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2009/06/06

「広告」の行く末

最近TIAAという広告業界団体の一つから「賞」が発表された。東京インタラクティブアドアワード。今年の正月に年賀状の出し方に新しい方法を提案した「ミクシイ年賀状」が2008年度のグランプリを受賞した。関係者にはおめでとうと手放しで祝辞を贈りたい。
ところが、この受賞に関しては、業界内で賛否あるらしい。私の見る限り、否の方は、もともとが「広告賞」なのであるから、クリエイティブという視点から選考すべきであり、その視点からみると受賞作のクリエイティブが甘い、という主張。賛の方は、審査委員のコメントに明確に語られているが、コミュニケーションの「プラットフォーム」自体を「創造した」というクリエイティビティを評価する、というもの。
筆者は個人的には、この賛否論議を面白く見ている。この「賞」の目的がどうなのか、という一団体の賞の役割と言うことではなく、「広告」のクリエイティビティの変化、すなわち「広告」に求められる「新しさ」がかわってきたなぁ、という視点で。

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インタラクティブな広告制作者

この受賞に違和感を感じる人たちは、頭に「インタラクティブ」とついているとはいえ、「広告制作」という職域を前提に、優秀な広告制作作品を選ぶべし、という思考があきらかだ。若い人たちの中で、Webデザイナー、インタラクティブコンテンツクリエーター、などという領域で認識されているかもしれない職種の範囲内を前提にした考え方がある。それは、過去何十年にわたって、世界中で「広告」の社会的効果、社会的役割を牽引してきたマスメディアを主な舞台とする「広告制作者集団」、俗に言う「広告クリエーター」の職域の延長としてものを見ている。インタラクティブな広告制作者を、その集団の「先進的集団」としてとらえている。
現在のメディア事情、生活者のメディア生活の実態を相手に、マーケティング・コミュニケーションの道具として機能することが求められる「広告」を実現する役割であるこの業界人にとって、「インタラクティブ・クリエーター」こそが明日の「広告」を牽引し続けるのは自明だ。そして、このTIAAという団体もそういう人たちの社会的地位や成果を世の中に発信するというミッションがあることもわかる。今年の受賞作の中でもそうした「インタラクティブ広告制作」という領域での優秀作も多い。
前年のグランプリである「ユニクロック」は、カンヌでも賞をとり、業界内でも話題になった。このときの「ブランデッド・ユーティリティ」というプレゼンワードはひとしきり新しもの好きの人たちに使われた。マーケティング・コミュニケーションの新しい手段としてインターネット上のサービスを構築し、毎日でも見ていたいと思わせるコンテンツとその提供の仕組み、グローバルでブランドファンをつくるというブランドの課題をブレークスルーした構想力、実現力は、個人的にも圧倒された。インタラクティブな仕組みだけではなく、「ダンスをみる」というコンテンツの新鮮さ、チューニングの気持ちよさ、そうした「広告制作」のすばらしさが心に残る。こうしたものを成功のモデルにこれからの「インタラクティブな広告制作者」がどんどんその知恵と実現力で広告を変えていくのだろうと思っている。こうした視点から見ると、たしかに今年の受賞作はにわかには賛同できないというのもわかるのだ。

コミュニケーション・プラットフォームという出力

詳細は該当サイトでみていただきたいが、受賞作は、実は「広告制作」のアウトプットではない。mixiで(匿名でのものを含めて)交流のある人に、リアルな「年賀状」を送ることが可能になる新しいサービスだ。たとえは奇異かもしれないが、「スキー宅配便」などとおなじで、生活者にとってそれまでできなかったことを実現する「新サービス」の一つだ。
「スキー宅配便」が登場するまでは、車や電車でスキー用具一式を自宅からスキー場まで運ぶのはあたりまえだった。それが、宿泊するホテル宛に送って、帰りもホテルから自宅に送りつけられることが可能になり、画期的に便利に快適になったものだ。このサービスがあるからスキーに行く回数も増えた人もいたのではないだろうか。ゴルフも同様。
「新サービス」はこのように「広告業界」「広告制作者集団」という枠を超えて、多くの一般の人たちにとってインパクトのあるものになる可能性がある。受賞作はこの点から見て、画期的で素晴らしいものであることは確かだ。
思えば、インターネットの検索サービスも同様だった。軍事学術ネットワークを「商用利用に開放=インターネット」というそれ以前の革命的な事件には当然劣るものの、検索サービスが発明されなければインターネット一般化のスピードはもっと遅いものになっていただろう。
そう考えると、受賞作のような「コミュニケーションに関する新サービス」は今後、人々の情報生活、ひいては生活そのものをさらに便利に快適に変えていくポテンシャルを持っているとおもわれる。
それを「広告業界の人たち」がハブになり、複数のサービス企業やさまざまなプレイヤーを巻き込んで実現した、という事実そのものが画期的だと思っている。

「広告」の、明日はどっちだ

メディアニュートラル、エンゲージメント、コーズ・マーケティング、企業と生活者とともにする社会的貢献、産業界視点からの消費喚起、社会モラルの形成、生活者主導のコミュニケーション、、。今後の広告に関して、様々な視点からその役割の再定義が必要になってきているのが現在だと思っている。広告業界の内部にいると、景気が悪い、構造変化も心配だという声が支配的だ。それは事実かも知れないが、こうした状況の中で、真摯に「次の広告」を考え実現しようとしている人たちが多いという事実。だから、日本の「明日の広告」は大丈夫だと個人的には、ひっそりとおもっていたりもする。