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宇宙の96%は,ダークエネルギー(74%)とダークマーター(22%)で満たされており,我々が観測可能なバリオンでできた世界は,宇宙の4%に過ぎない。更にその4%の宇宙のうち99%はプラズマ状態にあり,人間は,1%のプラズマでない中性の世界で生きている。地球自身も,地磁気は360万年で11回も逆転しており,最後の地磁気逆転は約77万年前。地磁気逆転の時代には,大量の高エネルギー宇宙線が侵入して,大気が電離して気象変動を誘発し,地上の生命体も被爆を免れない。
つまり,我々は,宇宙の中では,4%x1%=0.04% という,極端に稀な世界に生まれ,宇宙が誕生して今ままでを1年のカレンダーとすると,12月31日の除夜の鐘が鳴り始めた頃にホモ・サピエンスになったばかりの,束の間のパラダイスを謳歌している赤子の知的生命体と言える。
そして,宇宙では米粒のような存在のkmサイズの小天体が,たった1発衝突しただけで,日々の生活や未来までもが一瞬にして失われてしまう。そう,人類というのは,激動の宇宙の極々僅かな平穏期に,たまたま地球上で知性を持った生命体というだけであって(ある意味で神様から与えられたチャンス),今、叡智を集結して宇宙で生き延びる努力をしないと,必ず滅びる運命にある非常に危うい存在なのである。
そんな危うい地球には天文学者という集団がいて,その天文学者集団の中でも特にマイナーな地球衝突天体を専門とする知的集団がいる。そんな,地球衝突天体を真剣に考える研究者らが2年に一度集結する,今年で5回目となる国際会議「Planetary Defence Conference (PDC; 地球防衛会議)」が,世界中から200名を超える研究者が東京お台場の日本科学未来館に集い,2017年5月15日〜19日に開催された(NASAやESAからも20名以上が参加)。
集合写真
小惑星の物理観測,衝突予測(衝撃破,クレータ形成,イジェクタ噴出物,そして津波被害),一般市民への警報・避難など,通常の分野の限定された国際会議では交流し得ない研究者が一同に会したPDC国際会議は,まさに刺激的で衝撃的な1週間だった。
また,PDCでは,通常の国際会議では行われないような「Exercise(訓練)セッション」が連日夕方から実施された。直径約300mの仮想小惑星「2017 PDC」が2027年7月21日に中国-朝鮮半島-日本に衝突するシナリオに基づき,(1) 小惑星物理観測,(2) ミッション立案,(3) 衝突回避・破壊,(4) 衝突影響評価,(5) 一般広報,(6) 災害対策,(7) 情報集約と最終的な行動決定の7つのグループに分かれ,(1)〜(6)班のメンバーが議論を行い,(7)班が各班代表の発表に対する質疑応答を公聴会形式で行いながら,意見の集約と指針をまとめた。
阿部研究室の院生7名も運営委員(LOC)として参加し,現場で奮闘してくれた(3名はポスター発表も行った),学生らにとっても膨大な知見の蒐集と国際コミュニケーション能力を鍛えることができた,濃密な1週間だったと思う。
直径270m(密度1.9g/cm^2, 直径100mの衛星も存在することが地上とスペースからの観測により判明)のアポロ型小惑星2017PDCが2027年7月21日に地球衝突する想定で様々な検討が行われた。
東京お台場がグランド零になった場合,直径3.8kmのクレータが形成され,直径42km圏内はトラス橋が崩壊する爆風,直径98km圏内の木造建築は爆風で倒壊, 112km圏内の窓ガラスは吹き飛ぶ,3700万人が被災する。今から10年で,これだけの人間を退避させなくてはならない。被害想定ができているので,直接の死者数0が我々の設定目標。
太平洋に落下した場合,高さ29mの津波が到来する。洋上落下の場合は,海岸からの距離に関わらず,振幅約60mの波が減衰して,ほぼ同じ高さ(25-29m)の津波となる。(courtesy; P. Chodas[JPL/NASA], M. Boslough, B. Jennings[Sandia National Laboratories])
巷で話題になった新海誠監督の映画「君の名は。」。この映画は,空前絶後の世界の話だと思っている人は多いだろうが,実は,十分に起こりうる現実に即した話題であり,クレーターサイズなども物理的にリーズナブルなサイズで,統計的に見ても,いつ起きてもおかしくないありふれた小天体の地球衝突現象なのである(詳しくは;講演会・サイエンスカフェ等の講師引き受け可)。
地球衝突天体の研究(小惑星,彗星,流星,隕石,人工流星,スペースデブリ…)は,ある意味で人類の宇宙での存続を左右する結構重要な学問なんじゃないかと思う。。。。
「小天体の脅威を世に伝えることは,もう権利なんかじゃない 義務だと思うんだ。。」【君の名は。】RADWIMPS「スパークル」より
2015年2月20日深夜のニュース番組(FNN News JAPAN)で,現在我々が取り組んでいる研究・開発活動が取り上げられた。その前日に日経新聞に取り上げられた「人工流れ星、東京五輪の空に 開発に挑む女性起業家」を見たフジテレビのニュース番組ディレクターから当日の夕方に連絡があり,急遽対応することになった。
「人工流れ星」プロジェクトは,株式会社ALE(岡島礼奈・社長)の発案で研究開発が進められている事業で,首都大学東京システムデザイン学部 航空宇宙システム工学コース・佐原宏典先生, 帝京大学理工学部 航空宇宙工学科・渡部武夫先生と日本大学理工学部 航空宇宙工学科の3大学と,株式会社PDI,アクセルスペースなど複数の民間企業でチームを形成して取り組んでいる。
https://youtu.be/vHvyz3h-rRo
