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2009/05/19

2006年8月の冥王星降格事件以来、約3年振りにチェコに舞い戻ってきた。今回の滞在は、5月9日から9日間。隕石火球国際会議とプシュブラム隕石50周年記念、そしてチェコのズデネェック・セプレハ(Zdeněk Ceplecha)教授80歳記念を兼ねた会議(Bolides and Meteorite Falls)である。参加者は約60名。国際会議としては最も小規模な部類の学会だが、チェコ、スロバキア、ロシア、カナダ、ポーランド、タジキスタン、イタリア、バチカン、スイス、フランス、スペイン、イギリス、ノルウェー、フィンランド、ドイツ、アメリカ、チリ、日本、そして台湾から、その道の精鋭達が名を連ねた。

Praha-1ティホブラーエが天体観測していたクレメンティヌ天文塔から望むプラハの町並み。日本人は、小生とアマチュアのNさんのみの参加。先に帰路につくNさんを天文塔へ案内した。

Praha-2 旧市街広場の天文時計。

Praha-3 プラハのプラネタリウム。珍しいチェコ語版の星座早見版を複数枚購入。マニアの先生に献上する予定。
František Linkに師事したCeplechaは、1951年夏によりチェコスロバキア(現在のチェコ共和国)の2カ所で(f=180mm/F4.5レンズを使った30台のカメラで観測を開始。8年間、2500時間のトータル観測の後、1959年4月7日、歴史に残る火球が撮影された。同年4月20日、Luhy村 で4.48kgの隕石が発見された。6月9日 (800g)、8月15(420g), 24(105g)日にも引き続き発見が続きプシィブラム(Přibram)隕石と命名された。これが、初めて軌道が求まった隕石である。一般的に隕石は小惑星を起源にすると考えられており、流星観測ネットワークから、これまでに約10個の隕石の軌道が求まっているが、軌道の決定精度が悪いこともあり、同じ軌道に当てはまる小惑星は見つかっていない。隕石の故郷を同定する決定的な証拠は、まだ存在しないのである。

Ondrejov-1 Ondrejov天文台の初代ドーム。

Ondrejov-2 Ondrejov天文台の60cm小惑星ライトカーブ観測望遠鏡。

Ondrejov-3 Ondrejov天文台の流星ロボットカメラ。ロボット(robot=robota)はチェコ語。

Ondrejov-4 Ondrejov天文台にある旧ドイツ軍のウルツブルクレーダー。太陽観測に使われていた。

カタリナ・スカイサーベイは、アリゾナ大学・月惑星研究所行っている全天サーベイで、レモン山にある口径1.5mの望遠鏡を用いて、主に地球軌道接近型小天体(NEO)の捜索を行っている。2008年10月6日6時39分(世界時; 以下全て世界時)から7時23分の間に撮影された4枚の画像中を、高速で移動する18等級の小惑星が発見された。観測の1時間後には、ハーバード・スミソニアン宇宙物理学センターのマイナー・プラネット・センター(MPC)を通して、”地球に異常接近する”ことが確認され、8時7分に電子メールやウェブを通して小惑星「2008 TC3」の情報が世界に発信された。

観測データが更に加わり、地球大気突入時刻は10月7日2時46分、場所はアフリカのスーダン北部と分かった。同日22時22分には、カナリア諸島の口径4.2mのウィリアム・ハーシェル望遠鏡を用いて、組成を調べる分光観測も行われた。衝突のわずか20時間に発見されたが、世界中の26箇所の観測所で計570回の観測が行われ、軌道が改善された。小惑星の明るさと、後に回収された隕石の反射率から、その直径は4mと推定された。また、49秒と97秒の2つの周期で、1.02等級の振幅で光度変化しており(位相角17度を補正した振幅は0.76等級)、いびつな形状をした天体であったことが推察された。これまでの解析から長半径7mのUFO形状、体積は28m^2、平均密度は3.1g/ccと推定されている。補正した自転周期からは数千万年のダンピング・タイムが推定された。小惑星は太陽光の反射で光っており、刻々と地球に近づく微小な小惑星は、13等級まで増光したが、地球の影に入った10月7日1時49分以降、小惑星「2008 TC3」の姿を追いかけることは、もはや誰にも出来なかった。地球衝突まで1時間をきっていた。

