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我々の国際プロジェクトが朝日新聞に掲載されました。
危険な天体探して監視/地球衝突回避へ国際プロジェクト https://aspara.asahi.com/blog/science/date/20101029
記事を執筆した朝日新聞・科学記者の東山正宜さんは、名古屋大学大学院時代(素粒子宇宙物理学専攻・太陽風研究室)の同じ研究室の後輩。昔から写真が好きで、今では奇抜な方法で都会の天体写真撮影に挑んでいる。2010年6月に、はやぶさ地球帰還を迎えるウーメラのビジターセンターで偶然再会してお互いに「あっ」と声を上げた!小生は、彼が科学記者になっていることを知らなかったし、彼も小生がハヤブサチームで探査を行ってきたことも知らなかった。
朝日新聞の一面を飾った東山くんの「はやぶさ地球帰還」の写真は、流石だなぁと関心した。後日、この写真の六つ切りを国立天文台の渡部潤一氏経由で頂き、台湾の自室に飾っている。
名大の宇宙物理で修士号をとっているだけあって、宇宙科学全般に精通しているだけでなく、感心する程しっかりと下調べしてから取材をしてくれるので、こちらとしても非常に楽で、ついつい余計な裏話まで話してしまう^^;
人の繫がりとは不思議なもの。これからも一期一会を大切にしていきたい。
朝日新聞2010/06/14朝刊
ご無沙汰しております。3ヶ月間更新が無かったので、既に登録抹消されたかなと思いながら久々にJunkStageの皆様の記事を*海外*成田で拝見しています。今、ハワイから台湾へ帰る途中の成田国際空港ですが、日本へは入国していません。さて、トランジットの時間を使い、インターネット無料コーナーから近況報告を記したいと思います。
7月19-24日;豪雨の上海皆既日蝕
五島光学研究所、プラネタリウム職員らで構成されるインターネット・ライブ中継チームに参加させて頂いた。アマチュア天文の世界では、流星嵐、巨大彗星、オーロラ、皆既日蝕を天文四大現象と呼び、すべてを達成することがある種の目標になっている。小生は、しし座流星嵐、百武彗星、ヘールボップ彗星、チェコでの見事なカーテン・オーロラ観測を達成しており、皆既日蝕を観ることが、最後のアイテムであった。しかし、上海郊外の上海交通大學にて観測を行うも、皆既直前に太陽が隠れ、なんと雷鳴轟く豪雨に見舞われながら闇夜を迎えるという、貴重な体験をした。四大天文現象達成は、次回、イースター島?、オーストラリア?に持ち越された。日蝕後、上海で大学時代の天文サークル仲間等と久々の再会を果たした。
8月26-9月3日;ボストン滞在、天下のハーバード大学にて初の講演
10年振り2回目のボストン滞在。今回は、ハーバード大学で開催されたPanSTARRS(パンスターズ)プロジェクトのサイエンス・コンソーシアム会議。いよいよ、この初冬からの本格的な全宇宙サーベイ開始を前に、各分野のサイエンス・クライアントやデータ処理系、そしてサイエンス・テーマの発表と討論が1週間行われた。台湾・國立中央大學が貢献している太陽系のソフトウェアーの部分についての講演を無事に終え、ロブスターとビールを存分に楽しんだ。
9月4日; JunkStage第二回舞台公演に参加
これまで「講演」は山ほど行って来たが、初めて「公演」なるものに参加させていただいた。しかし、いくら歌って弾ける天文学者といっても、舞台で人様にお見せできるようなものではない。今回は、舞台の外の展示コーナーで、天文学者・阿部新助のプロフィール映像を上映するというパフォーマンスを行った。ボストンからの帰路、ニューヨーク・JFK国際空港でのトランジットと機上で作成したムービーだが、我ながらなかなかの(自己陶酔的な)出来栄え。この映像の短縮版を小生のホームページから見れるようにしたので、どうぞご覧ください。
http://nemesis.astro.ncu.edu.tw/~avell/
公演会の打ち上げで使われたイタリアンの店にまた行ってみたいのですが、店の名前を失念してしました。スタッフの方、どうかお知らせください。→ 無事に行って来ました。
10月11-11月17日; ハワイ(オアフ島)
ハワイ大学にて仕事をしてきた。あまり詳しくは書けないが、今回は、我々がハワイで使っている移動天体(小惑星や彗星)の位置推算-軌道決定システムの中で使っていて、アメリカの法律で輸出が禁止されているNASA-JPLの天体軌道計算モジュールを、フリーな別の軌道計算プログラムに置き換える作業を重点的に行った。軌道決定精度はJPLのものと同じなので、今後はJPLに頼らずに惑星の重力摂動を考慮した太陽系天体の軌道決定を(台湾で)計算できるようにする予定である。また、地球接近小惑星(NEO)の研究議論に基づくシミュレーションと論文執筆も行った有意義な滞在であった。その他の収穫としては、毎週末はサーフィン三昧であったので、まだまだ下手ながら、波乗りができるようになった。これで、インターネットがなくてもサーフィンが楽しめる。グリーン・フラッシュ(写真)も2回拝めた。ハナウマベイの野生の亀(寅次郎と命名)にも1年振りに再会できた。元気に餌(珊瑚?)を食べていた。
11月20-23日; 一時帰国予定。
目的は、以下の研究会の招待講師として、東大で「講演」を行う。参加は誰でも自由(アマチュア天文家の方々も参加可能)、参加費無料。
では、台北への搭乗時間ですので、これにて失礼。今宵は、しし座流星群の極大です!