そもそも,人工的に流れ星を作るアイデアは古く1940年頃からある。世界初の人工流星実験は,1946年12月17日にFritz Zwicky博士によってドイツV2ロケットを使って実施されているが,ロケットが爆発して失敗に終わった。1957年10月16日(人類初の人工衛星スプートニク打ち上げの12日後)には,同じくV2ロケットを使って米国空軍がニューメキシコWhite Sandsで実験を行い,直径数cmの流星源(アルミニウム球)3発が埋め込まれた釣鐘型弾薬を高度87kmで爆発させ,流星源を秒速15km/sに加速させて人工流星を発生させることに成功している。爆発で生じたデブリの一部は,地球重力圏を超えて太陽の周りを回る軌道に入ったため,人類初の深宇宙人工物体になった。その後,1960年代にはNASAラングレー研究所が,サウンディング・ロケットとキックモーターを使った人工流星実験を何度も行っている。1-2cmほどの金属プロジェクタイルを弾道飛行と多段ステージで秒速11-12kmまで加速し地球大気圏に再突入させ,0等級(絶対等級:天頂距離100kmでの可視等級)ほどの流星を発生させている。日本国内では,20世紀末に日本大学理工学部航空宇宙工学科の石川芳男先生のグループが,宇宙から雪玉を大気圏再突入させる実験を提唱し,衛星の具体的な設計検討まで行っていたが実現には至らなかった。その他,衛星設計コンテストなどにも,似たようなアイデアが幾つか提出されている。また,2010年に地球帰還した小惑星サンプルリターン探査機 「はやぶさ」では,地球帰還カプセルのみならず,探査機本体も惑星間空間から直接地球大気圏に秒速12kmの超高速で再突入し,満月を超える明るさに輝く人工大火球となり,人工流星の様々な科学観測が南オーストラリアの砂漠地帯で実施された。
夜空に突然きらめく流れ星。これを人工的に作り出そうという試みが進められています。
いつでも流れ星が見られるという未来がやって来るのか、取材しました。夜空にすーっと伸びる一筋の光。
瞬く間に消えてしまうため、街中ではめったに見られない流れ星。
しかし、ちょっぴり寂しい東京の夜空にも今後、流れ星が見えるようになるかもしれない。
今、人工的に流れ星を作り出す試みが進められている。
日本大学理工学部の研究所。
実用化を目指し、開発しているのが「人工流星体」。
日本大学理工学部航空宇宙工学科の阿部新助准教授は「これが人工流星体ですね。こういったものを宇宙から地球に突入させて、流星発光させようと」と話した。
小さな玉がいくつも詰まったケース。
この1粒1粒が流れ星になるという。
その構想をCGで再現したものがある。
宇宙空間へ打ち上げられた人工衛星の中に搭載した粒を、地球へ向け射出。
粒が大気圏に突入すると、激しく発光し、地上から見ると、流れ星に見えるという仕組み。
素材は全て燃え尽きるため、地上へ落ちてくることはない。
阿部准教授は「(流れ星の大きさは、こんなに小さいものなのか?)実際の流れ星は、実はもっと小さいんですね。直径がもう本当1mmぐらい。超高速で地球大気に突入するために、非常に明るく輝きます」と話した。
本物の隕石(いんせき)の構造や、実際の発光の仕方を研究し、流れ星の素材作りに生かしていた。
阿部准教授は「小型衛星など、比較的安く簡単に宇宙に行ける手段がありますので」と話した。
1回の打ち上げ費用は10億円ほどで、2年後には、宇宙での実験を計画している。
この夢のような企画を発案したのは、ベンチャー企業・株式会社ALEを経営する岡島礼奈代表取締役。
5年後、東京オリンピックの式典での採用を目指しているという。
岡島代表取締役は「ものづくりって今、日本というのは元気がなくなってきているといわれているんですけれども。例えば、東京オリンピックとかで、日本の技術でこういうことができましたとアピールできたら、すごく元気になるなと思ってます」と語った。
いつでも夜空で流れ星が見られる未来が来るかもしれない。
さて,このニュースが流れてから,ネット上では様々な反応があった。反対意見の中には,なるほどニュース報道だけでは,そう考えるのも頷けた。ネガティブな意見の概要をまとめると,
- 流れ星は滅多に見られないからこそロマンがあるのに,人工的に流したら意味がないな。
- 流れ星は自然現象だから美しいのであって,いつ流れるか分からないから価値があるんだよ。
- 田舎で1時間も空を見上げれば,流れ星ぐらい何個も見えるのに,何で人工的に作る必要があるのか。
- 技術的にはすごいかもしれないけど,無意味でお金の無駄遣い。
- 塵をばら撒いて環境汚染になる。
- 軍事利用される可能性がある。
- 流星観測の邪魔になる。光害になるようなショーは行って欲しくない(天文家より)。
我々が計画している人工流れ星は,地球の重力圏を振り切ることなく低軌道から減速させて再突入するので,地球の重力圏外から飛来する秒速数十kmの天然の流星よりもずっと遅い7.8km/s,人工衛星が落下してくるような超低速流星となる。継続時間も数秒以上続く「特異な流れ星」になる(流星の平均的な発光継続時間は0.5秒)。従って,一目で天然の流星との区別がつくし,願い事を3回唱えるのも簡単だろう。
そもそも地球には,毎日約100−300トンの地球外物質が降り注いでいる。その殆どは,太陽系内の彗星や小惑星からやってくるメテオロイドだ。一般にメテオロイドは,直径がμm〜mサイズの塵(ダスト)で,直径約1 mを越えると小惑星と呼んでいるが,学術的に明確な境界は定義されていない(現在,国際天文学連合において「塵-メテオロイド-小惑星・彗星」のサイズ境界の新たな定義案を提出中)。メテオロイドが超高速(秒速12-72km)で地球大気圏突入する際の,空力加熱(空気の流れが堰き止められて圧縮することで,運動エネルギーが熱エネルギーに変換されて加熱される)によるアブレーション・プラズマ発光が,流星現象である。高温により物質が昇華して励起原子・分子や電子が生成される過程をアブレーションと呼ぶ。通常我々が目視できる流星は,大気突入速度や突入角などにもよるが,およそ直径が0.5〜数mmと見積もられている。地球に降り注ぐ宇宙物質の殆どは,肉眼では見えない非常に暗い流星(宇宙塵:IDP=Interplanetary Dust Particle)だ。頭の真上に掲げた拳1つの領域(上空100kmの約20km四方)に,1日で数千個の肉眼では見えない流れ星が,昼夜関係なく降り注いでいるのである。頻繁に発生する流星によって形成される電離柱を利用したVHF帯通信が「流星バースト通信」である。流星は発光(あるいは加熱だけ)しても完全にはアブレーション消失せずに,ミクロンサイズの粒子は,ジェット気流に流されながら何週間もかけて地上まで落下してくる。海底の泥や南極氷床など,静かな環境下に昔のままの姿で残される。
