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2015/11/25

2015年2月20日深夜のニュース番組(FNN News JAPAN)で,現在我々が取り組んでいる研究・開発活動が取り上げられた。その前日に日経新聞に取り上げられた「人工流れ星、東京五輪の空に 開発に挑む女性起業家」を見たフジテレビのニュース番組ディレクターから当日の夕方に連絡があり,急遽対応することになった。

 

「人工流れ星」プロジェクトは,株式会社ALE(岡島礼奈・社長)の発案で研究開発が進められている事業で,首都大学東京システムデザイン学部 航空宇宙システム工学コース・佐原宏典先生, 帝京大学理工学部 航空宇宙工学科・渡部武夫先生と日本大学理工学部 航空宇宙工学科の3大学と,株式会社PDI,アクセルスペースなど複数の民間企業でチームを形成して取り組んでいる。

 

そもそも,人工的に流れ星を作るアイデアは古く1940年頃からある。世界初の人工流星実験は,1946年12月17日にFritz Zwicky博士によってドイツV2ロケットを使って実施されているが,ロケットが爆発して失敗に終わった。1957年10月16日(人類初の人工衛星スプートニク打ち上げの12日後)には,同じくV2ロケットを使って米国空軍がニューメキシコWhite Sandsで実験を行い,直径数cmの流星源(アルミニウム球)3発が埋め込まれた釣鐘型弾薬を高度87kmで爆発させ,流星源を秒速15km/sに加速させて人工流星を発生させることに成功している。爆発で生じたデブリの一部は,地球重力圏を超えて太陽の周りを回る軌道に入ったため,人類初の深宇宙人工物体になった。その後,1960年代にはNASAラングレー研究所が,サウンディング・ロケットとキックモーターを使った人工流星実験を何度も行っている。1-2cmほどの金属プロジェクタイルを弾道飛行と多段ステージで秒速11-12kmまで加速し地球大気圏に再突入させ,0等級(絶対等級:天頂距離100kmでの可視等級)ほどの流星を発生させている。日本国内では,20世紀末に日本大学理工学部航空宇宙工学科の石川芳男先生のグループが,宇宙から雪玉を大気圏再突入させる実験を提唱し,衛星の具体的な設計検討まで行っていたが実現には至らなかった。その他,衛星設計コンテストなどにも,似たようなアイデアが幾つか提出されている。また,2010年に地球帰還した小惑星サンプルリターン探査機 「はやぶさ」では,地球帰還カプセルのみならず,探査機本体も惑星間空間から直接地球大気圏に秒速12kmの超高速で再突入し,満月を超える明るさに輝く人工大火球となり,人工流星の様々な科学観測が南オーストラリアの砂漠地帯で実施された。

地球の果てでハヤブサを迎える(前編)

オカエリナサイ・はやぶさ

 

フジテレビ「ニュースJAPAN」

夜空に突然きらめく流れ星。これを人工的に作り出そうという試みが進められています。
いつでも流れ星が見られるという未来がやって来るのか、取材しました。夜空にすーっと伸びる一筋の光。
瞬く間に消えてしまうため、街中ではめったに見られない流れ星。
しかし、ちょっぴり寂しい東京の夜空にも今後、流れ星が見えるようになるかもしれない。
今、人工的に流れ星を作り出す試みが進められている。
日本大学理工学部の研究所。
実用化を目指し、開発しているのが「人工流星体」。
日本大学理工学部航空宇宙工学科の阿部新助准教授は「これが人工流星体ですね。こういったものを宇宙から地球に突入させて、流星発光させようと」と話した。
小さな玉がいくつも詰まったケース。
この1粒1粒が流れ星になるという。
その構想をCGで再現したものがある。
宇宙空間へ打ち上げられた人工衛星の中に搭載した粒を、地球へ向け射出。
粒が大気圏に突入すると、激しく発光し、地上から見ると、流れ星に見えるという仕組み。
素材は全て燃え尽きるため、地上へ落ちてくることはない。
阿部准教授は「(流れ星の大きさは、こんなに小さいものなのか?)実際の流れ星は、実はもっと小さいんですね。直径がもう本当1mmぐらい。超高速で地球大気に突入するために、非常に明るく輝きます」と話した。
本物の隕石(いんせき)の構造や、実際の発光の仕方を研究し、流れ星の素材作りに生かしていた。
阿部准教授は「小型衛星など、比較的安く簡単に宇宙に行ける手段がありますので」と話した。
1回の打ち上げ費用は10億円ほどで、2年後には、宇宙での実験を計画している。
この夢のような企画を発案したのは、ベンチャー企業・株式会社ALEを経営する岡島礼奈代表取締役。
5年後、東京オリンピックの式典での採用を目指しているという。
岡島代表取締役は「ものづくりって今、日本というのは元気がなくなってきているといわれているんですけれども。例えば、東京オリンピックとかで、日本の技術でこういうことができましたとアピールできたら、すごく元気になるなと思ってます」と語った。
いつでも夜空で流れ星が見られる未来が来るかもしれない。

