてならない。

(続く)

2014/03/31 12:00 | 大学院生活 | No Comments

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