マイナーな流星群も含めると,1年間に100個近い流星群の活動が知られている。彗星や小惑星からのフラグメントが地球軌道と交差し,地球大気圏に衝突して輝く現象が流星である。地球と遭遇することで,母天体からやってきた塵を観察することができるのである。つまり,流星現象の観測は,地球大気を「天然の巨大な望遠鏡」と見立てた,地球に居ながらにしての間接探査ともいえる。流星や地上まで落下する隕石から,母天体である彗星や小惑星を探査できるのである。実際,流星の二点観測からは速度や軌道が分かり,速度と光度から大きさが見積もられ,大気減速からは質量が推定される。また,天然の流星発光をプリズムなどの分光器を通して見ると,組成やプラズマ励起温度などの物理化学素過程を調査することが可能だ。しかし,いつどこに出現するのか分からない天然の流星や火球を対象にしているため,これらの物理量が全て精度よく求まることは稀だ。近年,小型汎用カメラと自動観測ソフトウェアーを利用した,SonotaCoネットワークなどの夜間常時流星観測網が発達し,流星群の活動や軌道についての新たな知見が次々と得られている。しかし,広い視野を監視しているため,空間分解能が悪かったり,天候の影響を受けざるを得ない。そこで,組成・突入速度・突入角・形状・密度が全て既知の人工流星体を制御して大気再突入させてやれば,時刻,出現場所,天空の出現位置が予め分かっているため,周到に準備された高精度の科学観測が実施できる。つまり,人工流星は,様々な物理パラメータが不明の天然の流星を詳しく知るための「モノサシ」となるのである。また,太陽活動により変化する電離圏(中間圏・熱圏)の状態を,人工流星プラズマを光やレーダーなどを使って調査する新たな観測手段が確立される可能性もある。

しし座流星群流星スペクトル。観測値(上)と強度補正後(下)。長波長側のN,O,N2は超高層大気成分からの発光物質。短波長側のNa,Mg,Fe,Caなどは,メテオロイド由来の発光物質。人間の眼が感じる波長領域(380-700nm付近)で,これらの物質の発光色が混じり合った色として視認される。
昨今問題視されている「宇宙ゴミ」「スペースデブリ (Space Debris)」は,耐用年数を過ぎて廃棄された人工衛星,事故・故障で制御不能になった人工衛星,打ち上げに使われた多段ロケットの切り離しで生じた破片,さらにはデブリ同士の衝突で生まれた微細デブリなどの人工物である。1957年,人類が宇宙へ活動の場を広げて以降,4000回以上ロケットの打ち上げが行われ,今なお5000トン(1cm〜10cmで50万個,1cm以下のデブリは,数千万個以上あると推定)ものスペースデブリが地球を取り巻いている。これらのデブリは,同一軌道上を相対速度がライフル銃の数倍という速度を有しながら浮遊しており,例え数mmでも衛星や宇宙船を機能停止させてしまう。ある軌道では,既にデブリの数が増え過ぎており,デブリ同士の衝突によって加速度的にデブリが増え続けるケスラーシンドロームという現象に陥っている。ますます宇宙に活動の場を広げる人類にとって,スペースデブリの数を減らすデブリ除去技術開発の必要性が迫られている。最終的には,デブリの軌道を変更させ,地球大気圏に再突入させて流星アブレーションで人工流星にして,運動エネルギー(1/2mV^2)を光や熱エネルギーに変換させて消滅させる手段が,コスト面でも最も効率が良いとされている。2020年以降に地球大気圏に落下して廃棄させる予定の国際宇宙ステーションは,420トンのサッカー場が落下するに等しい。この巨大な宇宙建造物を安全に地球大気圏で消滅させる手段も,人工流星アブレーションが利用される。2001年3月にフィジー沖の南太平洋に制御落下された,ロシアのミール宇宙ステーションが良い例だ。「こうのとり」や「ATV」などの国際宇宙ステーション補給機も大気圏に再突入させて廃棄しているが,安全のため南太平洋上などで行われており,大気圏突入の流星発光を地上から精密観測することは困難である。JAXAは,こうのとり補給機に再突入データ収集装置(i-Ball)を搭載して流星発光を計測したり,NASA/SETI/ESAは,ATVの再突入を専用航空機から観測するミッションや未知のスペースデブリの地球再突入の様子の航空機観測を行っている。我々が計画している人工流星は,デブリ除去や,大気圏再突入実験にもフットワーク良く応用されることが期待される。

ミール宇宙ステーションの大気圏再突入(2001/03/23, Fiji)。

軌道が監視されている直径10cm以上のスペスデブリ。10cm以上の人工物は約22,000個(現在)が軌道上にあり,このうち95%がスペースデブリとなっている。
TVニュースで紹介されていた宇宙花火的な紹介(あるいは,宇宙葬など)は,エンターテイメント的な側面だけが強調された偏った報道である(ニュース性はあるが,研究者の視点では本質ではない)。もちろん,これらの活動は,宇宙科学アウトリーチやプロジェクトを進める上で重要な資金調達にはなるが,人工流星は上述の研究テーマやパンスペルミア説の検証実験などの科学目的利用,差し迫ったデブリ問題を解決する実験に必要な技術として活用されることを期待し,研究開発に取り組んでいきたい。
追記;
もう少し分かりやすく解説した私のALEインタビュー記事もご参照ください。
人工流れ星プロジェクトは,TBS 夢の扉+(2015年11月22日)にて紹介されました。
「世界初」と言っているのには補足が必要で,「人工衛星を使った人工流星実験は世界初」となります。1957年10月16日にV2ロケットを使って米国空軍がニューメキシコWhite Sandsで実験を行い,直径数cmのアルミニウム球3発が埋め込まれた釣鐘状弾薬を高度87kmで爆発させて,人工流星を発生させています。その後,1960年代にはNASAラングレー研究所が,サウンディング・ロケットとキックモーターを使った人工流星実験を何度も行っています。弾道飛行でない地球周回軌道上から軌道とタイミングを制御して人工流星を「複数回」発生させることはまだ誰もやっていない「世界初」となります。
北朝鮮がいよいよ「ミサイル」の予行実験を行う.ロケットかミサイルかは,ペイロードに積まれているものが「衛星」か「弾頭」かの違いだけであって,北朝鮮の場合は核弾道ミサイルの予行と言ってよい.