 

さて,このニュースが流れてから,ネット上では様々な反応があった。反対意見の中には,なるほどニュース報道だけでは,そう考えるのも頷けた。ネガティブな意見の概要をまとめると,

  • 流れ星は滅多に見られないからこそロマンがあるのに,人工的に流したら意味がないな。
  • 流れ星は自然現象だから美しいのであって,いつ流れるか分からないから価値があるんだよ。
  • 田舎で1時間も空を見上げれば,流れ星ぐらい何個も見えるのに,何で人工的に作る必要があるのか。
  • 技術的にはすごいかもしれないけど,無意味でお金の無駄遣い。
  • 塵をばら撒いて環境汚染になる。
  • 軍事利用される可能性がある。
  • 流星観測の邪魔になる。光害になるようなショーは行って欲しくない(天文家より)。

 

我々が計画している人工流れ星は,地球の重力圏を振り切ることなく低軌道から減速させて再突入するので,地球の重力圏外から飛来する秒速数十kmの天然の流星よりもずっと遅い7.8km/s,人工衛星が落下してくるような超低速流星となる。継続時間も数秒以上続く「特異な流れ星」になる(流星の平均的な発光継続時間は0.5秒)。従って,一目で天然の流星との区別がつくし,願い事を3回唱えるのも簡単だろう。

 

そもそも地球には,毎日約100−300トンの地球外物質が降り注いでいる。その殆どは,太陽系内の彗星や小惑星からやってくるメテオロイドだ。一般にメテオロイドは,直径がμm〜mサイズの塵(ダスト)で,直径約1 mを越えると小惑星と呼んでいるが,学術的に明確な境界は定義されていない(現在,国際天文学連合において「塵-メテオロイド-小惑星・彗星」のサイズ境界の新たな定義案を提出中)。メテオロイドが超高速(秒速12-72km)で地球大気圏突入する際の,空力加熱(空気の流れが堰き止められて圧縮することで,運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて加熱される)によるアブレーション・プラズマ発光が,流星現象である。高温により物質が昇華して励起原子・分子や電子が生成される過程をアブレーションと呼ぶ。通常我々が目視できる流星は,大気突入速度や突入角などにもよるが,およそ直径が0.5〜数mmと見積もられている。地球に降り注ぐ宇宙物質の殆どは,肉眼では見えない非常に暗い流星(宇宙塵:IDP=Interplanetary Dust Particle)だ。頭の真上に掲げた拳1つの領域(上空100kmの約20km四方)に,1日で数千個の肉眼では見えない流れ星が,昼夜関係なく降り注いでいるのである。頻繁に発生する流星によって形成される電離柱を利用したVHF帯通信が「流星バースト通信」である。流星は発光(あるいは加熱だけ)しても完全にはアブレーション消失せずに,ミクロンサイズの粒子は,ジェット気流に流されながら何週間もかけて地上まで落下してくる。海底の泥や南極氷床など,静かな環境下に昔のままの姿で残される。

 

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マイナーな流星群も含めると,1年間に100個近い流星群の活動が知られている。彗星や小惑星からのフラグメントが地球軌道と交差し,地球大気圏に衝突して輝く現象が流星である。地球と遭遇することで,母天体からやってきた塵を観察することができるのである。つまり,流星現象の観測は,地球大気を「天然の巨大な望遠鏡」と見立てた,地球に居ながらにしての間接探査ともいえる。流星や地上まで落下する隕石から,母天体である彗星や小惑星を探査できるのである。実際,流星の二点観測からは速度や軌道が分かり,速度と光度から大きさが見積もられ,大気減速からは質量が推定される。また,天然の流星発光をプリズムなどの分光器を通して見ると,組成やプラズマ励起温度などの物理化学素過程を調査することが可能だ。しかし,いつどこに出現するのか分からない天然の流星や火球を対象にしているため,これらの物理量が全て精度よく求まることは稀だ。近年,小型汎用カメラと自動観測ソフトウェアーを利用した,SonotaCoネットワークなどの夜間常時流星観測網が発達し,流星群の活動や軌道についての新たな知見が次々と得られている。しかし,広い視野を監視しているため,空間分解能が悪かったり,天候の影響を受けざるを得ない。そこで,組成・突入速度・突入角・形状・密度が全て既知の人工流星体を制御して大気再突入させてやれば,時刻,出現場所,天空の出現位置が予め分かっているため,周到に準備された高精度の科学観測が実施できる。つまり,人工流星は,様々な物理パラメータが不明の天然の流星を詳しく知るための「モノサシ」となるのである。また,太陽活動により変化する電離圏(中間圏・熱圏)の状態を,人工流星プラズマを光やレーダーなどを使って調査する新たな観測手段が確立される可能性もある。

