« 超小型衛星 台湾上陸? | Home | 太陽系を塗り替える人々 »
新年快楽!! 台湾では1月26日に旧正月を迎え、今週まで正月休みであった。多くの店は閉まるので、台湾に在留している外国人にとっては災難でしかないのだが、知り合いの台湾人らの実家にお邪魔して、台湾流の正月料理などを味わってきた。実は、元旦に日本に一時帰国しており、関東と関西を10日間ほど巡り、酷い風邪を煩いつつも日本の正月を楽しんだ。台湾への帰国前日の1月10日に、Junk Stag代表の須藤優さんの提案で、須藤さんも含め、スタッフ4名と都内でお会いすることができた。
2009年は、イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡を夜空に向けた1609年から、ちょうど400年目にあたる。国際連合、ユネスコ、国際天文学連合は、今年を「世界天文年(International Year of Astronomy:略称 IYA)」と定めた。世界天文年を通じて、多くの人々が夜空を見上げ、宇宙に存在するかけがえの無い地球、地球上に存在するかけがえの無い命を見つめ直すなど、宇宙を通じて新たな発見をしてもらうのが目的である。
世界天文年のロゴ(日本版と台湾版) http://www.astronomy2009.jp/
ということで、小生が希望した会合場所は、東京・池袋。待ち合わせたのは、サンシャイン・プラネタリウム「満天」。Junk Stageの須藤さん、水野さん、酒井さん、荒井さんが寒空のもと集合。自己紹介もそこそこに、まずは皆さんとプラネタリウム観賞 (小生にとっては、これが自己紹介代わり)。池袋には、色々な思い出がある。中学・高校と新宿にある「海城学園」に通っていたので、埼玉の田舎への下校途中は、いつも池袋の本屋かゲーセンで塒を巻いているか、閑散としたプラネタリウムで宇宙の神秘に触れていた。浪人時代の予備校も池袋だったし、デートではサンシャイン・プラネもよく利用した。そんな懐かしい思い出の詰まったサンシャイン・プランタリウムで、我々が楽しんだのは、「柴咲コウの星空Love Song」。20年前では考えられないようなトレンディーでロマンティック、かつ教育的な番組だった。こんな番組だったら、デートも絶対に成功するだろうなぁと感心。2003年に経営難で一度は閉鎖されたサンシャイン・プラネは、小生も参加した著名運動により「満天」として復活し、今では池袋のデートでも欠かせない存在。2時間前にはチケットが売り切れるという毎回満席状態である。
現代のプラネタリウムを満喫した我々が、茶をしばく為に入店したのは、(須藤さん紹介による)「パフェテラス・ミルキーウェイ」。各々の星座に因んだ星座パフェを楽しみつつ、様々な話に花が咲いた。この店の面白いのは、12星座ではなくて、13星座のパフェが揃っているところ。占星術師でない我々天文学者は、「この店は学術的で良い」と好感を持つに違いない! 今から約2千年前のギリシャ時代に、太陽の通り道(黄道)をほぼ12等分することで作り上げたのが黄道12星座。占星術では、自分の誕生日に太陽がいる星座が、自分の生まれた星座になる。太陽が輝いている真っ昼間の空に自分の星座があるのだから、誕生日から約半年すると真夜中に夜空に自分の星座が輝く。さて、そんな星座も、時代や国によってまちまちだったため、1930年に国際天文学連合(IAU)が88の星座とその境界を定義・決定した。その結果、それまで12星座でなかった「へびつかい座」が、黄道を通過することになり、天文学では黄道には13星座あることになった。
小生が食べた「しし座」パフェ。
星座が定義された1930年以来、国際天文学連合(IAU)が行った教科書が書き変わるような大きな決議と言えば、記憶に新しい2006年チェコ・プラハで開催された国際天文学連合での「冥王星の惑星降格」を引き起こした「惑星の定義」である。実は、冥王星は、歴史的背景から惑星に認めていたに過ぎず、「冥王星は惑星ではない」という認識は、我々太陽系天文学者には一般的だった。曖昧だった境界を顕在化させたのが、2003年に発見されたエッジワース・カイパーベルト天体「エリス」が、冥王星よりも大きいと分かった2005年であった。