沖縄島・宮古島・石垣島にPAC-3が配備された.習志野駐屯地にもPAC-3が配備されているが,配備された2007年には一悶着あったようだ.
パトリオットを実際にライセンス製造しているのは,H-IIAロケットも作っている三菱重工業である.本当に命中率は8割もあるのかは疑問だ.湾岸戦争では,PAC-2の命中率は9%という実績からして,5割ぐらいじゃないかと推測.地対空誘導弾パトリオットを中国語では,「愛國者飛彈」と呼ぶ.「愛国者のミサイル」がどれだけ国を守れるかは,大いに疑問だ.
なぜなら,PAC3の射程は20~30kmしかないので,沖縄地方で使うことがある場合は,北朝鮮のミサイル或は空中分解した残骸がその場所目がけてに落下してきた場合でしかない.しかも,残骸はそのまま地上に落ちて来る.軌道がそれて台湾やフィリピンが危なくなった場合,弾道飛行中を狙って落とせるのはイージス艦搭載のSM-3だけでは? PAC3は,ピンポイントで狙われた時に大惨事を誘発する「原発」にこそ配置すべきじゃないかね?
ちなみに台灣はPAC-2弾を数百発とPAC-3ミサイルユニットを米国から購入している.これは,大陸が福建省から台灣に向けて短距離弾道ミサイル「東風-11」2000発を配備していることへの対抗処置.
北のミサイルの打ち上げ予定は,
予定日;2012年4月12日~16日
予定時刻;7:00-12:00(現地時刻)=6:00-11:00(日本時間)
観測屋としては念のため,台湾の流星観測ネットワークのメンバーの協力で,この時間帯もカメラを稼働させることにした.2010年10月1日に中国の月探査機「嫦娥二号」は,長征3号Cロケットで西昌衛星発射センタから打ち上げられたが,その予定軌道はもろに台湾上空を通過していた.台湾ではニュースにもなっていなかったのが,念のため流星カメラで狙っていたところ,東向きのカメラに第二ロケット(エンジン・ブースタ)が大気圏再突入している様子が動画で捉えられた.また,ロケット本体は写らなかったが,ロケットが成層圏~中間圏に残したと思われる拡散雲が全天カメラに写った.台灣・宜蘭縣では,この火球が多数の住民によって目撃されていた.
今回の北のミサイルの飛翔予定軌道から,1段目ロケット(エンジン・ブースタ)は黄海上に,2段目はフィリピン・ルソン島沖に落下する見込み.今回は昼間の打ち上げのため観測条件も悪いが,果たしてどうなるか.
彗星会議が,2012年6月2日(土)〜3日(日)に,別府温泉で有名な大分県日出町の別府湾ロイヤルホテルで開催されます.
第42回目となる由緒ある彗星会議の記念講演会に,台湾在住の私を呼んで頂き大変光栄であります.
彗星(コメット)を主題にした百人規模の会議で,誰でも参加が可能です.特に今回は,地元の中・高校生らの参加も見込まれているため,分かり易い講演を行うつもりです.
彗星会議には,蒼々たる顔ぶれのコメットハンターの方々や,プロの天文学者もお見えになるので,講演内容も最前線のものでなければなりませんね.日本のいわゆるコメットハンターは世界的にも有名で,70個以上の彗星を発見してきています.
4年前に台湾に来てから私が取り組んでいる「パン・スターズ(Pan-STARRS)」は,ハワイ大学天文研究所と台湾國立中央大学天文研究所,ドイツ,英国の4ヶ国がコンソーシアムとして出資・運用しているプロジェクトです(日本は入っていない).ハワイのマウイ島ハレアカラ観測所に設置した口径1.8m望遠鏡,世界最大のCCDカメラと,最新鋭のソフトウェアー群を駆使して全天をくまなくサーベイしています.コメットやアステロイド(小惑星)も根こそぎ発見してしまう*恐れ*がある為,コメットハンター達の「発見の夢」を奪ってしまう脅威として捉えられているようです.
現に2010年秋から始まった本格的なサーベイにより,1年半の間に250個のNEO(近地球小惑星)と15個の彗星を新たに発見し,約72万個の既知の小惑星も観測しており,小天体を発見する望遠鏡として世界のトップに躍り出ました.
この辺りの発見の話や研究成果,関連して私が取り組んで来た(いる)小惑星探査「はやぶさ」の話も織り交ぜながら紹介して行こうと思います.
元々私はアマチュア天文出身であり,大学生の頃には大学天文連盟に加盟し,彗星会議にも何度か参加していました.久々の雰囲気を,温泉と美味しいお酒(酔星)と共に楽しみたいと思います.
参加申し込みについては,「第42回彗星会議 in 大分 日出(ひじ)町」を参考にしてください.