第6回 始源天体研究会 の御案内
小惑星/彗星/流星といった始源的な小天体は、太陽系の初期状態とその後の進化を研究する上で非常に重要です。しかしながら、その研究手法は地上からの望遠鏡による観測,隕石や惑星間塵の分析,惑星形成/破壊過程の数値計算,実験室での衝突破壊実験と多岐に渡り、分野間の連携は必ずしも十分とは言えませんでした。また近年では、探査機が小天体に赴き,その場観測やサンプル採取を行うようになっており、今後も Rosetta, Dawn, Stardust NeXT、はやぶさ2 といった小天体探査が続々と行われます。そこで、日本惑星科学会小天体探査研究会では、従来の研究分野間の垣根を取払い、今後の小天体探査をいかにすすめるべきかを議論するための場として、以下のとおり 始源天体研究会を開催いたします。みなさま、振るってご参加くださいますようお願い申し上げます。
日時:2009年11月20日 10時〜18時
場所:東京大学総合研究博物館
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/information/map.html
主催:日本惑星科学会 小天体探査研究会
後援:日本鉱物科学会, 日本地球化学会, 日本スペースガード協会プログラム (時間が表示してない講演は30分)
セッション1 10:00〜12:00
木下大輔(台湾中央大)「ふたご座流星群母天体 Phaethon と 2005 UD の関連と表面の非一様性」
前田誠(神戸大学) 「Aqueous alteration in CM chondrites: Implications for early processes and environments of the CM parent bodies」
北里宏平(会津大) 「小天体探査候補天体の可視近赤外分光特性」
薮田ひかる(阪大) 「初期太陽系における有機物の化学進化:隕石研究かStardust ミッションまで」セッション2 13:30〜15:15
藤原英明(東大) 「中間赤外線で探る太陽系外黄道光」
山本聡(環境研) 「衝突による始源天体の内部構造探査」
阿部新助(台湾中央大)「Pan-STARRSで探る近地球型小惑星の進化」
吉川真(JAXA) 「はやぶさ2の現状」(15分)セッション3 15:30〜16:45
平田成(会津大) 「小惑星の地形学」
丸山智志(東大) 「イトカワ上の岩塊の分布から推定する内部構造」」15分
竹内洋人(東大) 「イトカワの岩塊表面に分布する高輝度スポット:形成過程と年代の推定」15分
中村良介(産総研) 「YORP効果が小惑星およびダストの自転・軌道進化に与える影響」 15分全体討論 17:00〜18:00
先週より再びハワイに来ております。ハワイ・マウイ島に建設されたPan-STARRS(パンスターズ)望遠鏡が、3月中旬より試験稼働しているからです(ニュートン4月号参照)。
我々は、MOPS(Moving Object Processing System)を使い、太陽系移動天体の同定と軌道決定を行っており、特に小生らは、MOPSが見つけた天体の中から「特異」な天体の警報を出す「MOPS Alert System」の仕事も行っています。
ハワイの望遠鏡で取得されたデータは、IPP(Image Processing Pipeline)を通してMOPSへ送られ、MOPSで処理されたデータベースは、太平洋を渡り、台湾・國立中央大學の MOPS Alert Server へ伝送され、日々発見される数百数千の新たな小天体の中から特異な天体の情報のみが、クライアント(個人のPCや電子メール)へ送られる仕組みです。謎の第9惑星Planet-Xや、太陽系の外から飛び込んで来た放物線軌道天体なども、この網に引っ掛かるようにセットしてあります。
そして今朝、小生の3G携帯に「特異天体アラート・メール」が届き、目が覚めました。
MOID < 0.005 AU というメッセージだった。
