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2008/10/22

いま僕は、ニューヨーク州イサカからマンハッタンへ向うリムジンバスの中でこの文章を記している。コーネル大学のキャンパス間を約5時間で繋ぐこのバスには、キッチン、トイレ、電源、飲食物が完備され、全て自由。更になんと、ワイアレス・インターネットが使え、車窓を楽しみながら高速ネットサーフィンが可能。さすが、インターネット先進国である。

さて、アメリカ天文学会・惑星科学会(DPS; Division for Planetary Sciences)が、ニューヨーク州イサカのコーネル大学で5日間に渡って開催された。アメリカ天文学会といっても、アメリカ国内だけでなく、世界中から学生を含め天文学者らが集う。その数、約700名。僕ら天文学者の仕事は、未知の天体物理現象を解明するために研究目的を定め、その目的を達成する手段として天体観測や探査を行ったり、或はコンピュータで計算したり、室内実験を行ったりする。このようにして集めたデータを整約し、理論的解釈を与え、それらを論文や学会発表を通して世界へ発表する。物理という共通認識を、英語という共通言語でコミュニケーションを取りながら認識を深め、知見を広げていくのである。

Cornell University Cornell University

宇宙は広いので、銀河から太陽系、宇宙工学まで多枝に渡る。天文・宇宙に関係する国際学会は、それこそ毎週、世界中の何処かで必ず行われている。参加する学会が、自分の分野や興味と合致することも大切だが、風光明媚な観光地開催の場合、参加者も必然的に多くなるし、自分が行ってみたいと思っていた場所で開催される学会には心が揺れる。とはいえ、自分が所有する研究費やスケジュール、持ちネタの兼ね合いもあるので、効率良く計画的に学会に参加・発表していく必要がある。フロリダで開催された昨年に比べ、今年は辺鄙な田舎での開催ということもあり、参加者は若干減ったそうだが、コーネル大学と言えば、アメリカ惑星科学を主導した天文学者でSF作家(コスモス,コンタクトなど)の故カールセーガン(1934-1996)も教鞭を執っており、惑星研究所があることでも有名だ。実は僕は、アメリカ天文学会・惑星科学会は初参加であり、ニューヨーク・シティーにも滞在したことがないので、学会後のニューヨーク観光もしっかりと予定に入れて学会参加のスケジュールを決めた。今回は、現在住んでいるハワイからニューヨーク往復の格安チケットを入手して臨んだ。最近は、研究費を使って学会以外のアクティビティー(観光など)を行うと、大学の事務に睨まれるので、何らかの理由が必要になる世知辛い世の中になった。

学会でもう一つ重要なのがホテルである。外国の場合、シングルで宿泊するとツインと同じ値段なので相当割高になってしまう。そこで、学会に参加する友人を予め見つけて同室を予約するのが常である。また、大都市開催の場合は、ユースホステルを使うこともしばしばあるが、夜更かしする輩が多いユースでは、なかなか学会の疲れが取れないというデメリットもあったりする。僕が学生の頃、旅行気分でどうにかなるだろうと、宿も取らずにアメリカの学会にのこのこやってきて、結局ホテルもユースも見つからず、国立天文台の当時の指導教官(親方)渡部潤一准教授のホテルの部屋に追加ベッドを持ち込んで迷惑を掛けてしまったことがある。そういえば、あの学会も、ここイサカだった。初めて渡米した9年前のことである。あの時は、親方の運転手としても働き、延々と続く一直線の道をしばらく逆走して走り、対向車が向ってきてからここが日本でないことに気づいたりしたものだ。今回は、この秋から自分の学生となった台湾國立中央大學の大学院生といっしょに宿泊。9年前と真逆のシチュエーションである。更に予算を節約するためレンタカーも借りず、毎朝、コーネル大学への山道を徒歩30分で登った。学会がチャーターしたホテル巡回バスもあったのだが、全てのホテルを回る学会バスは、1時間近くも掛かるというので、結局一度も使わなかった。御陰で、毎日変化していく紅葉や銀杏の燃えるような色合いを楽しみながら、清々しい朝の空気を満喫できた。