過日、日本から2名の要人を招いてのミニ・ワークショップを國立中央大學にて開催した。お二方とも台湾は初めてとのことで、3泊という僅かな時間でいかに台湾を満喫して頂くか試行錯誤した。以下、その記録である。
到着日の日曜日は、台北を速攻案内。
- 中華民國總統府;車で窓を開けて周回しながら撮影。私服警官や警固兵に睨まれたが、狙撃はされなかった。
- 中正紀念公園;蒋介石記念館見学。憲兵交代式と国旗降納を偶然見る事ができた。両儀式ともに非常に複雑で美しくもあり感心した。
- 晩飯は、台北市大安區忠孝東路の度小月で台南小吃のコースを楽しんだ。台北には2店あるが、この店の方が美味いと思う。
- 龍山寺;長い線香を7本購入して、正式なお参りを実施した。 最後に正式な御御籤の方法を実施。小生は神様がお怒りになって引く事が許されなかったが、日本からの客人2名は無事に御御籤を引けた。御御籤を解釈する人がいて説明をうけるのだが、驚いたことに日本語で説明してくれた。お二方とも素晴らしい御御籤を引いた。
龍山寺夜市を散策し、珍珠奶茶(タピオカミルクティー)を楽しみ帰路に付いた。台北101は、遠目の夜景で見ただけで済ませた。帰路の高速入り口を誤り、淡水方面へ向ってしまい、30分ほどロス。台北の道路交通は複雑極まりない。
会議後の火曜日の午後は、珍道中とあいなった。小生が客人を案内すると、大抵何かハプニングが発生するのだが(一人旅でもそうだけど)、今回もハプニングが起こった。
台湾最大の陶器の街「鶯歌」へ向かった。鶯歌老街は観光客目当ての高級品が並んでいるので、結局我々は何も購入せずに散策しただけ。台湾小姐の提案で、場所は覚えていないが、近くにあるという友人のお茶屋さんに行く事になった。しかし、その友人に電話するも、泥酔していてろれつが回っていなくて何を言っているのか分からないらしい。小姐のあやふやな記憶で歩き回り、通りの店のおばさんに聞いたりしたが、結局路に迷いついには泥酔電話も繋がらなくなったので、タクシーを拾うことにした。檳榔(ビンラン=噛みタバコ)で口の回りを真っ赤にした運ちゃんのタクシーに乗車してしまった。タクシーで案内されたお目当ての店は、定休日で閉まっていた。どうりで泥酔している訳である。檳榔で歯が溶けてしまったタクシーの運ちゃんの怪しいろれつによると、運ちゃんの知り合いに有名な窯元がいるとのことで、そこに連れて行ってもらうことにした。ドキドキ。。。
観光客はまず来ないだろう細い路地から山へ登り、窯元のお宅に案内された。主人は留守だったが、お弟子さん(息子さん)と思われる美形男子が案内してくれた。なんとそこは、世界で一番薄い幻の陶器(厚さ2mm)を作り出す世界的に有名な先生の窯元だったのだ。上海万博に台湾から唯一出品された作品もずらりと並んでいた。
この厚さ2mmの陶器は、100個に3個しか成功しないそうだ。一番小さいものでも60万円。大きなものは、5つでポルシェが買える値段とのこと。勿論我々に買える代物ではないので、実用的な茶壺(急須)を吟味した。上海万博に台湾から唯一出品された陶器の茶壺が8000台湾元(~24000円)、筋状の模様が入った花柄のひんの良い白い茶壺が3000元台湾元(~9000円)で販売できるとのこと(筋を入れる技術は難しいらしい)。大きさも形も、書かれている中国の詩も一つ一つ違う、世界に一つの茶壺。我々3名は、通常は値切ることができないと言われたモノを値切り、失礼ながら3000元の白い茶壺を3個で8000元で購入した。この茶壺は、使えばつかうほど光沢が出てくるそうだ。
お茶を頂きたいという更に我が侭な我々の要望に、親切にも一軒の茶屋を紹介して電話予約して頂いた。待っていたタクシーの檳榔オヤジは、満足げに我々を茶屋へ案内してくれた。茶屋に到着すると、さっき我々が購入した茶器が売っているではないか!ボラレタあなと値段を見ると、何と6500元(~2万円)。8000元の茶壺は17000元(~5万円)、我々が購入した価格の2倍以上だった。どうやら我々は、元価を更に値引きして本物を買ってしまったらしい。満足満足。そして、お茶を入れてくれた美女は、茶壺に美しい詩を書いていた女性本人であった。彼女は、さっき我々が購入したものと同じ茶壺でお茶をいれてくれた。1年使ったというその茶壺の表面は、本当に光沢がでて輝いていた。台湾の高山茶各種を試飲して購入。
既に日は暮れてしまい、急いで完全予約制の山奥の隠れ家へ向うことにした。しかし、お茶騒動の一件でディナーに30分以上遅刻することになってしまい、先方に遅れる旨の電話を入れた。しかし、この遅刻が、次の素敵な出会いへと繋がるとは。。。
璞真山居は、台北縣三峽の山奥にひっそりと佇むまさに隠れ家。既に時間をオーバーしていたので、すぐ近くの大板根森林温泉には帰路に寄る事にした。璞真山居は、全てここで採れた野菜や魚などの有機栽培、天然素材を使った料理を出してくれる。連日連夜の中華料理で疲れた客人達の胃の調子を考えて、1年前の蛍のシーズンに来たこの店を思いついた。足下には墨の匂いが香ばしい火鉢を用意してくれた。台湾風・精進料理と表現すべきか。その味は、我々日本人にはホッとするようなお袋の味である。山芋や各種山菜キノコ、20年間塩漬けした大根「老菜脯」(台湾では有名な幻の珍味)や、山で採れた蜂蜜を酢で割った飲み物など、全てにこだわりをもった11品を堪能した。我々以外には、1組の客しかいなかった。さて、お茶を頂いて帰るというときに、突然僧侶達が店内にやってきた。その中の一人が我々が日本人だとしり、片言の日本語で話しかけて来た。どうも高野山関係の方々らしい。いっしょにお茶を楽しもうと店主の待つ茶室に誘われた。一人は、シンガポールから来た流暢な英語を話す修行僧で、重鎮らしきは身分の高い台湾の密宗僧侶だということを後で知った。店主が入れたお茶は、幻の「桂花茶」だった。そして、店主から六杯のお茶を以下の蘊蓄とともに頂いた。
とても50歳過ぎには見えない ご主人。
一碗喉吻潤(一碗喉吻うるおう)
兩碗破孤悶(兩碗孤悶を破す)
三碗搜枯腸(三碗枯腸をさぐる)、唯有文字五千卷(唯だ有り文字五千卷)
四碗發輕汗(四碗輕汗を發す)、平生不平事(平生不平の事)、盡向毛孔散(盡く毛孔に向かって散る)
五碗肌骨輕(五碗肌骨清し)
六碗通仙靈(六碗仙靈に通ず);七碗喫不得也(七碗吃するを得ざるなり)、唯覺兩腋習習清風生(唯だ覺ゆ兩腋習習として清風の生ずるを)!