MOID とは、The Minimum Orbital Intersection Distance (最接近可能距離) のことで、地球の場合、衝突危険の可能性を評価する指標に使われます。MOID値が0.05 AU (75万km; 月までの距離の約2倍)以下 だと、地球に衝突する可能性が比較的高い天体と判定され、これらの天体のうち、直径が150m以上(絶対等級H<22等, 反射率を0.13と仮定した時の直径)の小惑星は「地球破壊危険性天体 (PHA=Potentially Hazardous Asteroid)」と定義されます。PHAは、今日現在までに1049個見つかっており、特に注意深く監視されています。
我々の MOPS Alert System は、PHAよりも地球に衝突する危険性が極めて高い(MOID<0.005=75,000km~静止軌道衛星の倍程度の)天体のみをピックアップして知らせてくれるように設計されています。
さて、またかと思いながら、眠気まなこでデータを見て目を疑いました。
MOID = 0.00001 AU = 1,500 km
地球半径の6400kmも小さい、つまり、地球に確実に衝突する天体 (RHO = Reliable Hazardous Object)を意味していたのです。これは、昨年2008年10月7日に地球に衝突し、先ほど隕石として発見された小惑星2008TC3 ( 資料1, 資料2 )に次ぐ RHO の発見です。すぐに、JPL-NASA、MPC(Minor Planet Center)に連絡を入れ、さらに、6時間の時差がある台湾・鹿林天文台に連絡し(ハワイが朝を迎えるとき、台湾は夜を迎える)、フォローアップ観測を実施しました。そして、衝撃の事実が明らかになったのです。小惑星2008TC3は、直径が2〜5m (絶対等級 30.9等)とミニ小惑星でしたが、今回発見された地球衝突天体の絶対等級は14.09等と非常に明るい、つまり反射率を 0.25-0.05と仮定して直径を推定すると、なんと4〜9kmにもなることが分かったのです。これは、地球全体に核の冬をもたらし、生命を根絶するに十分な大きさのインパクター(衝突天体)です。
更に、フォローアップ観測データを用い、その軌道を吟味したところ、日本(ISAS/JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」が2005年に探査した小惑星イトカワと類似していることが分かりました。平均直径300m程の小惑星イトカワは、今回発見された小惑星の分裂天体であることが推測されます。実際に小惑星イトカワも地球の軌道に接近する近地球型天体(NEO)であり、地球への衝突確率が100万年に1回程度であること、イトカワ起源の隕石火球が存在することも分かっていました。
現在、NASA-JPLのチームと共に解析を急ぎ、地球に衝突する正確な日時と場所の特定を行っています。現時点で言えるのは、衝突するまでには、約20年の猶予があるということ。それまでに何らかの対策を行う時間があるということです。もちろん、その対策は、我々天文学者の仕事の範疇を越えています。国家レベル、そして、地球レベルでの対策が必要になります。地球を守る目的のため、世界が一致団結する「世界天文年2009」に相応しい取り組みになることが期待されます。
また、来年2010年6月には、小惑星イトカワのサンプルを捕獲した(と期待される)探査機「はやぶさ」が地球(オーストラリアの砂漠)に帰還します。分裂天体のサンプルから、親玉を倒す何らかの情報が得られることも期待されます。
さてこの小惑星は、「アベマゲドン(Abemageddon )」と命名されました。アベマゲドンは、善と悪の最終決戦が行われた場所。神とイエスが降臨し、キリスト教の教えに忠実に生きてきた善人のみを救い出し、千年王国をつくりだす、いわゆる最後の審判の場所であり、ヘブライ語で「アベルの丘」を意味します。
アベマゲドンに関する更に詳しい情報は、数日中にNASA-JPLを通じて発表があると思います。
以上、1日遅れているハワイより送る 2009年4月1日 のニュースでした。
※ かなり現実味を帯びた(近い将来起こりうる)エイプリルフールですのでご安心ください。
3/22-5/1 ; ハワイ(オアフ島)滞在中。
追伸、
ハワイ大学天文研究所(IfA)の一般公開が、4月5日(日) 11:00-16:00 に行われます。
お気軽にご参加ください。ここには書けない本当の話が聞けますよ!
