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2008/03/09

(★注意:以下、読後感がかならずしもよいとは限りません。体調の優れない方、ストレスがかなり来ている方、妊娠の可能性のある方、理路整然と人生を送りたいと願っている方、宿酔いの方、朝食を抜いた方には、おすすめしません。また、読後いやな気分になったとしても、筆者はなにも責任を持てません。それでも、という方のみ、お進みください)


ある朝、目覚める直前に、僕は、テントウムシだった。
てんとうむし

だいたいにおいて、眠りが深くないので、
一晩のうちに何度も夢を見るのだ。
その何度目かの夢の中で、
自分がテントウムシになっているというのは、
とはいえ、たぶん初めてのことで、
さすがにその何度目かの夢の中で、

困ったなぁ

と声を出してしまったのだ。
おまけに、短い触覚を左右にフリフリしたりして。

何故テントウムシだとわかったのかというと、
電車のドアの前に立って自分の姿を見ていたからだ。

その日はなぜかアメリカに出張に行くはずで成田エクスプレスに乗っていたのだ。
その黒と赤で統一されたインテリアをうす暗いドアのガラスが映しているのだが、
そこに丸く赤い体の上に、黒い斑点をのせて、黒々とした頭の生き物が映っていたのだ。

目の錯覚かなぁ。変なものが映っているなぁ。はじめ、そう思っていた。

それが自分であることに気づいたのは、電車が空港第2ビル駅に到着し、後ろのサラリーマンに押し出されるようにホームに降り立ったときだった。
不思議とスーツケースは手元にあるものの、視界が妙で、無数の小さな虫眼鏡越しに見ているみたいで、距離感もつかめず、おろおろしている内にドアが閉まってしまった。閉まったドアのガラスには、やはり立ち上がってスーツケースを引いているムシの姿があったような気がしたのだ。

えーっ。間に合わないじゃん。

「変身」のことよりも、飛行機のことを気にするところが、僕だったりするわけで・・。

僕が乗るはずの飛行機は、NH10便のはずで、いや9便だったかもしれないけど、
とにかく、たしか終点まで行くはずで、いや、それはJALだったか、UAだったか、よく思い出せないけど、
どちらにせよ全日空の略号「NH」というのは、「日本ヘリコプター」というかつての企業名の頭文字で、
一度登録したものは社名が変わってもそのままなんてねぇ、だったらヘリコプターに乗りたいぞ、
などと、のんきなことを思い出したりしながらも、慌ててたりして。

まぁ、夢の中なので、こういう逃げたり慌てたりする状況はよくあるわけで、
混乱していてもしかたないと思いながらも、とにかく、焦っているわけで。

黒い斑点から、墨のような冷や汗をダラダラ流しながら、
何故かうろたえたテントウムシの僕は駅の改札を出てしまい、
なんとか遠い方のターミナルを探して、短い六本の足を、
まるでレレレのオジサンのように思いっきり回転させながら、
思いっきり焦って、せかせかと動き回るわけで。

どちらに行けばいいのかもわからないし、
はたしてテントウムシが人間に話しかけられるのかどうかもさだかではないし、
などなどといろいろ考えながら、とにかく走り回っていると、なんと、屋外に出てしまった。
そこは、たぶん臨時の駐車場としても使っている、ただの荒れた広場で、
所々に落花生の林が残っている。
頭の中では、「こんなところで、千葉名産の落花生かよ」と、がっくりしているのだが、
テントウムシの僕は、なぜか勢いよく、そこに向かっていき、
半分干からびた落花生を見つけて、クチに運び出したりするのだ。

だからぁ、飛行機に間に合わないでしょ。

そう頭ではわかっているのだけど、前足は器用に落花生の殻をむき、生のピーナッツをクチに運んで
むしゃむしゃむしゃ。薄皮がクチの横にくっついて、そのことが気になってしかたない。
それを取りたいのだけど、飛行機の時間も気になって、とにかくテントウムシの僕は、パニック状態なのだ。

5個めの落花生を食べ終わったとき、また余計な考えが浮かぶ。
落花生を咥えたテントウムシが、出国審査を無事通過できるのか。
たとえできたとしても、飛行機の座席シートベルトが巻けないかもしれない。
とりあえず、どちらにせよ、こんなことをしていてはと、
黒く光沢のある樹脂製のスーツケースを転がしながら、行き先も思い出せないくせに、
タクシーを探すことにする。

でも、この姿では、タクシーにのせてもらえないに違いないと思い、ならばと思いつく。
「優良運転手タクシー乗り場」に並んでみよう。・・・・
え、そんなの新橋駅前だけじゃないのか・・・・。

・・・・。

天井の方から、自分の声が聞こえる。
「どうせ、目が覚めれば、人間に戻ってるよ」

・・・・。

と思って、目を覚ましたら。

目の前が「砂の嵐」だった。テレビ画面

細かい点が無数にうごめいていて、ブラウン運動を行っていた。
あれぇ。変だなー。
目が覚めると普通の生活ができると思ったのに。

まだ夢の中か。しかたない、また眠ってしまおう。
疲れがとれてないんだな。
そうだそうだ。もう少し眠らなきゃ。

と、夢の中なのに、目を閉じた。

でも、その目の裏側は、やはり「砂の嵐」だった。
そこで、それも夢の中なのだと思い、目を閉じた。
でも、その目の裏側は、やはり「砂の嵐」だった。

・・・・。

何度も何度も、何度も何度も、
そうやって夢の中で繰り返している間に、

気づく。

・・・・。

あー。僕って、点になっちゃったんだ。
どんどん小さくなって。
形がなくなって。

点になったんだ。

今、僕は、
無数の点になって、
うごめいている。

・・・・。

・・・・。

この砂の嵐を見て、
あの人は、
僕の愛に気づいてくれるだろうか。

(夢幻咄:愛のヤオヨロズ 了。 BGM 松風鉱一「黄砂」)