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2012/05/31

大学までの、片道30分余りの道のりを、自転車通学している。
理由は主に、健康的な目的と経済的な目的のため。
要するに、三十路の体力づくり兼交通費の節約だ。

しかし、爽やかな若葉の中を疾走する季節もあっという間に過ぎ去り、
自転車族にはツラい季節がやってこようとしている。
梅雨、そして、夏だ。

五月は五月で、穏やかならぬ天気が続いた今年。
それにしても、東京はいったいいつから、
スコールが降るような街になったのだろう。

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さてさて、さきほども述べたような理由ではじめた自転車。
さりとて、自転車と電車の違いというのは案外大きい。

自転車を漕ぐという行為は、思いの外、能動的行為だ。
自転車を漕ぎながら文庫本を読むわけにもいかないし、
携帯を打ちながらなどもってのほか。
ヘッドフォンで音楽を聴きながら走行する人をよく見かけるが、
あれだって実は、都道府県別の交通規則で禁止されていたりする。

目的地に到達する為にペダルを漕ぐ。
それ以外の行為というのは、ほぼ何もできない。
そういう意味では生産性は皆無に等しい。

一方、電車。
通勤通学の数十分、場合によっては1時間を超える時間をいかに潰すか、
あるいは、単に暇潰しをするのではなく、そこで生産的な行為をする、
というのは、割と大都市圏に通う人が一度は考えるテーマだろう。

本を読む、ゲームをする、メールを返す、寝る、等々。
やろうと思えば、片手で携帯を打ちながら、片手でカロリーメイトでも貪り、
耳にはヘッドフォン、みたいな、五感フル活用もできないことはない。

電車という公共空間の中ではあるのだが、
そこには、個人個人が、ある種の私的空間を形成することができる。
とはいえ、そこは公と私のはざまの非常に不安定な空間でもある。

実は、ここ最近、その不安定さこそが、自分にとっては貴重な時間だった?
という疑問がわいてきている。

電車の中でなにをするでもなく物思いに耽る。
ふと思い付いたアイデアの種を携帯のメモ機能で書き留める。
という、知らず知らずのうちに身に付いていた習慣的行為が失われたことで、
自分の中での知的生産性というか、インスピレーションの源泉が、
急速に枯れていっているような不安がある。

これだけなら、自転車を漕ぎながらでもできそうなものなのだが、
自転車の場合、完全な公共空間を横切っているだけなので、
そこに不安定空間は生まれない。

よく、自宅やオフィスで仕事をするより、喫茶店のほうがはかどる、
なんて声を耳にするが、まさに喫茶店というのは、電車に近い空間と言える。
あの、公共の場にありながら、私的な作業をする、という不安定さが、
ほどよい刺激となってインスピレーションを呼び起こす、
というのは、あながち無い話でもないのではないだろうか。

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少し話は逸れるが、満員電車、というのは、日本の、特に首都圏の、
ある種の典型的な表象として語られることがよくある。
そして、そんな満員電車の中で、片手で器用に携帯を打つ様子が、
海外のメディアで紹介されていたりもする。

ガラパゴス携帯、などと揶揄されて久しい日本製携帯電話は、
その機能のみならず、インターフェース、つまり文字入力キーにおいても、
とある特徴を有している。

それは、キーサイズが大きい、ということ。
スマートフォン以前の海外の携帯電話というのは、
割とおしなべて小さなキーを採用している。
明らかに、欧米人の指のサイズの方が、日本人のそれより大きい、
にも関わらずだ。

これに関する説明としてよく語られるのが、日本製携帯電話のキーは、
片手で打つためのキーサイズ設計である、ということ。
欧米は、日本に比べると電車よりもずっとクルマ社会なので、
移動中に携帯電話でメールを打つという行為をほとんどしない。
移動時間を何か他の行為をして潰すことに、根本的に慣れていない、
と言ってもいい。

「持ち運びができて、移動した先々で使えること」と、
「移動中に使えること」というのは、実は似て非なる要望なのだ。
モバイル、というのは、欧米では文字通り持ち運びできればOKなのだが、
日本の場合、持ち運びながら使う、という小器用さが求められてくる。

文庫本やノートPCの小型化についても、同様の文化の違いが顕著に表れる。
日本人ほど「移動中に使えること」にこだわる人種というのは珍しいのだ。

そんなふうに、各種機器が、実に日本的な発展を遂げてきたわけだが、
残念ながら、自転車通学をよりリッチにするためのソリューションには、
どういうわけか全くと言っていいほどお目にかかったことがない。

確かに、貧乏学生を相手にしても商売が成り立たないだろうとは思うのだが、
さて、そこをなんとか、どなたかお願いできないものだろうか…

2012/05/31 12:00 | 大学院生活 | No Comments