詳しくは、こちらをどうぞ。
お盆過ぎにハワイに来たので、ちょうど3ヶ月が過ぎた。その間、台湾とニューヨークをそれぞれ1往復したが、あっという間にハワイを去る日がやってきた感じである。前回は、今年の5月末から1ヶ月間、ハワイ大学の更に高台に位置するマノアに滞在した。今回は、憧れの地「ワイキキ」のビーチに近いホテル21階のコンドミニアムを借りて滞在。ハワイは世界で一番家賃が高いそうだが、特に半年以内の短期滞在者には、州税(4.712%)の他に7.25%の税金が課せられるので、合計12%の家賃に対する税金を支払う義務がある。ちなみに僕の場合、毎月$1800(約18万円)の家賃を3ヶ月間支払った。滞在費を浮かすため、ワイキキからハワイ大学天文研究所への往復12kmの道のりを、$100で購入した自転車で汗だくになって通い続けた(自転車は、ハワイを去る朝に$50で売却)。最初は30分近く掛かっていた標高差100mの往路も、18分にまで短縮。スコールに打たれることも時々あったが、マノアの山々を眺めながらオフィスへ向うのは気持ち良い。
とにかく、ワイキキやアラモアナ・ショッピング・センター界隈のマジョリティーは、日本人である。ショッピングや観光、シュノーケリングやダイビングなどのビーチ・アクティビティーやゴルフなどで存分に楽しめるハワイは、短期旅行者にとっては「常夏のパラダイス」というのも頷ける。僕も最初の2ヶ月くらいは、毎週末オアフ島の何処かしらのビーチへ繰り出していたが、そのうちに飽きてきてしまい、最後の1ヶ月の週末は「ウクレレ」に没頭していた。ハワイ産のコナの木で作られたセニーザ(Seniza)のスタンダード・ウクレレを購入し、10回ほど無料レッスンにも通い、毎日練習を重ねて、ウクレレ・ソロを人前で演奏できるまでに上達した。更に精進して、講演で弾ける「ウクレレ・天文学者」を目指してみたい。
毎日、常夏の青空が続いていたハワイだが、湿度が低く常に心地よい風があるので、一度も冷房は使わなかった。ところが、9月下旬ころから徐々に気温は下がり、湿度は上がり、天気も曇りがちになって、降雨の回数も増えた。ハワイ島のキラウエア火山からの火山灰で空が霞む、foggy(霧)ならぬvoggy(火山性霧; volcanic foggy)の日は、山々が青く霞んでた。紅葉のような劇的な季節変化こそないが、僅かな季節の移り変わりを肌で感じた。滞在中、本場のハロウィーン(Halloween)も初めて体験することができた。全く準備をしていなかったので、寝巻き代わりにしている龍の絵柄の作務衣を着て、ハワイで入手した日本刀(Made in China)を腰に据えた即席の侍となり、ワイキキのハロウィーン・パレードに参加した。小中高と剣道をやっていたのだが、剣を握ったのは実に久々である。侍仮装は、観光客らに何度も声を掛けられ写真を撮られたので、なかなか好評であったと思う。
さて、前回滞在の最後の週末に、オアフ島西部のナナクリ・ビーチで、ブギーボードごと大波に飲まれた。海底に叩き付けられて腹部を強打し、ほとんど気を失いそうになった。海底で波に揉まれている間、意識を失わないように、必死に心の中で数を数えた。カウント20くらいで、次の波に飲まれる前に幸運にも近くにいた地元の巨漢に救助された。肋骨2本にヒビ、更に膝も痛めた。耳の奥には、1ヶ月間も大量の砂粒が詰まっていた。肋骨が痛くて帰りの飛行機にも乗れずに、ハワイに1週間延長滞在してから台湾へ戻ったのだった。しかし、肋骨よりも重傷だったのは、膝の怪我だった。台湾の接骨院で、中国式吸玉治療法を10回以上も施された。そして、5ヶ月経って、ようやく走れるまでに膝が回復した。ナナクリ(Nanakuli)とは、ハワイ語で「膝を見ろ」という意味を後で知った。
