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2013/07/28

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87.ブータンの「ネット選挙」(5)
http://www.junkstage.com/fujiwara/?p=481

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●選挙におけるマスメディアの役割とは

一般に、国民が政策を評価する際に当該国のマスメディアが果たす役割は大きい。
しかし、ブータンにおけるテレビ放送は、ほんの十数年前、1999年に始まったばかり。
ブータンのマスメディアはまだ産声をあげたばかりである。

このことは、ブータン国民にとって、メディアの流す情報を取捨選択する能力、
つまり「メディアリテラシー」が十分ではないのではないか、という疑問につながる。
果たしてこのような状況下で、ブータン国民は何を考え、投票をしたのだろう。

こうした疑問を解消するべく、まずは、ブータンの各国内メディアを訪れ、
その責任者クラスの方々の声を拾うことにした。

まず、ブータン唯一のテレビ局である、BBS(Bhutan Broadcasting Service)で、
ゼネラルマネージャーを務めるアショク・モクタン氏は、
BBSによる選挙放送の姿勢について、次のように語った。
「ニュースでは、シンプルに、事実、生の声のみを報道している。与野党のいずれにも組しない。また、ディベートでは、モデレーター役に徹している。各47選挙区全てで、決められた時間を均等に配分して実施し、候補者の生の声をそのまま配信している」

このディベート放送に関しては、選挙管理委員会の意向は、
「(BBSで放送したのは)ディベートを見ることができる人数を最大化するため」
であり、直接ディベートに参加できない人への配慮、とのことであった。
また、「BBSが唯一の放送技術を持つ局」という理由も大きいようだった。

一方、マスメディアの役割について、前掲のアショク・モクタン氏は、
「(実質的な公共放送としての)テレビメディアの影響力は大きく、聴衆を教育する責務も担っている。例えば、ディベートは(国語である)ゾンカのみで放送されているが、これは、ブータン国内での国語の普及促進という意味合いもある」
と述べ、単なる御用聞きではないメディアとしての矜持も垣間見せた。

ブータンで最も古い民営新聞社の一つ(といっても設立は2006年)である、
ブータンオブザーバー紙の編集を手がけるニードゥップ・ザンポ氏は、
「どの政党がどのような政策を掲げているか、より多くの人々に理解してもらうことが重要である。政治イデオロギーやリーダーシップの在り方を問う紙面を作っているつもりだ。タブロイド紙ではないので、信頼性があり、真面目な話題のみを掲載する」
という、選挙における同社の取材方針を語ってくれた。

また、メディアと民主化に関するNGO団体、BCMD(Bhutan Centre for
Media and Democracy)の役員である、ペク・ドルジ氏は、
「メディアの役割は、民主主義文化を根付かせること」であり、
「(BCMDは)市民を対象に、こと民主化におけるメディア利用の在り方について、ワークショップやフォーラムの運営を通して教育している」と語った。

BCMDは他にも、学生向けの活動として、各大学にメディアクラブをつくり、
どのように報告書を作成するか、どのように課題を解決するか、
どのように人々にプレゼンテーションするか、を学ぶプログラムを用意し、
アイデアの創造や課題抽出といったスキルを身に付けさせる活動をしているという。

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●ネガティブキャンペーンの罠

往々にして、選挙戦というものは、終盤へもつれこむにつれて、
徐々にネガティブキャンペーンの様相を帯び始める。
自身の政策を声高に謳うのではなく、相手の欠点、弱点を責め、
他を貶めることによって、相対的な価値の向上を狙う、浅ましい戦い。

今回、ブータンにおいても、残念ながら、
一部のディベートが相互にネガティブキャンペーン化してしまった。

このことについて、BBSのアショク・モクタン氏は、
「メディアにはその責任を負うことはできない」と前置きをした上で、
「メディア上で何を語るかは候補者次第であり、そして、語られた内容をどう判断するかは有権者次第だ」との見解を示した。

クエンセル紙のチェンチョ・ツェリン編集長は、
「有権者は醜い選挙戦にうんざりしている」と同時に、
「2008年の選挙の時には、みな全てのディベートを見ていたものだが、今回はあまり見られていないのではないか」と、前回からの変化を口にした。
それは図らずも、ブータンの選挙戦が、多くの国の選挙同様に、
退屈で詰まらないものへと変貌を遂げる過程のようにも見受けられる。
また、「メディアはこの状態を静観している」と語り、
「有権者が望んでいるのは、尊敬に値する候補者だ。候補者には、ぜひ、確かな威厳を身につけてほしい」と、苦言を呈した。

一方、ブータンオブザーバー紙の編集を担うニードゥップ・ザンポ氏は、
「メディアとしてできることは、それらをハイライトさせることで、候補者を落ち着かせ、批判を止めさせること。マニフェストや公約の説明をせずに、批判に終始しているのは建設的な議論ではない、と気付かせること」
と指摘し、メディアが果たすべき役割に言及した。

BCMDのペク・ドルジ氏は、ディベートを一方的に聞くだけではなく、
有権者自身が「意見をシェアする場所が必要」との見方を示し、
オンライン上でのフォーラム運用の実例を紹介してくれた。
ただし、「フォーラムでは『実名』での発言が原則で、さもなければ、責任ある意見を示すことができなくなる」と警告も添えた。

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●選挙管理委員会とメディアの関係

選挙時におけるメディア報道の在り方、という点においては、
選挙管理委員会と各メディアとの関係性というのも、なかなかに興味深い。

BBSのアショク・モクタン氏は、次のように説明してくれた。
「基本的には選挙管理委員会のガイドラインに沿って選挙報道を行うが、決して『コントロール』されているわけではない。選挙管理委員会、メディア、政党が、それぞれ監視し合っているという、ある種の三角関係を形成している」

クエンセル紙のチェンチョ・ツェリン編集長は、
「クエンセルはもともと(選挙管理委員会に指摘されるまでもなく)、真実のみを伝えるメディアであり、うわさ話や虚構を掲載することはない。常に中立的な立場を維持し、決してどちらかに偏った報道はしない。特にブータンは小さなコミュニティなので、バランスを取ることに気を配っている」
と語り、BBSと同様に、選挙管理委員会によって、
「報道内容を『コントロール』されることはない」と断言した。

ブータンオブザーバー紙の編集を担うニードゥップ・ザンポ氏も、
「選挙管理委員会のガイドラインは、ジャーナリズムが本来備えているべき、自由、公平性、そして透明性を謳っているにすぎない。それらは、既に、自社の編集方針でも掲げている」
と述べ、選挙管理委員会があろうとなかろうと、
同紙の選挙に関する報道は変わらないことを強調した。

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ここまで見てきて感じるのは、ブータンメディアが、
選挙管理委員会との関係においては、強気な報道姿勢を貫いているように見えるが、
いざ、実際のディベート等を伝える段になると、中立性を保とうとする余り、
消極的な傍観者になってしまっている側面もある、という点である。

そもそも、メディアが客観性を保つ、とはいったいどういうことだろう?
『事実』を伝えるというのは、ありのままを伝えることとは違う。
目の前で起こる出来事を無編集で垂れ流すことを是としているかのような姿勢は、
権力の監視装置としてのメディア、という立場を放棄している、とも受け取れる。

いかに、発言者の意図を歪めずに要約(編集)して伝えることができるか、
その上で、いずれの主張にも偏らないバランスを保ちつづけることができるか、
ブータンメディアの質が、今後一層問われていくことになる。


インタビューに応じてくれた、クエンセル紙のチェンチョ・ツェリン編集長

2013/07/28 12:00 | ブータン, 情報科学 | 1 Comment

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