Cornell University 毎朝通った町からコーネル大学へ続く川沿いの道。標高差200m弱を登る。大学キャンパスの中に渓谷がある。

肝心の学会は、予想以上に質の高い充実したプログラムの目白押しで、いつもなら学会の一部をスキップして観光へ繰り出すのだが、今回はほぼ全ての講演に耳を傾けた。毎日、朝9時から夕方まで、多くのエキサイティングな講演を聞き、彼らと直接議論を交わし、自分の研究への糸口を見つける。ワクワクと興奮の毎日。これが仕事なのだから最高である。アメリカやドイツの大御所先生方に、僕が今春から台湾へ異動し、ハワイ大のプロジェクト(Pan-STARRS)に参加していることを報告。皆、僕の栄転を祝福し、皆が注目するプロジェクトでの活躍を期待してくれた。欧州に住んでいた頃から付き合いのある、チェコ、イタリア、フランスの懐かしい面々とも再会できた。自分の発表も無難にまとめた。今回はポスター発表だったので、2分間の口頭発表はあったものの、かなり気が楽であった。印刷したポスターが飛行機で輸送中に紛失し、イサカの街で$100支払って再度印刷し直すハプニングはあったけど。研究の話は、また別の機会にでも紹介したい。今回の学会は、日本人の参加が極端に少なく、ポスドク(博士号取得者)以上の研究者は6名。日本人は、どうも群れる習性があり、国際学会で日本人が大挙して群れている光景はおぞましい。まあ、海外生活が長くなると、国際学会でしか日本人に会えなくなるので、おぞましい集団に加わってしまいがちなのだが、今回は逆に、海外で奮闘する侍・日本人研究者らと意気投合して、イサカの街で飲んだりできて楽しかった。とにかく、国際学会に参加することで、世界の知の最前線を知ることができるだけでなく、論文でしか知らなかった人物と直接知り合え、更に共同研究やプロジェクト参加に発展することもしばしばである。また、国際会議で顔を売っておくと、将来の自分の就職先や短期滞在先まで見つかる可能性も大いにあり得る(僕の場合もNASAのミッション参加や、海外短期滞在などの機会は国際学会でゲットした)。今回の学会は、悔しいことに、全てのセッションでインターネット中継が行われ、世界中誰でも学会発表を見られるサービスが提供された。しかし、高い参加費と旅費・滞在費を支払ってでも、現地に直接行く価値は非常に高いのである。とにかく、エキサイティングな学会に参加することによって、自分の研究へのモチベーションが一層高まるのは間違いない。(天文)学者がエネルギーを充填する場所が、学会な訳である。

DPS 学会の講演会場。3つのセッションがパラレルで行われている。

ポスター発表風景 ポスター発表の様子。小惑星を模擬したフルーツを片手に熱弁を振るうハワイ大同僚のペドロ。

学会のもう一つのお楽しみは、晩餐会(バンケット)やツアーである。今回の晩餐会は、イサカ郊外の博物館で行われ、恐竜や化石に囲まれながら、立食パーティーとダンスコンサートという趣向を凝らした内容で楽しめた。こういう時に、社交ダンスやピアノができると非常に格好良いのだが、泥酔しないと踊れない僕は、指をくわえて見ているだけだった。最終日のツアーの方はキャンセルした。というのも、旧知のよしみである、学会実行委員会(LOC)のメンバーの女性が、僕と学生をピクニックに連れて行ってくれたからだ。ニューヨーク州イサカは、山や渓谷などの素晴らしい自然に囲まれた長閑な田舎町だ。ニューヨークの雑踏から逃れて、ここに住み着いたという大学生協のおばちゃんが、滔々とイサカの良さを語ってくれた。

博物館晩餐会 博物館での学会の晩餐会とダンスコンサートが行われた。

イサカ郊外イサカ郊外をピクニック。イサカは渓谷に恵まれた坂の多い街だった。

さて、マンハッタンの摩天楼が間近に迫ってきた。ニューヨークの街を存分に楽しむとするかな。僕の旅はまだまだ続く。。。

2008/10/22 05:43 | 天文・宇宙, | No Comments