後日調べたとことろ、中国・唐代中期の詩人、盧仝(ろ・どう) の「盧仝集」1巻からの引用だと分かった。夜の12時近くまで、お茶と茶器、書と墨絵を語る高尚な会となった。今回は、宇宙を語ることは控えておいた。今回の予想外の出会いは、自分の中で進展しそうな何かを感じた。
あけましておめでとうございます。
2011年謹賀新年
民國100年新年快樂
その帰路に己れを焼きし「はやぶさ」の光輝かに明かるかりしと
(皇后陛下の御歌より)
昨年は「はやぶさ」地球帰還という一大イベントがあり、2001年から関わってきたミッションの最後の場面にも立ち会う機会に恵まれました。「はやぶさ」は地球の一部となりましたが、「はやぶさ」を通して素晴らしい人々との繋がりが生まれました。今年はまず、「はやぶさ」との約束であるイトカワ探査の残された研究課題と、地球再突入光学観測の成果を世に出すことが任務です。また、2008年春に台湾へ渡り携わってきたパン・スターズ(Pan-STARRS)全天サーベイ国際プロジェクトが、ようやく軌道に乗り始めました。台湾の科学研究費を貰って行っていることもあり、成果を出すことが求められています。そして、いよいよ「はやぶさ2」が本格的に始動します。台湾に来て3年目になる2011年は、國語のレベルアップも必須です。台湾は建国100年という節目の年。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
2010年5月21日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)よって打ち上げられた金星探査機「あかつき」は、金星周回軌道へ減速させて投入するため、12月7日8時49分(JST)に軌道制御エンジン(OME)の逆噴射を開始した。しかし、噴射開始から2分23秒後2分32秒(152秒)後に姿勢を崩して(ひっくり返って回転を始めた X軸周りに42度回転)、自動的に噴射を中断しセーフホールドモード*に移行。その結果、当初予定されていた12分間の2割程度しかOME噴射が実施されず、十分な減加速度を得ることができず、金星を通り過ぎてしまった。イオンエンジンを使った「はやぶさ」と違い、ホーマン軌道で惑星へ向う場合、決められた時間と場所で、決められた継続時間だけ加速できなければ周回軌道に入れないという難しさがある。火星探査機「のぞみ」(1998-2003年)が、火星周回軌道に入れなかったリベンジでもあった。
- ※セーフ・ホールド・モード(Safe-hold mode)
宇宙機の安全を最優先とした自律判断で移行するモードで、宇宙機に何らかの致命的な問題が発生したときに、通信などの必要最小限の機器を除き全ての機能が停止状態となり、スピンして姿勢を安定させながら、電力確保のため太陽電池パドルを太陽に向けている状態。 - 以下の記事が詳しい;
- 金星探査機「あかつき」に新情報、燃料タンクの圧力が異常低下していた
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/12/10/planet-c_venus/index.html
- あかつき金星周回軌道投入失敗、12月10日午前11時からの記者会見
http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2010/12/121011-303f.html
しかし、探査機が失われた訳ではなく、6年後に再び金星に接近したときに、金星周回軌道に乗るチャンスがあることが分かった。今回、金星周回軌道に乗ることには失敗したものの、「あかつき」ミッションが失敗に終わった訳ではない。一部の報道では、日本の惑星探査に暗雲の兆しと報じられているが、その解釈は間違っており誤解を生む。単純に比較はできないが、例えば米・旧ソ連が火星を争ったときなどは、およそ30機の探査機が向かい、約20機が失敗している。失敗が許される訳ではない。今回の問題点を解決して、「あかつき」は日本初の惑星周回探査機になって欲しい。また、「あかつき」に搭載されているIR2という赤外線カメラは、黄道面を漂う塵(黄道光ダスト)の観測を行う設計にもなっており(金星の軌道傾斜角が僅かに高いため、黄道面の上から塵の外にでて観測できるメリットがあかつき軌道にある)、金星到着までの間はこちらの観測も行う予定になっている。
さて問題は、これから6年間どうやって探査機を延命させるかだけではない。現在ミッションに携わっている主力は、明らかにポスドクや研究員、あるいは大学院生達である。彼ら彼女らをどうやって継続雇用していくのだろうか? プロジェクトの長期化にともない予算が削減されるのは明白なので、真っ先に首を切られるのはポスドク・研究員達である。「はやぶさ」による小惑星イトカワ探査の時も、ポスドクらが主力となっていた。小生も「はやぶさ・ポスドク」の時は、ロケット打ち上げ後に首を切られ(任期満了で延長契約できず)、欧州で2年間をポスドクとして過ごし、小惑星到着後に再び「はやぶさ・ポスドク」に採用された経緯がある。ミッションの主力でありながら危うい橋を渡っているポスドク達は、まさに探査機と運命共同体なのである。
「あかつき」だけでなく、彼ら彼女らがこれから6年間を生き延びて、再び金星と巡り会えるように応援したい。ファイト!
