« | Home

2017/05/26

宇宙の96%は,ダークエネルギー(74%)とダークマーター(22%)で満たされており,我々が観測可能なバリオンでできた世界は,宇宙の4%に過ぎない。更にその4%の宇宙のうち99%はプラズマ状態にあり,人間は,1%のプラズマでない中性の世界で生きている。地球自身も,地磁気は360万年で11回も逆転しており,最後の地磁気逆転は約77万年前。地磁気逆転の時代には,大量の高エネルギー宇宙線が侵入して,大気が電離して気象変動を誘発し,地上の生命体も被爆を免れない。

つまり,我々は,宇宙の中では,4%x1%=0.04% という,極端に稀な世界に生まれ,宇宙が誕生して今ままでを1年のカレンダーとすると,12月31日の除夜の鐘が鳴り始めた頃にホモ・サピエンスになったばかりの,束の間のパラダイスを謳歌している赤子の知的生命体と言える。

そして,宇宙では米粒のような存在のkmサイズの小天体が,たった1発衝突しただけで,日々の生活や未来までもが一瞬にして失われてしまう。そう,人類というのは,激動の宇宙の極々僅かな平穏期に,たまたま地球上で知性を持った生命体というだけであって(ある意味で神様から与えられたチャンス),今、叡智を集結して宇宙で生き延びる努力をしないと,必ず滅びる運命にある非常に危うい存在なのである。

 

そんな危うい地球には天文学者という集団がいて,その天文学者集団の中でも特にマイナーな地球衝突天体を専門とする知的集団がいる。そんな,地球衝突天体を真剣に考える研究者らが2年に一度集結する,今年で5回目となる国際会議「Planetary Defence Conference (PDC; 地球防衛会議)」が,世界中から200名を超える研究者が東京お台場の日本科学未来館に集い,2017年5月15日〜19日に開催された(NASAやESAからも20名以上が参加)。

集合写真

小惑星の物理観測,衝突予測(衝撃破,クレータ形成,イジェクタ噴出物,そして津波被害),一般市民への警報・避難など,通常の分野の限定された国際会議では交流し得ない研究者が一同に会したPDC国際会議は,まさに刺激的で衝撃的な1週間だった。

 

また,PDCでは,通常の国際会議では行われないような「Exercise(訓練)セッション」が連日夕方から実施された。直径約300mの仮想小惑星「2017 PDC」が2027年7月21日に中国-朝鮮半島-日本に衝突するシナリオに基づき,(1) 小惑星物理観測,(2) ミッション立案,(3) 衝突回避・破壊,(4) 衝突影響評価,(5) 一般広報,(6) 災害対策,(7) 情報集約と最終的な行動決定の7つのグループに分かれ,(1)〜(6)班のメンバーが議論を行い,(7)班が各班代表の発表に対する質疑応答を公聴会形式で行いながら,意見の集約と指針をまとめた。

 

阿部研究室の院生7名も運営委員(LOC)として参加し,現場で奮闘してくれた(3名はポスター発表も行った),学生らにとっても膨大な知見の蒐集と国際コミュニケーション能力を鍛えることができた,濃密な1週間だったと思う。

 

直径270m(密度1.9g/cm^2, 直径100mの衛星も存在することが地上とスペースからの観測により判明)のアポロ型小惑星2017PDCが2027年7月21日に地球衝突する想定で様々な検討が行われた。

東京お台場がグランド零になった場合,直径3.8kmのクレータが形成され,直径42km圏内はトラス橋が崩壊する爆風,直径98km圏内の木造建築は爆風で倒壊, 112km圏内の窓ガラスは吹き飛ぶ,3700万人が被災する。今から10年で,これだけの人間を退避させなくてはならない。被害想定ができているので,直接の死者数0が我々の設定目標。

太平洋に落下した場合,高さ29mの津波が到来する。洋上落下の場合は,海岸からの距離に関わらず,振幅約60mの波が減衰して,ほぼ同じ高さ(25-29m)の津波となる。(courtesy; P. Chodas[JPL/NASA], M. Boslough, B. Jennings[Sandia National Laboratories])

 

巷で話題になった新海誠監督の映画「君の名は。」。この映画は,空前絶後の世界の話だと思っている人は多いだろうが,実は,十分に起こりうる現実に即した話題であり,クレーターサイズなども物理的にリーズナブルなサイズで,統計的に見ても,いつ起きてもおかしくないありふれた小天体の地球衝突現象なのである(詳しくは;講演会・サイエンスカフェ等の講師引き受け可)。

 

地球衝突天体の研究(小惑星,彗星,流星,隕石,人工流星,スペースデブリ…)は,ある意味で人類の宇宙での存続を左右する結構重要な学問なんじゃないかと思う。。。。

 

「小天体の脅威を世に伝えることは,もう権利なんかじゃない 義務だと思うんだ。。」【君の名は。】RADWIMPS「スパークル」より

2017/05/26 10:37 | 天文・宇宙 | No Comments