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2008/08/02

寒空、某所。いつのことだったかは、忘れた。
酔っ払ったわたしは3軒目で、女性よりも美しい男性が煌びやかなドレスに身を纏い
心の底から響く声で歌う店にいた。
彼(彼女?)までの距離、わずかに1メートル未満。10人ちょっとしか入らない、
小さな音楽バー。
「いちばん大切な事は、いちばん大切なひとに、いちばん小さな声で届く」
そう言った昔の上司の言葉を思い出して、その距離感に、涙が止まらなくなった。
隣にはJunkStageの相棒、千映さんがいて、見て見ぬ振りをしてくれていた。
いや、「コイツ案外泣き上戸?」とあきれていただけかもしれない。
成人する直前に出会った彼女には、弱みを握られる一方だ。

数日後、新宿の地下の電波がたよりないバーにて桃生さんとスタッフ懇談をしていた。
Junkのみんなを呼んで、って言いかけたあと、
「文化祭がやりたい」
「イベントやろっか」 と、声が重なった。
ない頭で電卓を弾くわたしに、「金なら出す」とタバコ片手に言った姉御は、相当格好よかった。

「あのゥ、舞台がやりたいんですよ」
とりあえず専門家に相談しておけ、と思ったわたしが次に会ったのはクラシックコンサートを企画主催までこなす鷲見精一だった。
世間話をしていた鷲見さんは、見たことないくらい真顔になったあと
「Junkで…舞台…?」
「…もう、ホントにさー…」と、笑った。
咄嗟に実現性を計算したのであろう、と思ったのだが、鷲見さんは次の瞬間、また真顔に戻って言った。
「……すごいことになるよ。」
あのときの鷲見さんの表情には、いままででいちばん、オチた。オチたぜ。鷲見さん。

とりあえずは会場を探さなくてはならない。
他力本願で次に相談したのは、バスケバカの傍らバンドマンであり、お兄様は舞台俳優というフィルコさん。
クラシックとバスケの両方ができる舞台…
フィルコさんはおもむろに携帯を取り出すと、馴染みのライブハウスに値切り交渉を始めた。
もちろんトレードマークの、八戸弁で。
「いくらで」の「ら」にアクセントがあるところが、ポイントである。

主たる出演者を集めたキックオフミーティングで、突如仕切りのセンスを見せたのは
演出家であり舞台作家であるイトウさんだった。
必要な役割、コスト、手配などを淡々と説明していくイトウさん。
「で、つまりすごく重要なのは“総合演出家”ってことですね?!」
のわたしのひとことに、その場にいた全員の視線がイトウさんに集中した。だって、本業だし。
オトナらしく、空気の読めるイトウさんは、「えっ」のひとことを3分の1くらいで飲み込んだ。
もう自身とは何年来の付き合いかわからない舞台女優の帯金ゆかりが、そんなイトウさんの正面で力強く頷いた。
そんなゆかりを見てイトウさんは、もう一度「えっ」を飲み込んだ。

公演1ヶ月前には、整さんが切れ長眼鏡にびしっとスーツで、
コスト計算のわけのわからない資料を携えて現れた(さすがラサール→東大)。
淡々とコストと危機管理の場合分けを、これ以上ないくらい丁寧にする整さん。
その横で電卓を握り締める腐女子1名(握り締めるだけ)、
ゼロが書けないOL1名、割り算を筆算するときの記号がわからなくなるJunk代表。
「おまえら…」と絶句した整さんの表情は、危機感そのもの。

そんな整さんに「人さらい」の称号を与えられたわたしは奔走した。
DJをつかまえ、映像クリエイターをつかまえ、出演者を強引に新規ライターにする裏技まで。
当日配るパンフレットの編集は〆切直前の桃生さんに丸投げしたし、
広報は千映さんに丸投げしたし、おみやげ考案はクラモチさんに丸投げしたし、
当日の受付嬢は顔採用の上「着物でお迎えしない?」とセクハラまがいの発言をした。
元彫刻家のリツさん(家の庭は野生の美術館そのものだ)に「丸太を展示してください」と言って断られたが、それ以外はおおむねよくやった。と、思う。

気がついたら、Junkすぎてわけのわからないプログラムができていた。
それでいいのだと思う。
この日に多くの邂逅が生まれるであろうことを、わたしは確信している。

2008/08/02 12:00 | 【080802特別号】 | No Comments

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