 

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しし座流星群流星スペクトル。観測値(上)と強度補正後(下)。長波長側のN,O,N2は超高層大気成分からの発光物質。短波長側のNa,Mg,Fe,Caなどは,メテオロイド由来の発光物質。人間の眼が感じる波長領域(380-700nm付近)で,これらの物質の発光色が混じり合った色として視認される。

 

 

昨今問題視されている「宇宙ゴミ」「スペースデブリ (Space Debris)」は,耐用年数を過ぎて廃棄された人工衛星,事故・故障で制御不能になった人工衛星,打ち上げに使われた多段ロケットの切り離しで生じた破片,さらにはデブリ同士の衝突で生まれた微細デブリなどの人工物である。1957年,人類が宇宙へ活動の場を広げて以降,4000回以上ロケットの打ち上げが行われ,今なお5000トン(1cm〜10cmで50万個,1cm以下のデブリは,数千万個以上あると推定)ものスペースデブリが地球を取り巻いている。これらのデブリは,同一軌道上を相対速度がライフル銃の数倍という速度を有しながら浮遊しており,例え数mmでも衛星や宇宙船を機能停止させてしまう。ある軌道では,既にデブリの数が増え過ぎており,デブリ同士の衝突によって加速度的にデブリが増え続けるケスラーシンドロームという現象に陥っている。ますます宇宙に活動の場を広げる人類にとって,スペースデブリの数を減らすデブリ除去技術開発の必要性が迫られている。最終的には,デブリの軌道を変更させ,地球大気圏に再突入させて流星アブレーションで人工流星にして,運動エネルギー(1/2mV^2)を光や熱エネルギーに変換させて消滅させる手段が,コスト面でも最も効率が良いとされている。2020年以降に地球大気圏に落下して廃棄させる予定の国際宇宙ステーションは,420トンのサッカー場が落下するに等しい。この巨大な宇宙建造物を安全に地球大気圏で消滅させる手段も,人工流星アブレーションが利用される。2001年3月にフィジー沖の南太平洋に制御落下された,ロシアのミール宇宙ステーションが良い例だ。「こうのとり」や「ATV」などの国際宇宙ステーション補給機も大気圏に再突入させて廃棄しているが,安全のため南太平洋上などで行われており,大気圏突入の流星発光を地上から精密観測することは困難である。JAXAは,こうのとり補給機に再突入データ収集装置(i-Ball)を搭載して流星発光を計測したり,NASA/SETI/ESAは,ATVの再突入を専用航空機から観測するミッションや未知のスペースデブリの地球再突入の様子の航空機観測を行っている。我々が計画している人工流星は,デブリ除去や,大気圏再突入実験にもフットワーク良く応用されることが期待される。

 

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ミール宇宙ステーションの大気圏再突入(2001/03/23, Fiji)。

 

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軌道が監視されている直径10cm以上のスペスデブリ。10cm以上の人工物は約22,000個(現在)が軌道上にあり,このうち95%がスペースデブリとなっている。

 

 

TVニュースで紹介されていた宇宙花火的な紹介(あるいは,宇宙葬など)は,エンターテイメント的な側面だけが強調された偏った報道である(ニュース性はあるが,研究者の視点では本質ではない)。もちろん,これらの活動は,宇宙科学アウトリーチやプロジェクトを進める上で重要な資金調達にはなるが,人工流星は上述の研究テーマやパンスペルミア説の検証実験などの科学目的利用,差し迫ったデブリ問題を解決する実験に必要な技術として活用されることを期待し,研究開発に取り組んでいきたい。

追記;

人工流れ星プロジェクト「STAR-ALE」ホームページ

もう少し分かりやすく解説した私のALEインタビュー記事もご参照ください。

人工流れ星プロジェクトは,TBS 夢の扉+(2015年11月22日)にて紹介されました。

「世界初」と言っているのには補足が必要で,「人工衛星を使った人工流星実験は世界初」となります。1957年10月16日にV2ロケットを使って米国空軍がニューメキシコWhite Sandsで実験を行い,直径数cmのアルミニウム球3発が埋め込まれた釣鐘状弾薬を高度87kmで爆発させて,人工流星を発生させています。その後,1960年代にはNASAラングレー研究所が,サウンディング・ロケットとキックモーターを使った人工流星実験を何度も行っています。弾道飛行でない地球周回軌道上から軌道とタイミングを制御して人工流星を「複数回」発生させることはまだ誰もやっていない「世界初」となります。

2015/11/25 12:51 | 天文・宇宙 | 1 Comment

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