「あかつき」特設サイト
http://www.jaxa.jp/countdown/f17/index_j.html
- ※ポスドク研究員, Postdoctral fellow
博士号を取得したが、パーマネントな研究職、教育職についていない大学等研究機関の研究員。
追記;
金星通過後の12月9日午前9時頃、「あかつき」は、約60万km(地球と月の距離の1.5倍ほどの距離)から金星を撮影した。「あかつき」が一瞬でも金星探査機になった証拠だ。距離は遠いが見事な画像だけに、金星周回軌道に入れなかったことが悔まれる。「あかつき」が暫しの別れの前に「6年後に再び会おう!」と女神(ヴィーナス)に誓っているような印象を受ける。
「あかつき」金星探査機搭載のUVIカメラ(波長365nm,視野12°x12°)、IR1カメラ(波長900nm,視野12°x12°)とLIRカメラ(波長10μm,視野16.4°x12.4°)画像で撮影した金星。
提供;JAXA
画像は人工的に着色(UVI画像:青色 IR1画像:橙色)
素朴な質問
- IR1カメラで見るリムが二重に見えているのは何故?
- UVIカメラだと金星大気が大きく見えるのは高層大気を観ている?(単に時刻が違うから?)
- 赤外線で金星の雲を通して地形(山脈?)の様子がムラムラと見えているのが凄い!左上の黒い影とか右下の白いスポットとか、ムラムラが何なのかが気になる。
小惑星に由来する物質を地球に持ち帰った世界初の快挙を称えて、 2010年12月2日、内閣府にて、はやぶさプロジェクト(宇宙航空研究開発機構、JAXA)及び約120の企業・大学等から構成された支援チームに、宇宙開発担当相、文部科学相からそれぞれ感謝状が贈呈されました。神戸大学の中村昭子准教授が、(我々)支援チーム代表として賞を頂いたそうです。
私は2001年よりJAXA/ISASにて、はやぶさ搭載機器の開発より携わってきましたが、実際に小惑星に到着した2005年当時は、神戸大学大学院自然科学研究科にポスドクとして所属していましたので、神戸大学チームとして受賞しました。神戸大学は、はやぶさ搭載のLIDAR(レーザ高度計; 小惑星までの距離を測り探査機の位置を計測したり,小惑星表面の粗さ凸凹を調べる装置)のサイエンス代表を向井正教授(現名誉教授)が担当しており(LIDARの開発・工学代表はJAXA/ISAS 水野貴秀教授)、私もLIDARおよび開発より携わってきたNIRS(赤外線分光器; 小惑星表面の鉱物組成を調べる装置; 代表JAXA/ISAS 安部正真准教授)を担当しました。神戸大学が筆頭著者になったLIDAR論文も HAYABUSA SCIENCE特集号(2006年)に出版されています。
神戸大学&会津大学&JAXA/ISAS&NECメンバーで構成されたLIDARチーム。下線は神戸大学関係者。
また、LIDARデータを、NASA惑星科学データシステム PDS(Planetary Data System)準拠に対応させる作業も我々のチームで行い、NASAに無事に受理されて2008年より公開されています。
感謝状。宇宙担当開発相(左)、文部科学省(右)
このような賞を頂けることになったのは、最後まで諦めずに探査機を地球帰還へ導いた「はやぶさチーム」の粘り強い努力と、取得された極微量の塵が小惑星イトカワ由来だと特定したサンプル分析チームの成果によるものだと思います。大変ありがたい賞を頂き、本プロジェクトに携われたことを誇りに思います。この経験が、今後の太陽系小天体探査プロジェクト(ポストはやぶさミッション)へ速やかに繋がり世界をリードし続けると共に、我々が得たモノを次の世代に引き継いで行ける機会が得られることを心より願います。
20年前、小惑星は惑星に成れなかったただの路傍の石ころだと思われていましたが(少なくとも自分はそう思っていた)、最近の研究からは力学的にも物質的にも波乱に満ちた変化を現在も受け続けている、太陽系の太古の記憶を秘めた宝石(ロゼッタ・ストーン)であることが分かってきました。宇宙船での往復技術を手にした我々日本人は、いままさに黄金期を迎えようとしている太陽系大航海時代の先駆者になろうとしているのです。益々の応援をよろしくお願いいたします。
2010年11月20日、台北からチャイナエアーの直行便(成田経由)にてハワイ=Hawaii=夏威夷、ホノルルへ到着した。1年振りのハワイである。
今回のハワイ1ヶ月の出張「プロジェクトX」は、3週間ほど前に急遽決まった。世界で最も権威ある論文誌に我々が発見した小惑星に関する研究論文を、小生が筆頭著者になって昨月投稿した。無事に査読が行われ(この段階で7-8割の論文はリジェクトされ不受理になる)、2週間ほどで3名の査読者(レフリー)らのコメントが返って来た。共著者らとレフリーコメントを精査したところ、頑張れば論文が受理される見込みがあると判断。しかし、作業が込み入っていて追加計算なども必要なことから、第二〜第六共著者がいるハワイ大学・天文学研究所で作業することをハワイの共同研究者から強く薦められ、ハワイ大学(Institute for Astronomy)と台湾國立中央大(Institute of Astronomy)のサポートで1ヶ月間のハワイ出張と相成った。
台湾はジメジメした寒い冬を迎えつつあり、耳石症もまだ治っていなくて目眩が取れないので、ハワイは良い気分転換になるだろうとやってきた。研究はもちろんだが、ハワイにはお楽しみが一杯ある。仕事を開始した昨日の夜は、手始めに夜のムーンライトサーフィンをハワイアン天文学者らと楽しんだ。1年振りの波に揉まれながらの超初心者サーファーだが、夏の大三角とオリオン座を背景に、満月に照らされるダイヤモンドヘッドと足下でキラキラと輝く珊瑚礁に抱かれながら波に漂っているだけで、気分爽快だ!