そんな前回の大怪我もあり、トラウマになりかけていた「波」だが、職場の同僚サーファーらの助け(誘い)もあり、サーフィンに初挑戦した。サーフィンの神様、ワイキキのデューク・ハナモク像の前で彼らと待ち合わせ。サーフボードを片手に颯爽とワイキキの浜辺を歩いているだけで、既に一端のサーファー気分だった。常に理論から入る僕の場合、インターネットでのサーフィンに関する知識の事前学習に余念はない。「ネットサーフィン」の甲斐もあり、初サーフィンで見事に波乗りに成功したのである。
ところで、天文学者にとって月は色々な意味で重要だ。月があると、その周辺(拳骨4個分ほど)の夜空は明るくなり、他の天体の観測に適さないし、逆に僕などは月そのものを観測対象にすることもある。一方、サーファーにとっても月は大切。月や太陽による潮汐力によって地球が変形し、特に流体である海は甚だしくその潮位を変化させ、波のコンディションは、周期29.5日の月齢によって大きく変わるからである。潮汐力は、天体の質量に比例し、天体からの距離の3乗に反比例する。月の重さは太陽の約3千万分の一だが、地球からの距離は太陽の400分の一なので、[3千万÷(400x400x400)=0.5] 太陽の潮汐力(太陽潮)は、月の潮汐力(太陰潮)のおよそ半分である。月と地球と太陽が直線方向に並ぶ新月と満月の時に両天体の潮汐力が重なるため、干満が一番大きい大潮となるのである。
先週末は、ハワイを去る前の最後の満月。夜11時、僕はワイキキ・ビーチの沖合300メートルの海上を、サーフボードに乗って漂っていた。満月直前の月が頭上高くに煌煌と照り、水面はキラキラと月の雫を不規則に反射する。ダイアモンド・ヘッドのシルエットが影絵のように聳え立ち、海底の珊瑚礁はスポットライトを浴びたミュージカルの舞台のようにエメラルド色に浮かび上がる。白波が時折通過する神秘的なアクアリウムの中に自分の体がとけ込んでいた。そんな神秘を作り出す38万キロメートル彼方の月では、今まさに探査機による科学合戦が行われている。日本の『かぐや(http://www.kaguya.jaxa.jp/)』、中国の『嫦娥(http://moon.jaxa.jp/ja/history/Chang_e/index.html)』、そして先週月に到着したばかりのインドの『チャンドラヤーン(http://moon.jaxa.jp/ja/topics/chandrayaan/)』らが、月の上空100〜200kmを飛来中だ。45億年前に形成された月の謎が、ようやく今、解き明かされつつある。そんなことを考えながら波に乗り、ハワイの月光浴を楽しんだ。
さて、ハワイを発って7時間近く経ち、日本列島が近づいて来た。日本での束の間の急速の後、明後日には台湾へ戻る。次回のハワイ滞在は、3-4月の2ヶ月間の予定。僕の旅は、まだまだ続く。。
追伸、この記事を機内で執筆し、そのままパソコン(Mac Book Pro)を飛行機の中に置き忘れてきてしまった。幸い、JALの迅速かつ親切な対応により、パソコンが無傷で戻ってきたのでここに記事をアップする。
こんにちは! Dobry den! 你好! Aloha!