Ceplecha-Jenniskens 歴史に残る隕石を発見したZdenek CeplechaとPeter Jenniskensと、2008 TC3の破片。

TC3 小惑星2008 TC3 = Almahata Sitta隕石

約1時間の”ダークフライト”の後、「2008 TC3」は、秒速12.4kmの速度で地球大気に突入し、その痕跡を様々な形で残した。2時45分40秒、1400km離れた場所を飛行中のKLMのパイロットが地平線の向こうが、短時間に3〜4回フラッシュするのを目撃。南エジプトの防犯ビデオカメラに火球の爆発で辺りが昼間のように照らし出される様子が記録された。落下地点付近の鉄道の駅の管理人は、眩い光で目を覚まし、エジプト国境付近からは、朝の祈りからの帰路に着く人々が火球を目撃。また、米国のスパイ衛星は、高度65kmからの熱輻射を感知し、欧州の気象衛星も高度37km付近からの発光と、赤外線放射を捉えた。気象衛星の赤外線カラースペクトルからは、10μmのアモルファスのSi-Oバンドが隕石後のダスト雲中から捉えられ、クリスタルSi-Oに変化する様子も分かった。遥か彼方のケニアに設置された核爆発探知用の微小気圧計でも、広島型原爆の約1/10の爆発として探知された。「2008 TC3」の大火球が残したロケット雲のようなダスト雲が、携帯電話のカメラで撮影された。kmと秒の精度で落下地点と時刻が予報され、時と場所を同じくして、これだけ多くの”地球大気に衝突した証拠”が僻地から集められたのである。

2ヶ月後の12月6日、宇宙生物学研究所(SETI)のピーター・ジェニスキンズが主導し、現地の天文学者と大学生45名の協力のもと、隕石落下予想区域のスーダン・ヌビアン砂漠の大捜索が行われ、捜索開始の2時間後に最初の隕石が発見された。2009年3月まで継続された捜索で、最終的に280個、1.5gから283gまで総重量約4kgの隕石群が、差し渡し29kmの範囲で発見されたのである。これらの隕石は、「アルマハータ・シッター(Almahata Sitta)」隕石と名付けられたが、まだ多くの隕石が残っている可能性がある。これまでの分析からは、ユレイライトの特殊なタイプと分類された。ユレイライトは、始原的な石質隕石(コンドライト)が、溶融プロセスを経て生成され分化した隕石であるエコンドライトの一種で、カンラン石と輝石の間を炭素質物質が埋めた組織を持ち、ダイヤモンドも含んでいる。回収された炭素に富む隕石は、反射率が4.6%と”とても黒く”、これまで謎とされてきたFクラスに分類される小惑星と類似していることが突き止められた(現段階では、反射率は0.5%〜0.19%と、破片によって大きくばらついていて鋭意測定中)。また、隕石の平均密度は、2.1〜2.5 g/cc で、典型的なユレイライトの粒子密度を仮定すると、空隙率(体積に対する内部の空隙の割合)は 25〜37% と非常に大きく、もろいことが分かった。このような非常にもろい隕石は、上空で粉々になり燃え尽きてしまうため、今回のように回収されたことはなかった。隕石のさらなる分析結果が楽しみである。

地球に衝突するわずか20時間前に発見された「2008 TC3」は、地球への衝突が事前に探知された初めての小惑星となった。更に「2008 TC3」は、これまで軌道が決定された最も精度の良い隕石の、約10000倍も精度の良い軌道が与えられた隕石として回収され、小惑星の姿で地球から目撃された初めての隕石となったのである。現在、地球軌道接近型小天体(NEO)は、約6千個が見つかっており、そのうち約1千個は、地球衝突危険性天体(PHO)である。現在、我々が取り組んでいる今夏始動のPan-STARRS(パンスターズ)全天サーベイにより、新たに数千個のNEOが発見され、この隕石がやってきた小惑星や分裂した更なる破片天体が見つかる可能性は十分にある。

さて、今回は、学会のエクスカーションとして、プラハからバスで1時間弱のオンドジェヨフ天文台も訪れた。ここは、小生が2003-2005年に住んでいた人口1000人の村にある、チェコ最大の天文台である。チェコ語も全く分からず、よくもこんな田舎に飛び込んで来たなぁと思うとともに、あの頃の素晴らしい日々が懐かしく感じられた。今年から台湾-チェコの交流助成金が設立されたこともあり、再びチェコ人らとの交流が復活する具体的な相談なども行えた。プラハでは、以前からの知り合いであるチェコで戦う日本人侍らとも過ごすことができ、毎日チェコの美味いビールを沢山飲んで、楽しい一時を過ごす事ができた。プラハの春国際音楽祭ということで、スメタナ・ホールでフランス・シャンゼリゼ交響楽団のオーケストラを堪能した。古色蒼然としたプラハを舞台に、研究だけでなく、国籍問わず、多くの友人らとの再会を果たした。台湾に戻ってからも心機一転して研究に取り組みたい。

Smetana-hole プラハの春の音楽祭。スメタナ・ホールにて。

Praha-4 黄昏れる小生。

Praha-5プラハ城,カレル橋とブルタヴァ川

【プラハからの帰路(プラハ-ヘルシンキ-香港-台北)の機内にて】

2009/05/19 09:32 | チェコ, 天文・宇宙, | No Comments

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