さて、丘にもお楽しみがないかと検索すると、ホノルル・マラソンなる世界の一大イベントが、12月12日に当地で開催されるではないか!
ということで、10kmも走ったことがない初心者だが、マラソンにも挑戦してみることにした。
自戒も込めて、今回の目標を宣言しておこう。
1)論文のリバイズを完了させて、ハワイを経つ前にサブミットする。
2)ホノルル(フル)マラソンを完走する。
12月17日までハワイにいますので、ホノルルへ来る場合はご連絡くださいませ。
ムーンライトサーフィン。ワイキキビーチの沖合300mほどから、持参した水中カメラで撮影。10名ぐらいのサーファーが波と戯れていた。夜のサーフィンは、丘から恥ずかしい姿を見られなくて良い反面、押し寄せる波が見え難いのでちょっと怖いが、人間の目は感度が良いので、満月で天気が良ければ全く問題ない。前回(昨年)の満月サーフィンは、ドン曇りで波が見えずに怖かった。
共同研究者で、今回小生をハワイへ招待してくれたカナダ人ロブ。太陽系をリードするハワイ大教授だが、元プロ・フットボールプレーヤーでもある巨漢(~195cm)。我々は、体育会系アステロイド・チームである。ワイキキの夜景と満月の背景には、登りつつある冬の星座であるオリオン座が見える。水温はまるで温室プールのようで、冬なのに不思議な気分。
これまでのサンプル回収作業では、直径が0.01mm以下の粒子が大半だったので、ほとんどが打ち上げ前のコンタミだと半分諦めていたところ、なんとその大半がイトカワ起源らしいとの証拠が示されかなり驚きました。分析チームの粘りに感謝します!
これで、詳細分析結果が楽しみになってきた。ハヤブサは、最後まで私達に希望を与えてくれます。
ハヤブサ2への大きな前進となることを願って!
ISASプレスリリース http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2010/1116.shtml
■ JAXA プレスリリース配信サービス
━━━━━━━━━━━━━━━━━ 携帯からは→ http://mobile.jaxa.jp/
はやぶさカプセル内の微粒子の起源の判明について
http://www.jaxa.jp/press/2010/11/20101116_hayabusa_j.html宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、はやぶさ搭載の帰還カプセルにより持ち帰られた、サンプル収納容器(※)からの微粒子の採集とカタログ化を進めています。
サンプルキャッチャーA室から特殊形状のヘラで採集された微粒子をSEM(走査型電子顕微鏡)にて観察および分析の上、1,500個程度の微粒子を岩石質と同定いたしました。更に、その分析結果を検討したところ、そのほぼ全てが地球外物質であり、小惑星イトカワ由来であると判断するに至りました。
採集された微粒子のほとんどは、サイズが10ミクロン以下の極微粒子であるため取扱技術について特別なスキルと技術が必要な状況です。JAXAは、初期分析(より詳細な分析)のために必要な取扱技術と関連装置の準備を進めています。
※サンプル収納容器内部は、サンプルキャッチャーA室及びB室と呼ばれる2つの部屋に分かれています。
添付資料1:はやぶさ帰還カプセルの試料容器から回収された微粒子がイトカワ起源であると判断する根拠
http://www.jaxa.jp/press/2010/11/20101116_hayabusa_j.html#at01添付資料2:掻き出しヘラの電子顕微鏡写真
http://www.jaxa.jp/press/2010/11/20101116_hayabusa_j.html#at02添付資料3:ヘラによるキャッチャーA室掻き出しの様子
http://www.jaxa.jp/press/2010/11/20101116_hayabusa_j.html#at03添付資料4:使用した電子顕微鏡FE-SEM(S-4300SE/N)
http://www.jaxa.jp/press/2010/11/20101116_hayabusa_j.html#at04宇宙航空研究開発機構 理事長談話
http://www.jaxa.jp/press/2010/11/20101116_hayabusa_j.html#at05発表日:平成22年11月16日 発表:宇宙航空研究開発機構
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関連リンク
小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)
http://www.jaxa.jp/projects/sat/muses_c/index_j.htmlはやぶさ、地球へ~帰還カウントダウン~特設サイト
http://hayabusa.jaxa.jp/
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発行:JAXA(宇宙航空研究開発機構)広報部 http://www.jaxa.jp※ ご意見などの受付フォーム http://www.jaxa.jp/pr/qa/inquiry_j.html
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イトカワのミューゼスの海の高解像度写真からは、cmサイズの砂利が敷き詰められていることは分かっていますが、それよりも小さなダストが存在している証拠は見つかっていません。ここで一つの疑問が生じます。ハヤブサ探査機は弾丸を撃っていないのに(打った証拠はない)、大量の微粒子が入っていたということは、イトカワ表面にはミクロンサイズの粒子が付着している、あるいは表面付近に浮遊しているとしか考えられません。10万分の1G(スペースシャトルの内部よりも小さい重力)で微粒子を留めておく力が働いていることになります。
小惑星イトカワ表面のクローズアップ画像 (JAXA/ISAS)
NASAのNEAE探査機が小惑星エロス上で見つけたポンド(砂の池)とか、アポロ宇宙飛行士が月面で見たという月の地平線上に浮かぶ砂嵐とか、未だによく分かっていない静電気力と思われる浮遊ダストや、ダスト移動説を真面目に確かめる必要があるのではないか。。。?
はやぶさ2で小惑星に降ろすローバなどにその機能を持たせることを検討してみる価値はありそうです。
(JAXA/ISAS)
アポロ17号の宇宙飛行士が月面上で見たスケッチ(1972年)。アポロ10号など(恐らく8号、15号でも)同じ現象が目撃されている。太陽が月の地平線に昇る(T=0) 数分前から反射光で光る浮遊ダストと思われる光の帯が目視されている。これらのダストもハヤブサが持ち帰ったダストと同じサイズであると見積もられている。