このたび「Junk Stage」須藤優代表のお目に留り綴らせて頂くことになりました、宇宙人・Earthkindの阿部新助(あべ しんすけ)と申します。
さて、いま僕は、直径が1万2千800km、円周約4万kmの地球(テラ)という惑星にいる。この地球は、直径140万kmの太陽という恒星から1億5千万km離れたところを、時速10万kmで回っていて、1年(365.25日)で太陽の回りを一周している。同じように太陽を回る8つの惑星(水金地火木土天海)で構成される太陽系は、直径が10万光年(光の速さで10万年)の銀河系の中心から約3万光年のところを、時速80万kmで回っていて、約2億年で一周している。宇宙は137億歳、銀河系は136億歳、そして太陽や地球は46億年前に誕生した。およそ400万年の歴史しか持たないホモサピエンスは、時間的にも空間的にも、宇宙には全くかなわない、本当にちっぽけな存在である。宇宙の誕生から今日までを1年間のカレンダーにすると、ホモサピエンスが誕生したのは、ちょうど紅白歌合戦が始まった、大晦日も終盤の頃なのである。
そんなちっぽけな宇宙の赤子であるホモサピエンスの中に、自分たちを遥かに超越した宇宙の生い立ちを探ろうとする人種がいる。そんな探求の世界で職を得て暮らしている人種を「天文学者(astronomer)」と呼ぶ。昔は、人々の生活を支える暦を作ることや、星占いも天文学者の仕事だったが、暦を作る公の機関はもはや存在しないし(日本の国立天文台は、サービスで暦を提供している)、そもそも星占いは疑似科学であって、現代の天文学とは切り離されている(個人的には、ネットや雑誌で見かける星占いがついつい気になって、一喜一憂しているけれど)。
さて、僕は天文学者(astronomer)である。どうして、どうやって天文学者になったのかという話は、またの機会に紹介するとして、僕はどうにか天文学で博士号(Doctor)を取り、宇宙を舞台にした仕事で飯を食っている。日本の宇宙機関(ISAS/JAXA)、チェコの天文台、神戸大学・地球惑星科学専攻などで期限付きの常勤・非常勤職を2年毎に転々とし(その間、NASA/SETIのミッションなどにも参加しながら)、2008年春に台湾・國立中央大學・天文学研究所の教員として赴任した。教員といっても、現地語(台湾は繁体中国語と台湾語が共通語)はまだ話せないので、大学院生に英語での指導は行うが、当分は授業を持たない研究・教授職(Assistant Research Professor)である。
[1999-2002 NASA国際航空機しし座流星群観測ミッション発射@エドワーズ空軍基地にて]
人口1000人のチェコ・プラハ郊外で過ごした2年間の後(この村ではチェコ語しか通じなかった)、150万都市の神戸・六甲山麓で2年間暮らした。余りにも便利でモノに溢れる日本。日々の生活に溢れる無駄を痛切に感じた。日本帰国中は、JAXA宇宙科学研究本部(ISAS)主導の小惑星探査機「はやぶさ」の臨場感溢れる特等席に座る幸運に恵まれ、地球から3億km彼方に浮かぶ「小惑星イトカワ」を通じて、数々の貴重な成果と経験を得る事ができた。
[世界初の小惑星サンプルリターンミッション・HAYABUSA, ISAS/JAXA]
「二番煎じではなく、いつも最前線でパイオニアとして宇宙と向き合いたい」という思念と共に、2008年春、僕は再び日本を飛び出していた。台北から40km、鉄道とバスで1時間余りの桃園縣中歴市に國立中央大學はある。中国語はまだ少ししか分からないが、親日台湾の田舎町で、日々激安で美味い飯を食って元気に頑張(戦)っている。スノッブな神戸も良かったが、整然とした都会より、生活感溢れる田舎町の方が生きている感じがして楽しい。生活の刺激以上に、ここはサイエンスの刺激にも溢れている。5年500億元(1700億円)プログラムに採択されている國立中央大學で、天文・物理分野は中核を担っており、海外からの研究者も頻繁に訪れる。
「こんにちは! Dobry den! 你好! Aloha!」、これらは、僕がこれまで住んできた(住んでいる)場所での一般的な挨拶である。日本語、チェコ語、中国語、ハワイ語。Aloha!?、そう僕は今、ハワイ・ワイキキの常夏の青空の下でこの文章をしたためている。ハワイ大学・天文研究所(IfA; Institute for Astronomy, University of Hawaii)は、ハワイ島マウナケア山頂(標高4200m)やマウイ島ハレアカラ山頂(標高3300m)に世界最大の望遠鏡群を有し、様々な宇宙プロジェクトが進行し、世界の頭脳が集う天文学のメッカとして知られる。そして今、世界中の天文学者が注目しているのが、「Pan-STARRS(パンスターズ)」という全宇宙サーベイ・プロジェクトである。このプロジェクトは、国際共同プロジェクトであり、台湾・國立中央大學は、米・英・独・台の4ヶ国からなるコンソーシア(consortium)メンバーに参画している。残念ながら日本はこのプロジェクトに参加していない。僕が台湾を選んだ大きな理由の一つでもある。台湾へ来てまだ半年だが、既にその1/3をハワイで過ごしている。そして、時々古巣のチェコ&欧州を訪れて、天文学と音楽や芸術を楽しんだりしている。
さて、改まって簡単に自己紹介をしましたが、今後は、世界の空を追い続け旅する天文学者の、宇宙と地球を行き来する日常(読者にとっては非日常?)を紹介する予定です。宇宙の話やマニアな話も出てきますが、回顧録を含め、多方面の四方山話が飛び出すと思います。
ほな、よろしく! Mahalo!