2006年の国際天文連合に参加中だった小生は、冥王星が第9惑星の権利を剥奪されていく、1週間に渡る議論の過程全てに参加し、100年に一度の一大イベントの渦中に幸運にもいた。プラハの春ならぬ、プラハの夏である。突如沸いた大事件に、日本の報道各社は、欧州滞在中の科学担当でない支局長レベルの記者達を急遽プラハへ送り込んできた。惑星定義委員会の委員であった小生の元ボスの渡部潤一氏のもとには、記者や報道各局が殺到。とても一人では対応できないとのことで、記者レクを任された。科学記事を書くに必要な基礎的な知識を、噛み砕いてレクチャーするのである。相手が科学記者でないので、中学教科書レベルからの説明であった。チェコで2年間を過ごし、若干のチェコ語とプラハの町を知り尽くしていた小生は、アインシュタインやカフカが通った由緒あるカフェに記者達を集めて、記者レクを行った。冥王星が無くなったという誤報もあったが(これは、現地に記者を派遣しなかった報道局による)、文系記者さん達が、短時間の間に正しい新聞記事を発信していたのには驚いた。冥王星は、もはや惑星ではあり得ないが、新しい基準となる「準惑星」の親分的存在として永遠に「冥王星」という名は失われないのでご心配なく。
[追記]
2006年8月に行われた総会でIAUは、冥王星のような惑星に準 じない大型の天体のことを「Dwarf Planet(ドワルフ・プラネット)」(和名は「準惑星」と日本国内で決定され教科書も改訂された)と呼ぶことを決めたが、「Dwarf Planet」というのは一般的ではないことから、今回、新ため て「Plutoid(プルトイド)」と分類することを決定した 。ErisもPlutoidに分類される。
※ リツ(丸太作家)さんの「天文学者阿部さんに会う」、柳楽正人さんの「最後の惑星」で冥王星ネタを取り上げて頂き、ありがとうございます。ホルストは、僕らにとってもバイブル的存在ですが、ホルストの「惑星」は、結果的に正しかった訳ですね。今年は、あれ以来初めてになるプラハに、春の音楽祭の季節に訪問する予定です。須藤さん、マニアな会合にお付き合いして頂きありがとうございました。
太陽系の惑星定義議決;「冥王星が惑星じゃないと思う人、手を挙げて!」の瞬間。(撮影、阿部新助)
そして、ガリレオが望遠鏡で宇宙を観測して400年目の今年は、世界中の天文学者が注目する我々のプロジェクト(Pan-STARRS)がいよいよ観測をスタートさせる。ガリレオは肉眼で宇宙を覗いたが、僕たちはハワイ大学が開発した世界最大40cm角、14億ピクセルのCCDカメラを1.8m望遠鏡に付けて夜空を撮りまくる。最新のデジカメは、5mm角(1000万画素)程度なので、ざっと6千倍の大きさである。更に、次世代の(縦横方向電荷転送方式)手振れ防止機能が14億全てのピクセルに装備され、星の瞬きや望遠鏡の振動をキャンセルする。1枚の画像は、7ギガバイトもあり、とてもマニュアルで操作できないので、特別なソフトウェアーも開発した。画像を処理して、星の位置や明るさを計測するソフトや、複数の画像中から小惑星や彗星などの移動する天体のペアを同定して、複数のペアから軌道を決定するソフトなどである。次世代CCDと、ソフトウェアーの組み合わせにより、人類が200年掛けて発見した小惑星の数(約50万個)をおよそ半年で更新し、3年間で数百万個の新たな小惑星や彗星、太陽系の果ての冥王星よりも大きな天体などを次々に発見する見通しである。その中には、将来地球に衝突する可能性のある天体も含まれている。ガリレオさんも真っ青だろう。我々の研究成果によって、もしかしたら、いつか再び惑星の定義が書き変わるかもしれない。科学の進歩は常識さえも変え得る。僕たちは、まだまだ世間知らずの非常識な世界に住んでいるのである。
次世代手振防止機能搭載、世界最大14億ピクセル・デジカメ2009年始動
世界天文年の今年、みなさんも是非、夜空を見上げたり、科学館やプラネタリウムに足を運んで、自分と自分達が住む地球を見つめ直してみては如何ですか?
1月24日に明石市立天文科学館 のプラネタリウムを使って一般人を対象に「世界天文年2009イベント」が行われた。SKYPEを使って、小生が台湾から天文学のレクチャーを行った。半数以上の参加者が聴覚障害者だったため、手話の方々に協力して頂き、無事に「台湾-日本」を繋いだ初の世界天文年イベントを成功させることができた。